暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【第82回】
東洋大学法学部教授
泉 絢也
オ 暗号資産の分散性
暗号資産について、スーパータックスヘイブンとなる可能性を秘めているという見解を示したMarianは、「仲介役の金融機関の不存在」に着目していた(本連載第78回参照)。
通常の銀行取引では、必ず銀行や決済業者などの仲介者が関与し、その記録は中央のサーバーなどで管理される。しかし、ビットコインなどの暗号資産では、こうした中央の管理者や仲介者が存在しない取引が可能になる。
このような特徴は、「中央集権的に運用されるものではない」という意味における暗号資産の分散性と言い換えることができる。
暗号資産の文脈で「分散性」という語が使われる場合、主に次のような側面が含まれる。
- ネットワークが特定の管理者に依存せずに成り立っていること(分散ネットワーク)
- 記録管理が複数のコンピュータ(ノード)に分散されていること(分散記録管理)
- ガバナンス・意思決定も一部において分散されていること(分散ガバナンス)
このような分散性の要素は、伝統的な金融機関に依存しないエコシステムを構築する基盤として機能している。
特に、分散化された運営構造は、国家権力や特定企業による恣意的介入を回避しうる制度的枠組みとして理解されており、その意味では「政治的中立性」、「検閲耐性」といった制度的自律性の確保を志向した仕組みとも理解される。
暗号資産の分散性については、ノードの分布、コンセンサスメカニズムによる合意形成のあり方、意思決定権限の所在など種々の考慮要素を検討する必要がある。
参考として、FSB(金融安定理事会)は、金融サービスの分散化とは、伝統的に金融サービスの提供に関与してきた1つ以上の仲介機関や中央集権的なプロセスの排除又は役割縮小を指し、場合によっては伝統的な仲介業者からのリスクテイクの分散化を意味し、一般に、以下の3つの形態をとると説明している(FSB, DECENTRALISED FINANCIAL TECHNOLOGIES: REPORT ON FINANCIAL STABILITY, REGULATORY AND GOVERNANCE IMPLICATIONS 1-4(2019))。
① 意思決定の分散化
② リスクテイクの分散化
③ 記録管理の分散化
このような分散性は、分散型台帳技術(DLT: Distributed Ledger Technology)に支えられている。
ここでいう「台帳」とは取引記録を管理する帳簿のようなもので、銀行では中央サーバーに保管されている。一方、ブロックチェーンなどの分散型台帳では、全ノードが同じ台帳を持ち、互いに検証し合う仕組みとなっている。
分散型台帳技術により、ノードは、信頼できるデータを得るために、中央集権的な機関に依存することなく、ネットワークのノード全体で一貫した状態変更又は更新を提案、検証、記録することが可能となる(FSB, DECENTRALISED FINANCIAL TECHNOLOGIES, at 26)。
このように、分散型台帳とは複数のノードに分散されたデータの集合体であり、その整合性は分散型台帳を通じて情報を記録する分散型台帳技術によって確保される。
より具体的には、次のような仕組み等で成り立っている。
- 分散型台帳では、合意された方法ないし合意のためのプロセスとしてのコンセンサスメカニズム(例:Proof of Work、Proof of Stake)を通じて、台帳への情報やデータの追加がノードによって承認され、即時的に世界中に存在する(しうる)他のノードに同期する。
- ネットワークは中央集権的機関を介さずに、ピアツーピア(P2P)方式で運営されている。
- ネットワークの運営(と場合によっては意思決定)は、事前に定められたプロトコルやコンセンサスメカニズムを通じて実行され、権限とデータはネットワーク内の多数のノードに分散されている。
このような構造により、分散型台帳は、単なるデータの分散保存ではなく、制度的権力の分散=ガバナンスの脱中心化を可能にする技術であると位置づけられている。
また、このような分散型台帳は、単一障害点の除去、改ざん耐性のほか、実行されたトランザクションやプログラムが公開されることからくる透明性や事後検証の容易さ(暗号資産の追跡可能性・透明性)という種々の利点を有するといわれる(デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会「中間論点整理」(2021)2-3頁)。
これらの点にこそ、暗号資産が金融インフラとしての信頼を得つつも、国家主導の課税・規制システムと構造的に緊張関係に立つゆえんがあるといえる。
ところで、暗号資産の取引については、次のような異なる潮流が観察されている。
多くの利用者は、本人確認を実施し、法定通貨との交換や使いやすいインターフェースを提供するCEXを利用している。これにより、当初の分散性とは裏腹に、中央集権的な仕組みが中核的な役割を果たすこととなった。
他方、暗号資産の利用者の一部は、手元の暗号資産を運用する際にDeFi(分散型金融)を利用している。
DeFiの台頭により、仲介機関を介さない金融取引の仕組みが現実化している。
DeFiとは、スマートコントラクトなどの技術を活用し、誰でも自由にアクセスできるパーミッションレス型のブロックチェーン上で構築された金融サービスである。
ネットワーク上でデータを記録し、共有する分散型技術の1つであるブロックチェーン技術に基づく分散型金融システムでは、仲介者や中央集権化されたプロセスの必要性を低減又は排除したピアツーピア、つまりコンピュータ同士が直接的につながり、データを送受信するネットワークモデルの金融取引が可能となる。
例えば、暗号資産に関わる貸付・借入・保険・資産運用などの金融取引を、銀行などの仲介なしに自動で実行する仕組みが提供されている(DeFiの意義及びDeFi取引の課税関係については、本連載第65回参照)。
つまり、このようなDeFiの出現は、暗号資産が単なる「価値移転手段」にとどまらず、制度的金融インフラの代替物として機能し得る段階に達しつつあることを意味する。その実現には分散性が不可欠な要素として組み込まれており、分散性は理念ではなく、制度技術の中核となっている。
もっとも、分散性が制度的優位性を意味するとは限らない。DeFiには、スマートコントラクトの脆弱性、プロトコル設計の瑕疵、ハッキングリスクなどの構造的課題が存在し、利用者保護や内部統制の不在といった問題も浮き彫りとなっている。
したがって、分散性=透明・公正・安全とは必ずしも直結しないという視点が必要である。
分散性が高まることによって規制回避が容易になり、同時に情報非対称性が拡大するという逆説も内包している。
〔凡例〕
決済・・・資金決済に関する法律
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
措法・・・租税特別措置法
相基通・・・相続税法基本通達
投信法・・・投資信託及び投資法人に関する法律
投信法令・・・投資信託及び投資法人に関する法律施行令
信託業・・・信託業法
金商・・・金融商品取引法
会社・・・会社法
実特法・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律
実特令・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律施行令
実特規・・・租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令
社債等振替・・・社債、株式等の振替に関する法律
国外送金等調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
国外送金等調書令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
国外送金等調書規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
国税庁FAQ・・・暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和6年12月20日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。
























