「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例45(法人税)】
エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却」に該当する太陽光発電設備を設置したが、即時償却の処理をせずに消耗品費で処理したため、税務調査で否認されてしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成27年3月期の法人税につき、「エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却」(以下、「エネルギー設備の特別償却」という)に該当する太陽光発電設備を設置したが、即時償却の処理をせずに消耗品費で処理したため、税務調査で否認されてしまった。これにより、過大納付税額につき賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成16年4月
関与開始。 - 平成27年2月
太陽光発電設備を設置。即時償却が可能であることから、取得価額の全額を消耗品費で処理。 - 平成27年5月
決算処理の際、太陽光発電設備を資産計上せずに、消耗品費のまま処理したため、結果として「エネルギー設備の特別償却」を適用せずに申告。 - 平成28年10月
税務調査にて上記ミスが発覚。 - 平成28年11月
所轄税務署と交渉するも、会計処理ミスのため救済不可確定。 - 平成28年12月
依頼者に報告。損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の特別償却(措法42の5)
青色申告法人が新品のエネルギー環境負荷低減推進設備等の取得等をして、その取得等をした日から1年以内に国内において事業の用に供した場合には、その事業の用に供した事業年度において、特別償却(取得価額の30%)が認められる。また、平成24年7月1日から平成27年3月31日までの期間内に取得等をした太陽光発電設備については、取得価額の全額を償却(即時償却)できる。
◆エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除(措法42の5)
青色申告法人のうち、中小企業者等が、新品のエネルギー環境負荷低減推進設備等の取得等をして、その取得等をした日から1年以内に国内において事業の用に供した場合において、特別償却の適用を受けないときは、一定の金額(基準取得価額の7%。ただし法人税額の20%相当額を限度とする)を法人税額から控除することができる。
◆中小企業者等(措法42の4)
資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(ただし、常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人及び同一の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の2分の1以上を所有されている法人及び2以上の大規模法人に発行済株式又は出資の総数又は総額の3分の2以上を所有されている法人を除く)又は、資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいう。
《税理士の落とし穴》
取得した太陽光発電システムを資産計上することなく、いきなり消耗品費で処理してしまった。
《税理士の責任》
依頼者は平成27年2月に太陽光発電設備を取得しており、「エネルギー設備の特別償却」の適用が受けられた。税理士は、依頼者から太陽光発電設備の取得を事前に聞いており、上記特例の適用を頼まれていた。しかし、太陽光発電設備に「エネルギー設備の特別償却」を適用せず、全額消耗品費とする処理を行ったため、後日、税務調査で否認され、結果的に「エネルギー設備の特別償却」の適用が受けられなくなってしまった。
太陽発電設備の取得時に、資産計上したうえで即時償却の処理を行い、「エネルギー設備の特別償却」の明細書を添付して申告していれば、適用は受けられたことから、税理士に責任がある。
しかし、本件事故により適用できなくなった特別償却は、減価償却費の先取りであり、今後、減価償却費を通じて全額回復することから、税賠保険の対象にはならない。
なお、上記特別償却との選択適用が認められている「エネルギー環境負荷低減推進設備等を取得した場合の法人税額の特別控除」については、損害額は回復しないため、税賠保険の対象となる。
《予防策》
[ポイント①]
思い込みに注意する
本事例は「即時償却が可能であれば、取得価額の全額を消耗品費で処理しても結果は同じである。」との思い込みから生じたものである。特別償却や特別控除には、当初申告の際、申告書に適用金額を記載した場合に限り適用が可能とされる措置が多いことから、適用を受けようとする場合には、適用要件を満たすかどうかの確認を必ず行うこと。
[ポイント②]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。