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被災したクライアント企業への
実務支援のポイント
〔税務面(法人税・消費税)のアドバイス〕
【第1回】
「法人が被災した場合の法人税・消費税における取扱いの概要」
公認会計士・税理士 新名 貴則
震災や水害等によって法人が被災した場合、被災した従業員や取引先等の支援費用、資産の滅失・損壊などによる損失や修繕費用など、臨時的かつ多額の費用・損失が発生することがある。また、被災による混乱のため、そもそも申告や納税を法定期限までに行うことが困難な場合もある。
このような場合においても、法人税や消費税において平常時の取扱いと同様とすることは、法人の復旧の妨げとなる可能性がある。したがって、次のように様々な被災時特有の取扱いが設けられている。なお、これらの詳細については【第2回】以降で順次解説する。
1 申告・納付期限の延長
災害その他のやむを得ない理由により、申告・納税をその期限までにできない場合、次のような期限延長の制度がある。
- 地域指定による申告・納税期限の延長(法人税・消費税を含む国税)
- 個別指定による申告・納税期限の延長(法人税・消費税を含む国税)
- 決算が確定しない場合の法人税の申告期限の延長(法人税)
- 「納税の猶予申請書」による納税猶予(法人税・消費税を含む国税)
2 義援金、災害見舞金等の取扱い
災害が発生した際に、法人が被災した者に対して次のような支援を行うことがある。このとき、一定の要件を満たす場合はこれを寄附金又は交際費等として取り扱わず、損金に算入することができる。
- 被災した従業員等への災害見舞金
- 同業団体への分担金
- 被災者への自社製品等の提供
- ボランティア活動の人件費
法人が被災者に対する義援金を支出する場合は、法人税法上は寄附金として扱い、支出する相手先によって損金算入の取扱いが異なる。
3 取引先に対する支援の取扱い
被災した取引先に対して、次のような支援を行うことがある。このとき、一定の要件を満たす場合はこれを寄附金又は交際費等として取り扱わず、損金に算入することができる。
- 災害見舞金
- 事業用資産の供与又は役務の提供
- 債権の免除
- 低利又は無利息での融資
4 被災した資産に係る損失等
法人が被災した場合、所有する棚卸資産や固定資産に被害が生じ、次のような費用や損失が発生する場合がある。このとき、これが損金に算入されるかどうかについても、災害時特有の取扱いがあるので注意が必要である。
- 固定資産の復旧費用
- 資産の滅失損失、除却損失
- 資産の評価損
5 災害損失欠損金
青色申告書を提出していない事業年度に発生した欠損金については、繰越控除は認められていない。しかし、欠損金額のうちに災害損失欠損金額がある場合は、青色申告書を提出していない事業年度であっても繰越控除が認められる。
6 過去の大規模災害時における特例措置
災害による被害状況が甚大である場合は、特例法や国税庁の個別通達による特例措置がとられることがある。過去には阪神・淡路大震災や東日本大震災の発生時に、震災特例法や個別通達による特例措置がとられた。最近では平成28年4月に熊本地震が発生した際に、「平成28年熊本地震に関する諸費用の法人税の取扱いについて(法令解釈通達)」が公表されている。
災害の規模によって適用される特例措置は異なるが、大規模災害時の主要な特例措置には次のようなものがある。
- 災害損失特別勘定への繰入額の損金算入
- 損壊した賃借資産等の修繕費の損金算入
- 被災者用仮設住宅の設置費用の損金算入
- 被災により代替取得した資産の特別償却
- 特定資産の買換えの場合等の課税の特例
- 圧縮記帳における代替資産等の取得期間の延長
- 震災損失の繰戻しによる法人税額の還付
- 仮決算の中間申告による源泉所得税額の還付
- 中間申告書の提出不要の特例
- 消費税の課税事業者選択届・選択不適用届の提出日に関する特例
- 消費税の簡易課税選択届・選択不適用届の提出日に関する特例
(了)
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