暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【特別編:第1回】
「暗号資産の分離課税の全体像」
-令和8年度税制改正-
東洋大学法学部教授
泉 絢也
1 特別編を設ける理由
本連載第38回「10 暗号資産に係る所得を分離課税にしてほしいという改正要望」では、業界団体及び与党プロジェクトチームによる分離課税の要望を紹介したうえで、国会答弁を見る限り「要望が通る道は険しいようである」と述べた。
その後、事態は動いた。
令和8年3月31日、所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号。以下「改正法」という)が成立・公布され、租税特別措置法に、特定暗号資産の譲渡による所得に対する申告分離課税(措法38の2)と、特定暗号資産に係る譲渡損失の繰越控除(措法38の3)が創設された。
20%(所得税15%、個人住民税5%)の比例税率による課税と、3年間の繰越控除である。要望の中核部分は、ほぼ要望どおりの形で実現したことになる。
もっとも、実現したのは「暗号資産一般の分離課税」ではない。
分離課税の対象は、「特定暗号資産」を「暗号資産取引業者を通じて」「譲渡」した場合に限られる。それ以外の暗号資産、それ以外の経路による譲渡、そして譲渡に当たらないマイニング、ステーキング、レンディング、エアドロップ等は、従来どおり総合課税である。
改正後の暗号資産税制は、分離課税と総合課税が併存する二重の構造をとることになった。この点を見落とすと、実務判断を誤る。
そこで本連載では、特別編として3回にわたり改正の全体像を紹介する。
第1回にあたる本稿では、改正に至る経緯と、改正がどの法律のどこを動かしたのかを俯瞰する。第2回では分離課税ルートの要件と計算を、第3回では総合課税ルートに残された取扱いと「経路選択」を扱う。
2 改正に至る経緯 ―「金商法への移管」が扉を開いた
長らく、分離課税の要望に対する政府の回答は否定的であった。
第38回で紹介したとおり、住澤整財務省主税局長は令和4年3月16日の参議院財政金融委員会で、鈴木俊一国務大臣は同年4月13日の衆議院財務金融委員会で、それぞれ、上場株式等の譲渡益等に20%の分離課税が採用されているのは、税制の中立性・簡素性・適正執行の確保に加え、貯蓄から投資へという政策的要請と、一般投資家が投資しやすい税制を構築するという考え方によるものであると説明していた。
そのうえで、暗号資産については、給与や事業で稼いだ者に最大55%の税率が適用されることとのバランスについて国民の理解を得られるか、株式のように家計が暗号資産を購入することを国として推奨することが妥当かといった課題を挙げていた。
この膠着を動かしたのは、暗号資産の規制法上の位置付けを見直すという発想である。
自由民主党デジタル社会推進本部と金融調査会の連名による「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」(令和6年12月)は、暗号資産取引の振興や分離課税への道を拓く観点から、暗号資産の一部を金融商品として法的に位置付け、金融商品取引法の規制対象とすることも考えられるとして、規制法の移管を正面から取り上げた。
考え方はこうである。暗号資産を資金決済に関する法律上の「決済手段」から金融商品取引法上の「金融商品」へと位置付け直せば、同法の規制下にある上場株式やFX取引と課税上の取扱いを揃える道が開かれる。
実態の面でも、国内の暗号資産の口座開設数は1,400万を超え、利用者の取引動機のほとんどは長期的な値上がりを期待したものであるとされており(金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案 説明資料」2頁)、投資対象としての利用実態と規制法上の位置付けとの隔たりは大きくなっていた。
以後の経緯は次表のとおりである。
【分離課税導入に至る主な経緯】
| 時期 | 事項 |
|---|---|
| 令和元年8月 | JVCEA・JCBAが「2020年度税制改正に関する要望書」で分離課税を要望 |
| 令和4年11月 | 自由民主党デジタル社会推進本部 web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」。20%申告分離課税・3年繰越控除・デリバティブ取引の対象化を提言 |
| 令和6年12月 | 自由民主党デジタル社会推進本部・金融調査会「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」。規制法の金商法への移管に言及。同月の与党令和8年度税制改正大綱に「検討事項」として記載 |
| 令和7年6月 | 閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」に分離課税の導入を含む見直しの検討を明記 |
| 令和7年8月 | JVCEA・JCBAが「2026年度税制改正に関する要望書」を公表。金融庁の令和8年度税制改正要望にも分離課税の導入を含む見直しが盛り込まれる |
