「税理士損害賠償請求」
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原因・予防策のポイント
【事例83(個人住民税)】
上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用を受けるため、源泉徴収がある特定口座の特定上場株式等の配当や譲渡に係る所得を含めて申告したが、住民税において申告不要制度を選択しなかったため、所得税は還付になったが、住民税及び各種保険料は増加してしまい、かえって不利になってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成X9年及びY0年分の所得税につき、2年分の特定口座年間取引報告書(源泉徴収あり)を受け取り、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除を適用しての申告を依頼された。
その際、住民税については申告不要制度を選択すべきところ、これを失念したため、所得税は還付になったが、住民税及び各種保険料は増額となり、トータルで考えるとかえって不利になってしまった。これにより、過大納付税額につき損害が発生し、賠償請求を受けたものである。
《賠償請求の経緯》
- 平成Y0年10月
関与開始。 - 平成Y1年2月
平成X9年及びY0年分の2年分の特定口座年間取引報告書(源泉徴収あり)を受け取り、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の申告依頼を受ける。 - 平成Y1年3月
平成X9年分の期限後申告書及び平成Y0年分の期限内申告書を上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除を適用して申告。 - 平成Y1年7月
依頼者から住民税や各種保険料等の増加額について問い合わせを受け、住民税について申告不要制度を選択できたことに気づく。 - 平成Y1年8月
依頼者に報告し、賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(措法37の12の2)
上場株式等に係る譲渡損失は、その年分の上場株式等に係る配当所得の金額と損益通算ができ、損益通算してもなお控除しきれない譲渡損失の金額は、翌年以後3年間にわたり、確定申告をすることにより株式等に係る譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得の金額から繰越控除できる。
なお、上場株式等に係る譲渡損失の金額を繰り越す場合には、譲渡損失が生じた年分以後、株式等の譲渡がない場合であっても連続してその繰り越す譲渡損失の金額を記載した確定申告書に、確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」を添付して提出しなければならない。
◆確定申告書を提出していない場合
譲渡損失が発生した年分やその後の年分において確定申告書を提出していない場合には、期限後申告により「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」と確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」を添付して、発生年分から使用年分まで確定申告書を提出すれば、譲渡損失を使用することができる。
◆確定申告書を提出しているが譲渡損失の申告をしなかった場合
譲渡損失が発生した年分において確定申告書を提出しているが譲渡損失の申告をしなかった場合には、所有口座の種類により次のような取扱いになる。
① 特定口座(源泉徴収なし)・一般口座の場合
「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」と確定申告書付表「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用」を添付して更正の請求をすれば、損失があったこととされる。
② 特定口座(源泉徴収あり)の場合
申告するかしないかの選択が可能であり、申告しなかったのは納税者の選択とみなされるため、更正の請求はできない。
◆所得税と異なる課税方式による個人住民税の課税選択
平成29年度税制改正で、特定上場株式等の配当や譲渡(源泉徴収がある特定口座)に係る所得については、平成29年4月1日から所得税と異なる課税方式により個人住民税を課することができることになった。
したがって、特定上場株式等の配当所得等を含めた所得税の確定申告書が提出されている場合であっても、その後に個人住民税の申告において特定上場株式等の配当所得等につき、他の課税方式(申告不要制度、総合課税、申告分離課税)を選択することができる。
具体的には、それぞれの自治体が提供している「特定配当等・特定株式等譲渡所得金額申出書」(自治体により名称は様々である)を住民税の納税通知書送達日までにそれぞれの自治体に提出することとされている。
◆特定上場株式等の配当や譲渡に係る所得
特定上場株式等の配当や譲渡に係る所得は、合計所得金額や総所得金額を構成するため、配偶者控除や扶養控除、住民税の非課税判定等に影響がある。さらに以下の保険料については、これらの所得金額を基に負担額が決定されるため、所得税や住民税の負担額とトータルで有利判定を行う必要がある。
- 合計所得金額で決定されるもの・・・介護保険料
- 総所得金額で決定されるもの・・・国民健康保険料、後期高齢者医療保険料
《税理士の落とし穴》
所得税の還付にのみ気を取られてしまい、保険料等の負担増にまで考えが及ばなかった。
《税理士の責任》
依頼者は平成X9年及びY0年分の上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の適用による申告を税理士に依頼し、2年分の特定口座年間取引報告書(源泉徴収あり)を渡していた。
税理士は、平成X9年及びY0年分の所得税を上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除を適用して申告し、所得税は還付になったが、住民税について申告不要制度を選択しなかったため、住民税及び各種保険料は増加してしまい、トータルで考えるとかえって不利になってしまった。
上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の申告依頼を受けた際に、住民税や各種保険料を含めた有利判定を行っていれば、過大納付税額は発生しなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
税制改正は必ず確認
事故の多くは改正の内容を正しく理解していなかったことにより起きている。改正は毎年必ずあることから、年末に公表される税制改正大綱や、それに関連する定期刊行物の記事等から、主な税制改正項目については把握しておくべきである。その際、関与先ごとに改正による影響がないかどうかを確認したい。本事例で言えば、平成29年の個人住民税の改正を知っていれば防げた事故である。
[ポイント②]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。本事例で言えば、特定上場株式等の配当所得や譲渡所得を計上することによるデメリットを検証すれば防げた事故である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























