〈一角塾〉
図解で読み解く国際租税判例

【第87回】
「オウブンシャホールディング事件
(地判平13.11.9、高判平16.1.28、最判平18.1.24)(その3)」
~法人税法22条2項の「取引」の解釈~
税理士 中野 洋
《(その1)はこちら》
1 はじめに
2 取引の概要
3 本件スキームについて
4 課税処分の概要
《(その2)はこちら》
5 争点
6 当事者の主張
7 第一審の判示
8 控訴審の判示
9 上告審の判示
10 評釈
本件でいう既存株主から移転した価値とは何か。それを「資産」と捉える場合、実現主義による制約を受ける。本件においても、事実上は、含み益に対して課税しているのであるから、それは「資産」であるという理解が一般的ではないか。このような立場からは「株主(旧株主)に帰属していた株式の含み益が株式引受人に移転することになるが、その含み益は、現実に株式を「譲渡」したものではないから未実現ということになる・・・現行の法人税法は、未実現利益に対して課税しないことを前提としていることから、増資時点での旧株主に対する課税は放棄している・・・現行法の下で未実現利益に課税するには、みなし規定か別段の定めが必要であり、そのためには、法改正が必要である。そのような法的手当がない中での課税は、租税法律主義に違背すると考えられる(※5)」という見方になろう。
(※5) 小池正明「旺文社事件/第三者割当による含み益の移動」『租税訴訟第5号』財経詳報社(平24)251~252 頁。
吉村は、本件控訴審判決について「株式の含み益自体が独立して評価し流通することができない以上、本判決のように株式含み益自体を資産と解し難い。それ故、本件株式の含み益のB社への移転が法22条2項の「資産の譲渡」に該当するとした本判決は問題であると言わざるを得ないであろう(※6)」と述べ、本件の株式含み益の移転が「無償による役務の提供」に該当しうるとする。これは「取引の一体的把握を前提として、X社は、その当時自身が発行済株式の100%を所有していたA社の株主総会において・・・決議を承認することによって・・・含み益の一部を自由に使用・収益・処分できる経済的利益を、B社に対して無償で供与したとみることが可能なのではないだろうか(※7)」(下線筆者)というものであるが、既存株主と新株引受人の特別な関係性の存在が、そのような一体的把握の前提となるように思われる。
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