暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【特別編:第2回】
「分離課税ルート-適用要件と計算」
東洋大学法学部教授
泉 絢也
1 4つの関門
第1回で述べたとおり、今回の改正の中核は、特定暗号資産の譲渡による所得に対する20%の申告分離課税である(措法38の2①)。
ただし、この特例が適用されるのは、次の4つの要件をすべて満たす場合に限られる。
【分離課税の適用要件】
| 内容 | 根拠 | |
|---|---|---|
| 誰が | 居住者又は恒久的施設を有する非居住者 (法人は対象外) |
措法38の2① |
| 何を | 特定暗号資産 | 措法38の2① 前段括弧書 |
| 何をしたか | 譲渡 | 同上 |
| どの経路で | 暗号資産取引業者への売委託、又は暗号 資産取引業者に対する譲渡 |
同上 |
主体の限定は、上場株式等の分離課税(措法37の11①)や先物取引の分離課税(措法41の14①)と同じであり、特に問題は生じない。
実務上の判断を要するのは、残る3つである。
2 何が「特定暗号資産」か
特定暗号資産の定義は、次の4つの層が積み重なった形をとっている(措法38の2①前段括弧書)。
【特定暗号資産の定義の4層】
| 層 | 内容 |
|---|---|
| 第1層 (大前提) |
金商法2条49項に規定する暗号資産であること。ビットコイン、イーサ、ソラナ、リップル等のメジャーな暗号資産はこれを満たすと考えられる |
| 第2層 (基本) |
その名称が、金商法29条の2第1項11号イに掲げる事項として、同法29条の3第1項に規定する金融商品取引業者登録簿に登録されていること |
| 第3層 (除外) |
登録されているものであっても、取引の状況その他の事情を勘案して財務省令で定めるものは除かれる |
| 第4層 (追加) |
上記のほか、「その他の財務省令で定めるもの」も対象となりうる |
実務上は、「国内の暗号資産取引業者(国内取引所)が取り扱っている暗号資産」と理解しておけばよい。
除外の例としては、暗号資産取引業者が業務の一部を廃止して取扱いをやめたにもかかわらず、変更届出を遅滞なく提出していないために登録簿に名称が残っている場合のその暗号資産が挙げられている(財務省「令和8年度税制改正の解説」329頁)。
追加の例としては、暗号資産の技術又は仕様の変更により保有者に新たに付与される暗号資産が挙げられている(同解説329頁)。いわゆるハードフォーク等がこれに当たるものと考える。
もっとも、本稿執筆時点で、対応する財務省令は公表されていない。
注意を要するのが、資金決済に関する法律2条5項の電子決済手段(いわゆるステーブルコインの一部)である。
電子決済手段は暗号資産に該当しないため、これを譲渡しても分離課税の対象にはならない。
他方、特定暗号資産を譲渡して電子決済手段を取得する交換取引であれば、譲渡したものは特定暗号資産であるから、他の要件を満たす限り分離課税の対象となる。
3 「譲渡」であること
分離課税の対象となるのは、特定暗号資産の「譲渡」による所得である。
したがって、マイニング、ステーキング、レンディング、エアドロップ等により暗号資産を取得した場合の所得は、暗号資産の譲渡による所得ではないから、取得した暗号資産が特定暗号資産であっても、また国内取引所を通じて行われたものであっても、分離課税の対象にはならない。
これらは従来どおり総合課税の雑所得(事業として行う場合は事業所得)である。
他方、「譲渡」は法定通貨を対価とする売却に限られない。暗号資産同士の交換も譲渡に該当し、交換時の時価により損益を認識する。この点は改正の前後で変わらない。
「円に換えていないから課税されない」という理解は誤りである。
もっとも、暗号資産同士の交換であっても、次に述べる経路の要件を満たさなければ、分離課税ではなく総合課税の対象となる。
4 経路が課税方式を決める
対象となる取引は、①暗号資産取引業者への売委託(暗号資産取引業者を通じて他の者へ売却する取引。いわゆる取引所取引・板取引)と、②暗号資産取引業者に対する譲渡(業者を相手方とする直接の譲渡。いわゆる販売所取引)の2つである。
海外取引所、DEX、プライベートウォレットを用いた個人間の相対取引(P2P取引)は、いずれもこれに該当しない。
ここから、同じビットコインであっても、どこで売るかによって分離課税と総合課税のいずれになるかが決まるという、経路選択の視点が生まれる。
