「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例84(相続税)】
「農地等の納税猶予の特例」の適用を受けて相続税の申告をしたが、宅地の評価誤りにより修正申告となったため、結果として納税猶予額が過少となってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
死亡の日まで農業を営んでいた被相続人の相続につき、農業相続人である依頼者が「農地等の相続税の納税猶予及び免除等の特例」(以下単に「農地等の納税猶予の特例」という)の適用を受けて相続税の申告をしたが、宅地の評価誤りを税務調査で指摘され、修正申告となったため、結果として納税猶予額が過少となってしまった。
これにより、相続税につき過大納付が発生し、賠償請求を受けたものである。
《賠償請求の経緯》
- 平成X0年5月
農業を営んでいた被相続人死亡。 - 平成X0年11月
相続税申告業務を受任。 - 平成X1年3月
依頼者を農業相続人として「農地等の納税猶予の特例」を適用して相続税申告書を提出。 - 平成X2年5月
税務調査により、宅地の評価誤りについて指摘を受ける。 - 平成X2年5月
宅地の評価誤りについて確認。結果として納税猶予額が過少となることが判明。 - 平成X2年5月
依頼者に修正内容及び税額を報告。 - 平成X2年5月
依頼者より賠償請求を受ける。 - 平成X2年6月
相続税の修正申告書を提出。
《基礎知識》
◆農地等の相続税の納税猶予及び免除等の特例(措法70の6)
農業相続人が、農業を営んでいた被相続人から相続又は遺贈により農地等を取得して農業を営む場合には、相続税の期限内申告書の提出により納付すべき相続税額のうち、その申告書に相続税の納税猶予の特例の適用を受ける旨を記載した農地等の価額のうち農業投資価格を超える部分に対応する相続税額は、一定の要件の下に、次の①から③のいずれか早い日まで納税猶予の特例の適用を受けることができ、次の①から③のいずれかに該当する日に免除される。
① 相続税の納税猶予の特例を受けた相続人死亡の日
② 相続税申告書提出期限の翌日から20年を経過する日
③ 特例適用農地等の全部を農業後継者に生前一括贈与した日
◆特例を受けるための手続等
① 相続税の申告手続
相続税の申告書に所定の事項を記載し一定書類を添付して期限内に提出するとともに農地等納税猶予税額及び利子税の額に見合う担保を提供すること。
② 納税猶予期間中の継続届出
納税猶予期間中は相続税の申告期限から3年目ごとに、継続届出書(引き続いてこの特例の適用を受ける旨及び特例農地等に係る農業経営に関する事項等を記載したもの)を提出すること。
◆農地等納税猶予税額の納付
次のいずれかに該当することとなった場合には、その農地等納税猶予税額の全部又は一部を納付しなければならない。
① 特例農地等について譲渡等があった場合
② 特例農地等に係る農業経営を廃止した場合
③ 継続届出書の提出がなかった場合
④ 増担保又は担保の変更に応じない場合
⑤ 生産緑地法の規定による買取りの申出又は指定の解除があった場合等
⑥ 特例の適用を受けている準農地(※)について申告期限後10年を経過する日までに農業の用に供していない場合
(※) 「準農地」とは、農用地区域内にある土地で、農業振興地域整備計画において用途区分が農地や採草放牧地とされているもののうち、10年以内に農地や採草放牧地に開発して、農業の用に供するもの。
《税理士の落とし穴》
宅地の評価が誤っており、修正申告となったため、結果として納税猶予額が過少となってしまった。
《税理士の責任》
依頼者である農業相続人は、農業を営んでいた被相続人から相続により農地等を取得していた。税理士は、「農地等の納税猶予の特例」を適用して相続税申告書を期限内に提出していた。
しかし、税務調査により、宅地等の評価誤りを指摘され、修正申告により納税額が増加したため、結果として納税猶予額が過少となってしまった。当初申告において宅地等の評価を正しく行っていれば、納税猶予額は過少にはならなかったことから、税理士に責任がある。
なお、「農地等の納税猶予の特例」の適用を受け、猶予税額の免除を受けるためには、免除される日まで、申告書の提出期限から3年を経過するごとの日までに「継続届出書」を提出しなければならず、提出しなかった場合には納税猶予が打ち切りとなることから、同様の届出書の提出を保険会社に行う必要がある。
《予防策》
[ポイント①]
チェックリストを活用したダブルチェック体制の構築
申告時のミスは、期中処理と違い、ある程度は申告書自体をチェックすることで防げる。したがって、申告時のチェックリストを作成して、担当者だけでなく、所長税理士又は有資格者等によるダブルチェック体制を構築することが必要である。本事例も、担当者以外の者が再度、申告書をチェックすれば防げた可能性がある。
[ポイント②]
契約書を取り交わす
納税猶予のように業務が長期にわたる場合には、納税猶予専用の契約書を取り交わし、受任範囲を明確にしておく必要がある。その際、届出事項を説明し、届出事項に関する報告を依頼者が税理士に対してすべきことやその報告方法も明記しておくとよい。さらに、依頼者から報告がなかった場合や報告が誤っていた場合の責任についても明記しておけば、その後の賠償請求を回避できる可能性がある。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。