| 令和7年12月 | 与党の令和8年度税制改正大綱に分離課税の導入が明記され、閣議決定された政府大綱に具体的措置が示される |
| 令和8年3月31日 | 改正法(令和8年法律第12号)成立・公布 |
| 令和8年7月23日 | 金商法等改正法(令和8年法律第64号)公布(同月15日成立) |
3 改正の全体マップ
今回の改正は、租税特別措置法だけの話ではない。所得税法本法から国税徴収法にまで及んでいる。
【令和8年度税制改正における暗号資産関連の改正】
| 法令 | 主な改正事項 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 所得税法 | 暗号資産の定義を金商法2条49項に変更 | 所法2①十六括弧書 |
| 譲渡所得に「暗号資産の譲渡による所得」の区分を新設 | 所法33③三 | |
| 暗号資産の譲渡益から50万円特別控除を排除 | 所法33④⑤ | |
| 暗号資産の譲渡所得を2分の1課税の対象から除外(保有期間の長短を問わない) | 所法22② | |
| 暗号資産の譲渡所得の損失を損益通算から排除 | 所法69② | |
| 租税特別措置法 | 特定暗号資産の譲渡による所得の申告分離課税(20%)の創設 | 措法38の2①~③ |
| 特定暗号資産に係る譲渡損失の3年間繰越控除の創設 | 措法38の3 | |
| 特定暗号資産年間取引報告書の提出制度の創設 | 措法38の2④~⑨ | |
| 先物取引の分離課税の対象に特定暗号資産デリバティブ取引を追加 | 措法41の14①二 | |
| 上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の対象拡大 | 措法9の4の2①二 | |
| ミニマムタックスの基準所得金額に特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額を追加 | 措法41の19②九 | |
| 地方税法 | 個人住民税5%の分離課税 | 地法附則35の3の6①④ |
| 消費税法施行令 | 暗号資産の譲渡を「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」へ再分類 | 消令9①一 |
| 課税売上割合の計算上、譲渡対価の5%相当額を分母に算入 | 消令48⑤ | |
| 暗号資産の貸付け(レンディング)の利用料を非課税化 | 消令10③十一 | |
| 国税徴収法 | 自己管理暗号資産(特定電子移転財産権)の差押手続の整備 | 徴法72①、72の2 |
実務上の関心が集中するのは租税特別措置法38条の2の分離課税であるが、射程がより広いのは所得税法本法の改正である。所得税法本法の改正は、分離課税ルートと総合課税ルートの双方に共通して適用されるからである。
とりわけ、暗号資産の譲渡による所得が譲渡所得に区分されうることが法律上明記された一方で(所法33③三)、その譲渡所得からは50万円の特別控除も2分の1課税も奪われている(所法33④⑤、22②)。
これらは措置法の読替えによるものではなく、所得税法本法そのものの改正によって行われている。したがって、海外取引所やDEXでの譲渡であっても、これらの制限を免れることはできない。この点は第3回で詳述する。
4 3つの柱
改正の中身は、投資形態別に次の3つの柱で構成されている。
【令和8年度税制改正の3つの柱】
| 対象取引 | 課税上の位置付け | 課税グループ | |
|---|---|---|---|
| 柱 ① |
特定暗号資産の現物取引(暗号資産取引業者への売委託又は同業者に対する譲渡) | 申告分離課税を新設 | 特定暗号資産の現物取引グループ (単独) |
| 柱 ② |
特定暗号資産デリバティブ取引 | 既存の先物取引の分離課税に追加 | 先物取引グループ (FX・商品先物等と同一) |
| 柱 ③ |
特定暗号資産ETF | 一部の手当てのみ。個人の譲渡に係る分離課税は今後、措置される可能性 | 上場株式等グループ |
柱①が改正の中核であり、本特別編でも中心的に扱う。
柱②は、新たな分離課税の枠組みを創設するものではなく、既にFX取引や商品先物取引について分離課税が適用されている「先物取引グループ」(措法41の14)に、特定暗号資産を原資産とするデリバティブ取引を追加するものである。
暗号資産デリバティブ取引は、原資産である暗号資産の有用性についての評価が定まっていなかったこと等から、令和2年度税制改正で同特例の対象から明示的に除外されていた経緯があり、今回はその取扱いを覆すものである。
実務上は、暗号資産のデリバティブ取引の損益をFX取引の損益と通算できるようになる点が大きい。
もっとも、対象となるのは、特定暗号資産を原資産とする市場デリバティブ取引と、金融商品取引業者又は登録金融機関を相手方とする店頭デリバティブ取引に限られる。外国市場で行われるものや、特定暗号資産以外の暗号等資産に係るものは、金融商品先物取引等から除外され、総合課税のままである(措法41の14①二)。
柱③は、限られた措置がとられたにとどまる。
