「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例71(消費税)】
「課税事業者届出書」を提出すべきところ誤って「課税事業者選択届出書」を提出したため、調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の「簡易課税制度選択届出書」の提出制限(平成22年改正)により「簡易課税制度選択届出書」の提出はなかったものとみなされてしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成X7年3月期から平成X9年3月期までの消費税につき、本来、提出する必要のない平成X5年3月期からの「課税事業者選択届出書」を提出し、平成X5年3月期と平成X6年3月期に調整対象固定資産を購入したため、平成X8年3月期まで原則課税の課税事業者として拘束されることとなった。
それにもかかわらず、平成X5年5月に提出できない平成X7年3月期からの「簡易課税制度選択届出書」を提出したため、届出はなかったものとみなされた。そして、これに気づくまでの3期分を簡易課税で申告してしまったため、原則課税で修正申告することとなり、修正税額につき損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成X2年4月
開業と同時に関与開始。 - 平成X3年3月
平成X3年3月期の課税売上高が1,000万円超となり、平成X5年3月期からの課税事業者が確定。 - 平成X3年5月
本来、「課税事業者届出書」を提出すべきところ、誤って提出する必要のない平成X5年3月期からの「課税事業者選択届出書」を提出。 - 平成X4年11月
機械装置(調整対象固定資産)を購入。 - 平成X5年5月
平成X5年3月期の消費税を原則課税で申告。本来、提出できない平成X7年3月期からの「簡易課税制度選択届出書」を提出。 - 平成X5年12月
車両運搬具(調整対象固定資産)を購入。 - 平成X6年5月
平成X6年3月期の消費税を原則課税で申告。 - 平成X7年5月
平成X7年3月期の消費税を税務署から郵送されてきた簡易課税用の申告書に従って簡易課税で申告。以後平成X9年3月期まで簡易課税で申告。 - 平成Y0年5月
平成X7年3月期からの「簡易課税制度選択届出書」は無効になることに気づき、平成X7年3月期から平成X9年3月期までの消費税については修正申告書、法人税等については更正の請求書を提出。 - 平成Y1年2月
依頼者より上記修正税額につき損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の「簡易課税制度選択届出書」の提出制限(平成22年改正)(消法37③一)
平成22年度の税制改正により、課税事業者となることを選択した事業者が、課税事業者となった課税期間の初日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に、調整対象固定資産の課税仕入を行い、原則課税で申告をした場合には、調整対象固定資産の仕入れ等を行った課税期間から3年間、原則課税の課税事業者として拘束され、「簡易課税制度選択届出書」の提出はできない。
◆「簡易課税制度選択届出書」の提出がなかったものとみなされる場合(消法37④)
調整対象固定資産の仕入れ等を行った場合の「簡易課税制度選択届出書」の提出制限の適用を受ける課税事業者となることを選択した事業者が、課税事業者選択1期目及び2期目において、「簡易課税制度選択届出書」の提出後に調整対象固定資産の課税仕入を行った場合には、「簡易課税制度選択届出書」の提出はなかったものとみなされる。
◆課税事業者選択届出書(消法9④)
免税事業者が、その基準期間における課税売上高が1,000万円以下である課税期間につき、「課税事業者選択届出書」をその納税地を所轄する税務署長に提出した場合には、当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間(当該提出をした日の属する課税期間が事業を開始した日の属する課税期間である場合には、当該課税期間)以後の課税期間については、納税義務は免除されない。
◆課税事業者届出書(消法57①一)
基準期間における課税売上高又は特定期間における課税売上高が1,000万円超となった事業者は「課税事業者届出書」を速やかに所轄税務署長に提出しなければならない。
《税理士の落とし穴》
「課税事業者届出書」を提出すべきところ、誤って「課税事業者選択届出書」を提出して調整対象固定資産の仕入れを行ったため、その後に提出した「簡易課税制度選択届出書」の提出がなかったものとみなされてしまった。
《税理士の責任》
依頼者は資本金900万円で平成X2年4月に設立され、税理士は設立と同時に関与していた。依頼者は設立初年度である平成X3年3月期から課税売上高が1,000万円超となり、平成X5年3月期からの課税事業者が確定していた。しかし、税理士は本来、「課税事業者届出書」を提出すべきところ、誤って提出する必要のない平成X5年3月期からの「課税事業者選択届出書」を提出し、平成X5年3月期と平成X6年3月期に調整対象固定資産の課税仕入を行い、原則課税で申告したため、平成22年改正により、平成X8年3月期まで原則課税の課税事業者として拘束され、「簡易課税制度選択届出書」の提出はできなかった。しかし、平成X5年5月に、平成X7年3月期からの「簡易課税制度選択届出書」を提出したため、提出がなかったものとみなされていた。
税理士はこれに気づかず、税務署から送付されてきた消費税申告書が簡易課税用であったことから、「簡易課税制度選択届出書」は有効に成立しているものと思い込み、平成X7年3月期から平成X9年3月期までの消費税を簡易課税で申告した。しかし、平成Y0年3月期の申告作業時に、「簡易課税制度選択届出書」は無効となることに気づき、平成X7年3月期から平成X9年3月期までの消費税については修正申告書を、法人税等については更正の請求書を提出した。
税理士は、依頼者より、修正申告となったのは、本来、提出する必要のない「課税事業者選択届出書」を提出した税理士の責任であるとして、追徴税額につき損害賠償請求を受けた。正しい届出書を提出していれば、平成22年改正の適用は受けず、修正申告にはならなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント②]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
届出書の提出ミスは消費税に限らず事故に直結する場合が多い。したがって、納税者に税制選択を求める届出書は、事前に十分な説明を行い、その選択を納税者に求め、「意思決定通知書」等文書による証拠を残すことが重要である。
今回のような単純なミスも事故につながるケースがあることから、申告時のような、届出書専用のチェックリストを作成し、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。