「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例155(法人税)】
持分の定めのない医療法人であるため、均等割は最低額が適用されるにもかかわらず、過大な均等割を納付し続けてしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
設立事業年度である平成20年3月期から令和6年3月期の法人税につき、持分の定めのない医療法人であるため、均等割は最低額が適用されるにもかかわらず、理事長の基金拠出額を持分と誤認し、過大な均等割を納付し続けてしまった。これにより、県民税均等割額及び市民税均等割額につき過大納付が発生し、損害賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成2年10月
個人事業主である依頼者に関与開始。 - 平成19年10月
依頼者が医療法人社団に法人成り。 - 平成20年5月
平成20年3月期の法人税につき、理事長の基金拠出額を持分と誤認し、県民税均等割及び市民税均等割を過大に納付。以後令和6年3月期まで同様。 - 令和7年5月
依頼者の定款を確認した際、平成19年4月1日以降設立のため、持分の定めのない医療法人であることが判明。 - 令和7年6月
県税事務所及び市役所に令和2年3月期から令和6年3月期の5期分の更正の請求を行う。 - 令和7年8月
県税事務所及び市役所から過大納付税額の還付を受ける。 - 令和7年10月
依頼者に説明。還付不能額について損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆持分あり医療法人の新規設立不可
平成19年の医療法改正により、持分あり医療法人の新規設立が認められなくなった。そのため、平成19年4月1日以降新たに設立された医療法人は、全て持分なし医療法人となる。持分なし医療法人とは、社団法人であり、その定款に出資持分に関する規定がなく、持分が一切ないものを言う。
◆基金拠出型医療法人
平成19年の医療法改正により、医療法人社団は、非営利性の徹底にともない、持分なしの医療法人社団しか設立できなくなったが、持分なしの医療法人社団の活動資金の調達手段として、定款の定めるところにより、基金制度の採用を可能とした。この基金制度を採用した持分なしの医療法人社団を「基金拠出型医療法人」という。
基金とは、持分なしの医療法人社団に拠出された金銭やその他の財産で、当該医療法人が拠出者に対して、定款の定めるところにより金銭の返還義務を負うものである。したがって、基金拠出型医療法人も持分なしの医療法人社団である。
◆法人の均等割の税率(地法52、312)
法人税均等割とは、法人の所得の有無にかかわらず、法人の規模(資本金等の額と従業者数)に基づいて課される法人住民税の一部である。出資持分のない医療法人社団の場合、均等割は最低額(道府県民税2万円、市町村民税5万円)が適用される。
| 法人の区分 | 道府県民税 |
|
イ 公共法人及び公益法人等 ロ 人格のない社団等 ハ 一般社団法人及び一般財団法人(非営利型法人を除く) ニ 保険業法に規定する相互会社以外の法人で資本金の額又は出資金の額を有しないもの ホ 資本金等の額が1,000万円以下であるもの |
年額2万円 |
| 資本金等の額が1,000万円を超え1億円以下であるもの | 年額5万円 |
| 資本金等の額が1億円を超え10億円以下であるもの | 年額13万円 |
| 資本金等の額が10億円を超え50億円以下であるもの | 年額54万円 |
| 資本金等の額が50億円を超えるもの | 年額80万円 |
| 法人の区分 | 市町村民税 |
|
イ 公共法人及び公益法人等 ロ 人格のない社団等 ハ 一般社団法人及び一般財団法人(非営利型法人を除く) ニ 保険業法に規定する相互会社以外の法人で資本金の額又は出資金の額を有しないもの ホ 資本金等の額が1,000万円以下であるもののうち従業者数の合計数が50人以下のもの |
年額5万円 |
| 資本金等の額が1,000万円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人を超えるもの | 年額12万円 |
| 資本金等の額が1,000万円を超え1億円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人以下であるもの | 年額13万円 |
| 資本金等の額が1,000万円を超え1億円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人を超えるもの | 年額15万円 |
| 資本金等の額が1億円を超え10億円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人以下であるもの | 年額16万円 |
| 資本金等の額が1億円を超え10億円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人を超えるもの | 年額40万円 |
| 資本金等の額が10億円を超えるもののうち、従業者数の合計数が50人以下であるもの | 年額41万円 |
| 資本金等の額が10億円を超え50億円以下であるもののうち、従業者数の合計数が50人を超えるもの | 年額175万円 |
| 資本金等の額が50億円を超えるもののうち、従業者数の合計数が50人を超えるもの | 年額300万円 |
《税理士の落とし穴》
平成19年4月1日以降に設立された医療法人であるにもかかわらず、理事長の基金拠出額を持分と誤認し、過大な均等割を納付し続けてしまった。
《税理士の責任》
依頼者は平成19年10月に法人成りした医療法人社団であり、持分なし医療法人であった。税理士は、個人時代から関与しており、法人成りは外部のコンサルタントが行ったが、その後の申告も一貫して行っていた。税理士は、法人成り初年度の平成20年3月期の法人税申告において、依頼者には持分がないため、均等割は最低額が適用されるにもかかわらず、法人成りの際の理事長の基金拠出額3,000万円を持分と誤認し、これにより算出した過大な均等割額を申告し、納付してしまった。そして、その後もこれに気付かず、過大納付をし続けてしまい、令和7年5月に医療法人の定款を確認した際、はじめて上記誤りに気付いている。依頼者が法人成りを行った際に、出資持分について確認を行っていれば、均等割の過大納付は起こらなかったことから、税理士に責任がある。
なお、令和2年3月期から令和6年3月期の5期分については更正の請求により損害額は回復している。
《予防策》
[ポイント①]
平成19年4月1日以降に設立された医療法人の均等割を確認する。
本事例のように、平成19年4月1日以降に設立された医療法人は必ず持分なしの医療法人であることから、均等割は最低額(道府県民税2万円、市町村民税5万円)になる。関与先に本事例と同様の医療法人がないかどうか、確認しておきたい。
[ポイント②]
ダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度申告書自体をチェックすることで防げる。担当者だけのチェックであると、正しく作成したはずであるとの思い込みから、何度チェックしても見落としてしまうことがある。
したがって、担当者以外の有資格者等により、チェックシート等を使用して事務所等内でダブルチェックができる体制を構築しておきたい。
[ポイント③]
担当者の変更
本事例のように、長年にわたって同じミスをしていて、これに気づかず、気づいた時には損害額も多額になっているというケースが多い。このようなケースを想定し、定期的に担当者を変更することによって、新しい担当者が先入観なく一から確認ができる機会を作ることも必要である。
(了)
次回は3/26に公開予定です。























