〈一角塾〉
図解で読み解く国際租税判例
【第22回】
「住友銀行外税控除否認事件
-受益者条項からみたケース別否認類型の検討-
(地判平13.5.18、高判平14.6.14、最判平17.12.19)(その1)」
~法人税法69条ほか~
税理士 畠山 和夫
【判決】
- 大阪地裁平成13年5月18日判決(納税者勝訴)(平成9年(行ウ)第47号第48号法人税更正処分取消請求事件)、TAINSコード:Z250-8900
- 大阪高裁平成14年6月14日判決(課税庁勝訴)(平成13年(行コ)第47号法人税更正処分取消請求控訴事件)TAINSコード:Z252-9136
- 最高裁平成17年12月19日上告不受理(納税者敗訴確定)(平成14年(行ツ)第219号)、TAINSコード:Z255-10242
【関連条文】
- 法人税法69条
- 法人税法施行令141条、142条、142条の2、142条の3
- OECDモデル条約11条(利子)
- 日豪租税条約8条(利子)
- メキシコ所得税法166条(源泉税)
※なお、平成13年以降に外国税額控除余裕枠の利用取引を封じるために法人税法69条、同施行令142条の2等が改正された。
※以下、外国税額控除のことを「外税控除」という。
1 はじめに
外税控除余裕枠を利用することを目的とした海外取引について、課税庁から租税回避として否認された事件が昭和63年から平成6年の間に関西系の都市銀行三行(住友、大和、三和の各銀行)(※1)により行われた(以下「三行外税事件」という)。これらの事件は、外国の法人が投資資金移動のための資金貸借契約を行った際、借入法人の所在国がその利払いに対し源泉税を徴収するが、外税控除枠に余裕のある日本の金融機関を介在させてその徴収された源泉税を日本の税源から取り戻すスキームが考案され実行されたものである。このような租税回避的なスキームでは、日本の税源から支払われた外税控除の還付額が日本から海外に流出し、このスキームを仕組んだ外国のアレンジャー、外国の投資会社、日本の金融機関に分け取りされたもので、外国に流出したものは2度と日本の税源に還流することはない。
(※1) 三行はそれぞれ現在の三井住友銀行、りそな銀行、三菱UFJ銀行となっている(以下、略称として「S銀行」、「D銀行」、「W銀行」という)。
上記の三行外税事件に関する判例について、我が国の裁判では日本国内法の法人税法69条等の解釈論として、「課税減免規定の立法趣旨による限定解釈」又はその延長線上の「制度濫用法理」が採用された。
三行外税事件は国際的な租税回避事案でありながら、租税条約や外国の法令違反が問題となり得るにもかかわらず、その裁判所の判断は、納税者、課税庁が行った主張・立証に基づき、我が国の租税法規(法人税法69条等)の解釈に絞って行われた。確かに訴訟手続き上、弁論主義の制約として裁判所は当事者の主張しない事実を判決の資料として採用することができないし(民事訴訟法246条、247条)、また審級上の制約として上告審は法律審として事実に関する審理を行うことができない(民事訴訟法321条)。本件S銀行外税控除否認事件(以下「S銀二事件」という)に関しては、そのような弁論主義や審級上の制約のある判例に対する評価としてではなく、外税控除余裕枠利用スキーム自体の理論的な否認類型を検討するものである。ついては、本稿ではその租税回避のスキームのケースを3つに分けて、できる限り法令の解釈論よりも事実認定を重視し、我が国内法のみならず国際法規(条約や源泉地国法令)も含めて、ケースごとに最適と思われる否認の論理構成を検討したい。
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