「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例108(相続税)】
相続税の当初申告において取引相場のない株式の評価誤り、非課税となる弔慰金の計上漏れ等があり、別税理士が更正の請求を行ったところ、これらが認められ、過大納付税額は回復したが、別税理士に支払った成功報酬につき損害賠償請求を受けた事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
被相続人甲の相続税申告において、取引相場のない株式の評価誤り(株式交換後の直前期末の資本金等の額の誤記載など)や非課税となる弔慰金の計上漏れ等があり、別税理士が更正の請求を行ったところ、その全てが認められた。
これにより、過大納付税額は回復したが、別税理士に支払った成功報酬(還付税額の50%)につき損害が発生したとして損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成X0年4月
取引銀行の紹介で、別税理士法人が、甲が代表取締役で筆頭株主であるA社とB社の適格株式交換を実施。これにより、B社がA社の100%子会社となる。 - 令和Y年3月
甲の死亡により相続開始。 - 令和Y年3月
相続人乙より相続税申告業務を受任。 - 令和Z年1月
被相続人甲の相続税申告書を所轄税務署に提出。 - 令和Z年8月
別税理士が取引相場のない株式の評価誤り(株式交換後の直前期末の資本金等の額の誤記載など)や非課税となる弔慰金の計上漏れ等を訂正した更正の請求書を所轄税務署に提出。 - 令和Z年10月
更正の請求を認める更正通知書を依頼者が収受。 - 令和Z年11月
依頼者が成功報酬を別税理士に支払う。 - 令和Z年12月
依頼者より上記成功報酬の負担を求められる。
《基礎知識》
◆適格株式交換
適格株式交換の場合、完全親法人における完全子法人株式の取得価額は、株式交換直前の完全子法人の株主数により以下に区分される。したがって、完全親法人の純資産の部は、それぞれの取得価額が増加資本金等となる。
① 50人未満である場合
完全子法人の株主が所有していた完全子法人株式の株式交換直前の帳簿価額に相当する金額の合計額(取得に要した費用を含む)
② 50人以上である場合
完全子法人の株式交換直前の簿価純資産価額に相当する金額(取得に要した費用を含む)
◆純資産価額の計算時期
評価会社が課税時期において仮決算を行っていないため、課税時期における資産及び負債の金額が明確でない場合において、直前期末から課税時期までの間に資産及び負債について著しく増減がないため評価額の計算に影響が少ないと認められるときは、直前期末の資産及び負債を基に、課税時期の純資産価額を計算しても差し支えないこととされている。
◆弔慰金等の取扱い(相基通3-20)
被相続人の死亡により相続人その他の者が受ける弔慰金等については、退職手当金等に該当すると認められるものを除き、次に掲げる金額を弔慰金等に相当する金額として取り扱い、当該金額を超える部分の金額があるときは、その超える部分に相当する金額は退職手当金等に該当するものとして取り扱うものとする。
- 被相続人の死亡が業務上の死亡であるときは普通給与の3年分
- 被相続人の死亡が業務上の死亡でないときは普通給与の半年分
したがって、退職手当金等につきその区分が明らかにされていない場合であっても、上記金額は弔慰金等として退職手当金から差し引いて計算することができる。
《税理士の落とし穴》
適格株式交換の場合、完全子法人株式の受入価額が、株式交換直前の完全子法人の株主数により区分されることを理解していなかった。また、純資産価額の計算や退職手当金等につき有利な方法での評価を怠った。
《税理士の責任》
税理士は、A社とB社の顧問税理士であり、被相続人甲は両社の代表取締役であり筆頭株主であった。平成X0年4月に取引銀行の紹介による別税理士法人の提案で、株価引下げによる相続税対策を主な目的として、A社とB社の適格株式交換を行い、B社がA社の100%子会社となった。
令和Y年3月に代表取締役である甲が死亡し、相続税申告業務を受任した税理士は、A社の株価評価に当たり、完全子法人であるB社の株主が個人株主8名だけであったことから、B社株式の取得価額は、上記①によりB社の株主が所有していた同社株式の株式交換直前の帳簿価額の合計額であるところ、誤って上記②のB社の法人税法上の簿価純資産価額で計算し、A社株式の相続税評価額を過大評価して相続税申告書を提出した。
その後、A社のメインバンクの紹介による別税理士が(イ)A社の相続税評価額を上記①により訂正、これ以外にも、減価償却資産を直前期末で評価しているところを課税時期の残価率表を使用して評価等を行い1株当たりの評価額を30円減額、(ロ)A社の退職金から弔慰金500万円を控除、(ハ)B社の退職金から弔慰金1,000万円を控除して更正の請求を行ったところ、これらが全て認められ、過大納付税額が還付された。そして、成功報酬として還付税額の50%を支払うこととなった。これにより、過大納付税額は回復したが、別税理士に支払った成功報酬につき損害賠償請求を受けた。
当初申告において適格株式交換があった場合の完全子法人株式の取得価額について正しく理解し、弔慰金等をはじめ、納税者有利な方法を選択していれば過大納付税額は発生せず、別税理士に成功報酬を支払うこともなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
保険で補填される範囲を理解する
税理士職業賠償責任保険の主契約で補填される事項には、損害賠償金の他に①弁護士報酬などの争訟費用や、②損害賠償を受ける権利の保全若しくは行使のため、又は既に発生した事故に係る損害の発生・拡大の防止のために支出した費用が含まれる。
本事例の別税理士に支払った更正の請求の成功報酬は、依頼者側が別税理士に依頼したことにより発生した費用である(被保険税理士が支払った費用ではない)ことから、損害防止費用ではなく、本来の損害賠償金と判断される。なお、あまりにも高額な成功報酬は全額保険金支払いの対象とは認められず、適正な対価相当額が限度となる。
[ポイント②]
相続税専門の税理士法人等へのチェック等の依頼
相続税申告は各種財産評価や特例適用可否の判断等、専門性が高く、これを限られた期限までにミスなく行わなければならないことから、これを専門としている税理士法人等も多い。このような税理士法人等には、部分的な業務の受任や申告書のチェック等を請け負うところもあることから、大規模な相続税申告を受任した場合には、複雑な土地の評価や非上場株式の評価、そのチェック等を依頼するのも一考である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