閣議決定された大綱は、投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正を前提として、①上場証券投資信託等の償還金等に係る課税の特例の適用対象に一定の投資信託を加えること、②一般株式等に係る譲渡所得等の課税の特例等の対象となる株式等の範囲に特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権を加えることの2つを掲げていた。
しかし、令和8年度税制改正で法制化されたのは①のみである(措法9の4の2①二)。しかも、この特例は内国法人等が支払を受ける収益の分配について源泉徴収を要しないこととするものであり、個人に対する申告分離課税の措置ではない。
個人が暗号資産ETFの受益権を譲渡した場合の課税関係については、上記②が法制化されていない。投資信託及び投資法人に関する法律施行令の改正により暗号資産ETFの組成が認められた場合に、分離課税の適用に関して措置法上の整備的な規定が置かれるかどうかは、現時点では明らかではない。
そもそも暗号資産ETFの組成自体が上記施行令の改正を前提としており、その改正時期も未確定である。
ここで、決定的に重要な点を確認しておきたい。
3つの柱は、それぞれ別個の課税の枠組みであり、柱をまたいだ損益通算はできない。特定暗号資産の現物取引で生じた損失を特定暗号資産デリバティブ取引の利益から控除することはできず、その逆もできない。
もちろん、上場株式等の譲渡益と通算することもできない。「分離課税になったのだから株式やFXと通算できる」という理解は誤りである。
5 いつから適用されるのか
改正規定の適用開始日は、金商法等改正法の施行の日の属する年の翌年1月1日である(改正法附則1十イ・ロ、39①)。
金商法等改正法は令和8年7月23日に公布されたが、暗号資産に係る規制見直しの施行日は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とされており、本稿執筆時点でこの政令は定められていない。
もっとも、公布日が確定したことにより、遅くとも令和9年7月22日までには施行されることとなった。新制度への準備期間を踏まえると令和9年中の施行が見込まれ、その場合、適用開始日は令和10年1月1日となる。
注意を要するのは、関連する制度の適用時期が一律ではない点である。以下、令和9年中に施行された場合を前提に、実務上とくに重要なものを挙げる。
まず、分離課税と繰越控除の本体は、令和10年1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡について適用される(改正法附則39①)。所得税法本法の改正、すなわち暗号資産の定義、譲渡所得の区分、50万円特別控除、2分の1課税及び損益通算に関する改正も、令和10年分以後の所得税について適用される(改正法附則4、6①、7)。
次に、個人住民税は前年課税であるため、その分離課税(5%)の適用は所得税より1年遅れ、令和11年度分以後となる(改正地法附則3十六、11十三)。
さらに、暗号資産取引業者が税務署長に提出する特定暗号資産年間取引報告書の制度も、分離課税本体より1年遅れ、令和11年1月1日以後に行う行為から開始する(改正法附則39②)。
* * *
次回は、分離課税ルートの適用要件と計算を、特定暗号資産の意義と取引経路の限定を中心に取り上げる。
〔凡例〕
決済・・・資金決済に関する法律
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
措法・・・租税特別措置法
相基通・・・相続税法基本通達
投信法・・・投資信託及び投資法人に関する法律
投信法令・・・投資信託及び投資法人に関する法律施行令
信託業・・・信託業法
金商・・・金融商品取引法
会社・・・会社法
通法・・・国税通則法
改正法・・・所得税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第12号)
改正地法・・・地方税法等の一部を改正する法律(令和8年法律第2号)
実特法・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律
実特令・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令
実特規・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令
社債等振替・・・社債、株式等の振替に関する法律
国外送金等調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
国外送金等調書令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
国外送金等調書規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
国税庁FAQ・・・暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和7年12月26日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。






















