〈一角塾〉
図解で読み解く国際租税判例
【第1回】
「グラクソ事件(最判平21.10.29)(その1)」
~租税特別措置法66条の6、日星租税条約7条1項、ウィーン条約法条約32条~
税理士 中野 洋
◆連載にあたり塾頭から◆
これだけデジタル化が進んだ世の中でありながら、すべての機能が東京に一極集中するのはおかしい。国際課税の分野がまさにそうである。関西、東海にもそうした研究拠点をつくり、現状を変える捨て石たらんと集まったのが、2018年9月に十余名の税理士からなる一角塾である。
国際租税法は1920年代に形成された国際課税の枠組み、道具概念を基底としつつも、経済のデジタル化等による抜本的変化に伴いこれを相対化し、大きく変貌しようとしている。現代は100年前の形成当時の変化に匹敵するほどの新たな革新が求められており、あらゆるレベルで日々新たな知見が創造されている難解な法域である。そうした変革はOECD等を中心とした非国家機関の主導するところであるが、国内の租税判例の中にもそうした変化を読み取ることができる。
我々は、多くの貴重なビジネスモデルが詰まった企業活動の姿の宝庫である租税判例の分析から始めることにした。本連載はこれらの判例を素材に主として租税法理の視点から分析するものであるところ、事件の中にはビジネスの生々しい知恵と汗が凝縮されており、判決文の相当部分が黒塗りで塗りつぶされているものの税以外の経験と知見を多く学ぶことができる。国境を跨ぐ裁判例は国内のそれと比べると必ずしも多くないが、市場の拡大に伴い着実に増加傾向にあり、これを体系的に整理し、データーベース化することが今後の理論と実際に資する所以であると考え、これまでとこれからの塾生の研究成果を連載させていただくことにした。
塾生の成果には熟考を重ねた分析の跡が示されており、読者の理解に資するための数々の創意工夫、とりわけ「図解」にこめられており、この連載の1つの特徴を形作っている。塾生たちは、日ごろの税務に勤しむ傍ら、一角塾の設立趣旨に賛同し、国際課税の研究を志すものであるが、研究者としては未熟であり、分析の誤り、不適切さは不可避とすれば、そうした欠点をどしどしご指摘願いたい。連載作品も1つの学説を構成することに照らせば、たとえ通説から大きく離れる所論であるとしてもこれを尊重すべきことはいうまでもない。
一角塾 塾頭 村井 正
1 事件の背景
本件は、英国における移転価格課税を回避するためにグループ内で行った資金捻出スキームが、日本での租税特別措置法66条の6に規定するタックス・ヘイブン対策税制(以下「CFC税制」)の適用へと発展した事案である。
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