monthly TAX views
-No.1-
「アベノミクス税制改正の評価」
中央大学法科大学院教授
東京財団上席研究員
森信 茂樹
平成25年度税制改正が決着した。
内容を見ると、経済再生を掲げるアベノミクスを後押しする様々な租税特別措置のオンパレードとなっている印象を受けるが、本筋の改正はきちんと評価すべきである。それは、所得税・相続税の負担増を3党合意にそって誠実に実行しているところである。
万人に負担増となる消費税率の引上げの際には、所得・資産について余裕のある者に負担増を求めることは重要なことだ。「所得再分配がきちんと行われ格差の少ない国ほど経済成長率が高い」ということが、IMFなどの実証研究の結果示されている。
今回わが国も、経済成長一本やりの税制改正ではなく、きちんと所得再分配も行っていくという意思表示を示せたことは筋を通したともいえる。
中でも筆者が評価するのは、いわゆる証券優遇税制の廃止だ。
上場株式についての配当と株式譲渡益に10%の優遇税率を課していたが、これを2014年から本則の20%に戻すことを決定した。あわせて、公共債などの利子所得を金融所得一体課税し損益通算の対象とすることと、日本版ISAの創設も決定された。
わが国の個人金融資産1,500兆円を念頭に、個人がリスクテイクを取る環境が整いつつあるといってもよい。
もっとも、疑問もある。
消費税率負担増を緩和するための新規住宅取得や自動車購入者への負担軽減策、資産の孫への移転促進、人件費増加企業への減税など、税の理屈や効果をきちんと検証したうえでの改正なのだろうか、という点である。
とりわけ筆者が気になるのは、住宅取得者への現金給付である。
住宅ローン控除は税額控除なので、所得の比較的少ない人には控除の枠が余ることになる。それを現金給付する方向で検討する(夏までに姿を示す)というのが今回の決定である。これは、逆進性対策として民主党が主張してきた「給付付き税額控除」と極めて似た制度である。
民主党は、所得の捕捉を確実にする番号(マイナンバー)とセットでの導入としていたのだが、自民党ではその点は無視されており、とにかく消費税の負担増分を返すことを最優先している。所得税減税、住民税減税、現金給付という3層構造なのだが、はたして番号なくして適切な執行ができるのだろうか。
このように、極めて多彩な平成25年度税制改正だが、苦言を呈したいのは、議論の透明性の欠如である。
自民党のホームページを開いてみたが、どこにも自民党税調の議事録・議事概要・提出資料などは掲載されていない。わずかに、幹事長の記者会見で言及されるのみである。
われわれ国民は、新聞・テレビの報道を通じてしか議論の中身は知らされなかった。自民党という一政党内部の話だということだろうが、自民党税調は事実上の決定機関である。
昨年末に選挙があって、すぐ税制改正議論に入ったので、政府の方で税制調査会を開催して議論する時間がなかったことも、この不透明性に輪をかけている。
民主党政権下では、連日開かれた政府税制調査会の模様が、インターネット中継され、資料もほぼ即日入手できたことに比べると、このような透明性の欠如は問題だ。来年からは、連日の資料の公表と責任者によるブリーフを公表すべきではないか。
(了)
「monthly TAX views」は、毎月第1週に掲載します。