判定は譲渡時の経路で行われ、取得時にどの経路で買ったかは問われない。DEXで購入した特定暗号資産を国内取引所で売却すれば分離課税、国内取引所で購入した特定暗号資産を海外取引所で売却すれば総合課税である。
改正前に取得した暗号資産であっても、適用開始日以後に国内取引所で売却すれば分離課税となる。
この経路による振り分けが、分離課税と総合課税の二重構造の出発点であり、第3回で扱う「経路選択」の前提でもある。
5 税額はどう計算されるか
分離課税が適用される場合の計算は、次の5つの段階に分けて理解すると見通しがよい。
【税額計算の5段階】
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 事業所得・譲渡所得・雑所得の3類型ごとに所得金額を計算し、3類型間で通算した合計額(特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額)を算出 | 措法38の2①前段、 措令25の15の2① |
| 第2段階 | 前年以前3年内の特定暗号資産に係る譲渡損失を控除 | 措法38の3① |
| 第3段階 | 総所得金額から控除しきれない所得控除の額を控除 | 措法38の2②三 |
| 第4段階 | 特定暗号資産に係る課税譲渡所得等の金額に20%(所得税15%+住民税5%)を適用 | 措法38の2①、地法 附則35の3の6①④ |
| 第5段階 | 配当控除・外国税額控除・住宅ローン控除等の控除不足額を控除 | 措法38の2②四等 |
所得金額そのものの計算は、基本的に所得税法の定めに従う。
取得価額(所令119の6)や評価方法(所令119の2。総平均法又は移動平均法)に関する規定は、分離課税か総合課税かを問わず共通に適用される。分離課税になったからといって計算方法が別物になるわけではない。
分離課税に固有なのは、税率と損失の取扱いである。
なお、税率は復興特別所得税等を含めると20.315%となり、上場株式等(措法37の11)及び先物取引(措法41の14)と同率である。
6 「箱」の中では通算でき、外へは出せない
分離課税に固有の取扱いの第1は、3類型(事業所得、譲渡所得、雑所得)の間で損益を通算できることである。
ある類型で損失が生じた場合、その損失は残りの2類型の利益から控除できる(措令25の15の2①後段)。例えば、事業所得に区分されるビットコインの譲渡損失を、雑所得に区分されるイーサの譲渡益から控除することができる。
総合課税では所得区分をまたぐこのような通算はできないから、これは納税者にとっての利点である。
第2は、その裏返しである。3類型間の通算をしてもなお残る損失は、箱の外へ持ち出せない。
給与所得等の総合課税の所得はもちろん、上場株式等(特定暗号資産ETFを含む)や先物取引(特定暗号資産デリバティブ取引を含む)といった他の分離課税グループの所得とも、損益通算できない。
この遮断は、租税特別措置法38条の2第2項2号の読替え規定と、同条第1項後段の損失を生じなかったものとみなす規定によって実現されている。
【暗号資産の譲渡損失と損益通算の可否】
| 所得区分 | 分離課税ルート | 総合課税ルート |
|---|---|---|
| 事業所得の損失 | 不可 | 可(所法69①。改正前と同じ) |
| 譲渡所得の損失 | 不可 | 不可(所法69②) |
| 雑所得の損失 | 不可 | 不可(もともと所法69①の対象外) |
注目すべきは事業所得の扱いである。
総合課税ルートであれば、暗号資産取引を事業として行う者の損失は給与所得等と損益通算できるのに対し、分離課税ルートではこれができない。「分離課税のほうが常に有利」とはいえない理由の1つである。
なお、損益通算の計算過程から抜き取られるのは、損失だけではない。利益も抜き取られるため、暗号資産以外の事業の赤字が分離課税の暗号資産の黒字に吸収されて損益通算に使えなくなる、という事態は生じない。
7 3年間の繰越控除と連年申告
生じなかったものとみなされた損失も、そのまま切り捨てられるわけではない。
租税特別措置法38条の3は、これを翌年以後3年間にわたり繰り越し、その年の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額から控除することを認めている。2以上の年に生じた損失があるときは、古い年に生じたものから順次控除する(措令25の15の3①一)。
ただし、控除できるのはあくまで翌年以後の特定暗号資産の利益からであって、給与所得等から控除することはできない。
