「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例92(法人税)】
「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」の適用にあたり、雇用者給与等支給額等を誤転記したため、特別控除額を限度額まで適用できなくなってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
平成31年3月期の法人税につき「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」の適用を受けて申告したが、関与先から提供された資料から「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の金額を誤転記したため、結果として特別控除額を少なく申告してしまった。
これにより、法人税等につき過大納付税額が発生し、賠償請求を受けたものである。
《賠償請求の経緯》
- 平成20年4月
関与開始。 - 平成31年3月
平成31年3月期が「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」の適用要件を満たして終了。 - 令和元年5月
上記特別控除の適用を受けるべく関与先より資料を入手。その際、「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」を誤転記して申告。 - 令和2年3月
令和2年3月期が「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」の適用要件を満たして終了。 - 令和2年5月
上記特別控除の適用を受けるべく関与先より前期と同様形式の資料を入手して申告。関与先より「昨年と転記された数字の箇所が違う」との指摘を受け、再確認したところ、平成31年3月期の誤転記が発覚。結果として特別控除額を少なく申告していたことに気付く。 - 令和2年5月
関与先に報告し、賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除(措法42の12の5①②)
青色申告法人が、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、次の要件を満たすときは、「雇用者給与等支給増加額」(給与等支給総額の前年度からの増加額)の15%相当額の税額控除が受けられる。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。なお、中小企業者等については③に該当しない場合でも特別控除の適用が受けられる。
① 雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていること
② 継続雇用者給与等支給額が前事業年度比で3%(中小企業者等は1.5%)以上増加していること
③ 国内設備投資額が当期減価償却費総額の90%(令和2年4月以後は95%)以上であること
◆特別控除の適用要件(措法42の12の5⑤)
「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」は、確定申告書等に特別控除の対象となる「雇用者給与等支給増加額」、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細並びに「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。
この場合において、控除される金額の計算の基礎となる「雇用者給与等支給増加額」は、確定申告書等に添付された書類に記載された「雇用者給与等支給増加額」を限度とする。したがって、更正の請求による「雇用者給与等支給増加額」の訂正は認められない。
《税理士の落とし穴》
「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」の金額を誤転記したため、結果として特別控除額を少なく申告してしまった。
《税理士の責任》
関与先は中小企業者等に該当し、平成31年3月期は「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」の適用要件を満たしていたため、税理士はこの特別控除の適用を受けて申告した。
しかし、関与先から提供された資料から「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」を誤転記したため、「雇用者給与等支給増加額」が本来の金額より少なくなってしまい、結果として特別控除額を少なく申告してしまった。
税理士は、令和2年3月期も上記特別控除の適用要件を満たしていたため、前期と同様の資料提供を受け、これを適用して申告したが、関与先より、「同じ形式で資料を作成しているのに、昨年と転記された数字の箇所が違う」との指摘を受け、再度確認したところ、上記転記ミスが発覚している。
「雇用者給与等支給額」及び「比較雇用者給与等支給額」を正しく転記していれば、特別控除額は当初申告より多く受けられ、過大納付にはならなかったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。
[ポイント②]
税制改正事項については事前に説明を行う
「雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」は平成30年度の税制改正により「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」に改組され、新制度は平成30年4月1日以後開始する事業年度から適用できる。このような適用可能性の高い特別控除の改正は事前に説明を行い、関与先が適用の可否判断を行えるようにしておきたい。
なお、本特別控除のように関与先が所有するデータを適用の可否判定に使用するような場合には、余裕をもって資料の提供を依頼するように心がけたい。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。
















