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monthly TAX views -No.60-「改めて、消費税軽減税率は廃止を」

筆者:森信 茂樹

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monthly TAX views

-No.60-

「改めて、消費税軽減税率は廃止を」

 

中央大学法科大学院教授
東京財団上席研究員
森信 茂樹

 

新年早々、外食産業の依頼で「消費税軽減税率の課題」と題する講演を行うので、そのための準備をしつつ考えたことを述べてみたい。

2019年10月1日に消費税率が10%に引き上げられる際、軽減税率が導入される。軽減税率の対象は、「酒類・外食を除く飲食料品と新聞購読料(週2回以上発行)」である。

軽減税率導入に伴う問題、とりわけ執行上のさまざまな課題については、安倍総理の2度にわたる消費増税の延期もあり、議論が生煮えのままである。また、「新聞」が軽減税率の当事者であることから、軽減税率導入にマイナスとなるような記事はまず掲載されないという特殊な事情も、そのことに輪をかけている。

そこでこの際、改めて軽減税率の課題・問題点を整理してみたい。

*  *  *

第1に、軽減税率は、政策意義の不明な税制であるということだ。飲食費は高所得者ほど額が大きいので、軽減税率は低所得者より高所得者を優遇する制度である。昨年行われたオランダの総選挙では、「高所得者に有利な軽減税率を引き上げて、その財源で所得税減税を行う」ことを主張した政党が勝利した。

第2に、消費者・事業者・税務当局に多大な執行のコストをかけるということだ。それが引いては国民負担につながる。とりわけ、イートインコーナーのあるコンビニなどでの外食と飲食料品の区分は困難で、敏感なわが国の消費者は戸惑ってしまう。外食か飲食料品かの区分は、英国では温度(ホットフード)で、カナダでは個数(ドーナツ)で区分しており、混乱を避けるためには何らかの外形的な基準が必要になる。

ちなみに、わが国の消費税法では、外食(標準税率)の定義は「その場で飲食させるサービスの提供を行う事業を営む者が、テーブル、椅子その他のその場で飲食させるための設備(飲食設備)を設置した場所で行う『食事の提供』その他これに類するもの」となっている。

第3に、財源の問題が未解決のまま残されている。軽減税率導入に必要な財源は1兆円である。4,000億円は総合合算制度の取りやめで確保されるようだが、残りについては「安定的な恒久財源を確保するため、平成30年度末までに歳入及び歳出上の措置を講じる」ことが法律で義務付けられており、年末までに決める必要がある。

最後に、軽減税率の適用拡大を巡って、利権型政治が繰り返される可能性が高いことも付け加えておきたい。

*  *  *

軽減税率導入に対する代替案は、低所得者への給付を、所得に応じて行うことである。低所得者を3つから4つに区分し、その食料支出分を計算し給付する、「簡素な給付付き税額控除」(実質は給付)で対応は可能である。

この案に対して公明党などは、「正確な所得把握ができていないことが問題」というが、教育の無償化、児童手当、介護保険料など、わが国ではすでに数多くの所得基準の給付や負担が存在している。マイナンバーも導入されており、「正確な所得の把握」ができないことが給付付き税額控除導入反対の理由にはならない。

いずれにしても、軽減税率は、「過ちては改むるに憚ること勿れ」(論語)ということだ。

(了)

「monthly TAX views」は、毎月第1週に掲載します。

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筆者紹介

  • 森信 茂樹

    (もりのぶ・しげき)

    中央大学法科大学院教授
    東京財団上席研究員 「税・社会保障調査会」座長
    ジャパン・タックス・インスティチュート 所長
    法学博士

    1973年京都大学法学部卒業後大蔵省入省、主税局総務課長、大阪大学法学研究科教授、東京税関長、財務総合政策研究所長を最後に2006年退官。2004年プリンストン大学で教鞭をとる。コロンビアロースクール客員研究員。

    【著書】
    ・『税で日本はよみがえる―成長力を高める改革』(日本経済新聞出版社)
    ・『消費税、常識のウソ』(朝日新聞出版)
    ・『日本の税制 ─ 何が問題か』(岩波書店)
    ・『給付つき税額控除 ─ 日本型児童税額控除の提言』(中央経済社)

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