「税理士損害賠償請求」
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原因・予防策のポイント
【事例95(相続税)】
障害者控除不足分を兄弟姉妹の相続税から控除できたにもかかわらず、これを失念したまま申告してしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成X0年5月開始の相続税申告において、特別障害者である二男の障害者控除不足分3,500,000円を扶養義務者(兄弟姉妹)の相続税から控除できたにもかかわらず、これを失念したまま申告してしまった。これにより、兄弟姉妹の相続税額につき過大納付が発生したとして損害賠償請求を受けたものである。
《賠償請求の経緯》
- 平成X0年5月
甲(依頼者の実父)の相続開始。 - 平成X0年10月
相続税申告業務を受任。 - 平成X1年3月
長男及び長女に相続税が発生していたにもかかわらず、特別障害者である二男の障害者控除不足分3,500,000円を控除せずに申告。 - 平成Y0年5月
乙(依頼者の母)の相続開始。 - 平成Y1年3月
乙の相続税申告を担当した別税理士が上記ミスに気付き、相続税申告書提出と同時に、更正の嘆願書を提出。 - 令和Z年7月
所轄税務署より、更正の請求の期限徒過のため、更正の嘆願は認められない旨の連絡を受ける。 - 令和Z年9月
依頼者より損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆障害者控除(相法19の4)
相続又は遺贈により財産を取得した者が法定相続人(居住無制限納税義務者に限る)で、障害者である場合には、その者の相続税額から次の算式で計算した障害者控除額を控除した金額をもってその納付すべき相続税額とする。
障害者控除額 = 10万円(特別障害者は20万円)×(85歳 - その障害者の年齢(端数切捨て))
◆控除不足額の取扱い
障害者控除額に控除不足額が生じた場合には、その者の扶養義務者で同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税額から控除することができる。
この場合において、控除を受けることができる扶養義務者が2人以上あるときは、各扶養義務者の控除額は、次の①又は②の金額とされる。
① 扶養義務者の全員が、協議によりその全員が控除を受けることができる金額の総額を各人ごとに配分して定め、当該控除を受ける金額を記載した申告書を提出した場合には、その申告書に記載した金額
② ①以外の場合には、扶養義務者の全員が控除を受けることができる金額の総額を、その扶養義務者の相続税額(未成年者控除後の税額)の比によってあん分して計算した金額
◆扶養義務者(相基通1の2-1)
「扶養義務者」とは、配偶者並びに民法(明治29年法律第89号)第877条《扶養義務者》の規定による直系血族及び兄弟姉妹並びに家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族をいうのであるが、これらの者のほか三親等内の親族で生計を一にする者については、家庭裁判所の審判がない場合であってもこれに該当するものとして取り扱うものとする。なお、上記扶養義務者に該当するかどうかの判定は、相続税にあっては相続開始の時、贈与税にあっては贈与の時の状況による。
◆過去に障害者控除を受けたことがある場合
障害者控除を受けることができる者が、その者又はその扶養義務者について既に障害者控除を受けたことがある場合には、その者又はその扶養義務者が障害者控除を受けることができる金額は、既に控除を受けた金額の合計額が、障害者控除を受けることができる金額に満たなかった部分の金額に限るものとする。
《税理士の落とし穴》
扶養義務者の範囲を両親だけだと思い込み、兄弟姉妹の税額から控除しなかった。
《税理士の責任》
税理士は平成X0年に依頼者の実父の相続税申告業務を受任した。その際、特別障害者である二男の障害者控除不足額3,500,000円が発生していた。相続税額は配偶者が配偶者の税額軽減を使ってゼロであったが、長男は5,000,000円、長女は1,000,000円がそれぞれ発生していた。したがって、長男又は長女の相続税額から二男の障害者控除不足額を全額控除することは可能であった。
しかし、税理士はこれに気付かず、平成Y0年に実母の相続税申告業務を受任した別税理士の指摘により、控除できたことに気付いている。相続税申告書作成時点で、二男に障害者控除不足額が発生していることを伝え、長男又は長女の相続税額から障害者控除不足額を控除していれば、過大納付税額は発生しなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。
本事例は、相続税申告書第6表「未成年者控除額・障害者控除額の計算書」において、「2 障害者控除」の「④控除しきれない金額」欄に正に今回の損害額が記載されていることから、担当者以外の者がチェックすれば防げた可能性は高い。
なお、本事例では問題にはならなかったが、過去に障害者控除を受けたことがある場合の控除額の計算にも注意したい。
[ポイント②]
思い込みに注意する
税理士の思い込みから、適用関係を十分に確認せず、結果として事故になっているものは多い。本事例の場合も、「扶養義務者」の範囲を狭義に解釈したことにより起きている。適用要件はもちろん、その意義についても常に条文で確認するように心がけたい。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