手続要件は厳格である。次の3つを、すべて満たす必要がある(措法38の3③)。
① 損失が生じた年分の確定申告書に所定の明細書を添付して提出すること
② その後、繰越控除の適用を受ける年分まで連続して確定申告書を提出すること
③ 適用を受ける年分の確定申告書に控除額の計算に関する明細書を添付すること
利益が出なかった年も、特定暗号資産の取引を一切行わなかった年も、申告を途切れさせれば繰越控除の権利を失う可能性がある。
しかも、先物取引の繰越控除に関する裁判例(東京高判平成30年3月8日訟月64巻12号1794頁)は、中間年分の申告をしないまま繰越控除を受けようとする年分の申告書を先に提出し、後から中間年分を期限後申告した事案について、繰越控除を認めなかった。やむを得ない事情があれば救済するという宥恕規定も設けられていない。
なお、青色申告であることは要件ではない。この点は上場株式等(措法37の12の2)や先物取引(措法41の15)の繰越控除と同じである。
8 源泉徴収も申告不要制度もない
最後に、上場株式等の実務との違いを2点確認しておきたい。
第1に、特定口座・源泉徴収に相当する仕組みがない。納税者自身が損益を計算し、確定申告を行う必要がある。
もっとも、暗号資産取引業者は、居住者等との間で行った特定暗号資産の売買等について、その翌年1月31日までに特定暗号資産年間取引報告書を所轄税務署長に提出しなければならない(措法38の2④)。
この報告書には、特定暗号資産の種類ごとの譲渡・取得の対価及び数量のほか、移入数量(他の取引所やウォレットからの受入れ)と移出数量(他の取引所やウォレットへの送金)が記載される。課税当局は「年始数量+購入数量+移入数量=売却数量+移出数量+年末数量」の整合性を検証できることになる。
ただし、第1回で述べたとおり、この報告書制度の開始は分離課税本体より1年遅れる。
第2に、申告不要制度がない。
上場株式等では、源泉徴収選択口座内の所得について申告不要を選択すれば、その所得は合計所得金額に算入されない。特定暗号資産にはこれに相当する仕組みがなく、利益は必ず合計所得金額に算入される。
しかも、繰越控除を適用して税額がゼロとなっても、合計所得金額には繰越控除適用前の金額がそのまま算入される(措法38の3④)。
配偶者控除・扶養控除・基礎控除・住宅ローン控除等の適用判定は合計所得金額を基準とするから、税率が20%に下がった分だけ税負担が軽くなるとは限らない。
* * *
次回は、総合課税ルートに残された取扱いと、二重構造が生み出す「経路選択」を扱う。
〔凡例〕
決済・・・資金決済に関する法律
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
措法・・・租税特別措置法
相基通・・・相続税法基本通達
投信法・・・投資信託及び投資法人に関する法律
投信法令・・・投資信託及び投資法人に関する法律施行令
信託業・・・信託業法
金商・・・金融商品取引法
会社・・・会社法
通法・・・国税通則法
改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)
改正地法・・・地方税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第2号)
実特法・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律
実特令・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令
実特規・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令
社債等振替・・・社債、株式等の振替に関する法律
国外送金等調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
国外送金等調書令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
国外送金等調書規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
国税庁FAQ・・・暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和7年12月26日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。






















