4 税務調整が必要な試験研究費
次に掲げる項目については、試験研究費の会計上と税務上の処理が異なることがある。
税務調査においても調査項目となることがあるので、注意が必要である。
(1) 製造原価となる研究開発費
会計上、研究開発費はすべて発生時に一般管理費又は当期製造費用として費用処理することとされている(会計基準3、同注2)。一般的な研究開発費は、原価性がないと考えられるため一般管理費として処理し、工場などの製造現場で発生する研究費であっても、製造原価に含めることが不合理であると認められるときは、当期製造費用に算入してはならないとされている(実務指針4)。
一方、法人税基本通達では、試験研究費を基礎研究、応用研究及び工業化研究に分け、そのうち工業化研究に該当することが明らかなものは製造原価に算入し、それ以外のものは、製造原価に算入しないことができることとされている(法基通5-1-4(2))。ここでいう「工業化研究に該当することが明らかなもの」とは、特定の製品の製造に係る研究、採用している製造技術や製法の改良を目的として継続的・経常的に行われる研究が該当すると考えられる。
つまり、工業化研究に該当することが明らかな試験研究費については、会計で費用処理され、税務上は製造原価に算入しなければならず、この部分で税務調整が必要となる。会計上一時の費用として処理された製造原価となる試験研究費は原価差額として税務調整することとなる。
具体的には、その試験研究費を他の原価差額に加算し、その加算後の原価差額がプラスのときは、期末棚卸資産に対応する部分の金額をその期末棚卸資産に加算することとなる(法基通5-3-1)。また、その原価差額を一括して次に掲げる算式により期末棚卸資産に配賦する方法も認められている(法基通5-3-5)。
この税務調整した金額は、損金の額に算入されていないため、控除対象となる試験研究費に含まれないので注意が必要である。
(2) 自社利用ソフトウェアの開発費用
① 税務調整
会計上、ソフトウェアの開発費用のうち、試験研究に該当する部分は、費用処理する(会計基準3)。
一方、法人税基本通達では、ソフトウェアの取得価額に算入しないことができるものとして、研究開発費の額を挙げている(法基通7-3-15の3(2))。ただし、自社利用のソフトウェアの研究開発費の額については、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限られており、それ以外のものはソフトウェアの取得価額に算入しなくてはならないとされている(同括弧書)。
実務上、自社利用のソフトウェアが開発中止になるまでは、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかになることはないため、自社利用のソフトウェアの開発費用の全額がソフトウェアの取得価額とされる。
そのため、自社利用のソフトウェアの開発費用で、会計上、研究開発費として費用処理された部分は、税務調整が必要となる。もっとも、会計監査上、ソフトウェアの資産計上については、厳密な処理が行われているとは言い難く、研究開発費であっても資産計上されている部分が多いように見受けられる。
② 税額控除の対象金額
ここで問題となるのは、上記①の通達によりソフトウェアの取得価額とされた部分が税額控除の対象となる試験研究費に該当するか否かである。
この通達の趣旨は、次のとおりである。
企業会計では、自社利用のソフトウェアは「将来の収益獲得又は費用削減が確実」な場合に限り資産の取得価額とされている(会計基準11)。しかし、その判断が実務上必ずしも明確ではなく、法人の主観性や恣意性が介入する余地があるため、本通達により恣意性を排除している。従って、自社利用ソフトウェアといえども、その開発過程における研究開発を否定しているものではない。
『法人税基本逐条解説(六訂版)』(税務研究会)P550
私見ではあるが、試験研究費がソフトウェアの取得価額となったとしても試験研究であることに変わりはないため、試験研究費として税額控除の対象となる余地があるのではないか。ただし、税額控除の対象となる試験研究費は損金算入されることが条件となっているため、ソフトウェアの取得価額になったときには税額控除の対象とならず、そのソフトウェアが減価償却され損金算入された時点で税額控除の対象になると考えられる。
過去においても試験研究費が法人税法上の繰延資産とされていたときには、法人の選択により繰延資産とすることができた。この場合には、その繰延資産である試験研究費の償却額が、税額控除の対象となる試験研究費とされていたようである。
(3) 特定の研究開発目的の機械装置等
会計上、特定の研究開発目的にのみ使用され、他の研究に使用できない機械装置や特許権等を所得した場合には、取得時に研究開発費として処理することとされている(実務指針5)。
一方、税務上は他に使用ができないものであっても、減価償却資産として実態を備えているものであれば、研究開発用減価償却資産(耐用年数省令別表六)として法定耐用年数で償却する必要がある。そして、その機械装置等が役目を終え除却したときに、未償却残高を費用処理することとなる。
この除却費用が試験研究費に該当するかどうかについては、その除却が試験研究の継続過程において通常行われる取替更新に基づくものであれば試験研究費に含まれ、災害、研究項目の廃止等に基づき臨時的、偶発的に発生するものであれば試験研究費に含まれない(措通42の4(1)-5)。
法法・・・法人税法
法基通・・・法人税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措通・・・税特別措置法関係通達(法人税編)
(例)措法42の4⑫一・・・租税特別措置法42条の4第12項1号
本連載は、税の街.jp「議論の広場」編集会議における議論に基づき作成したものです。
〈税の街.jpはこちら。〉
この税の街.jp「議論の広場」編集会議は、『会社合併実務必携』(法令出版)・『詳解グル-プ法人税制』(法令出版)及び毎年度発行の『税制改正の要点解説』(清文社)の執筆者有志が中心となって構成されたグループです。
当グループは、今後、法人税を中心に、最近の税務の話題、法令解釈に当たって留意点のある事項、実務において誤解されやすい事項、納税者と当局との間の争訟等の事例などを基にして、継続的に議論を行い、その成果をQ&Aとしてまとめていくことを予定していますが、成果の一部について、Profession Journalに連載することとさせて頂きます。
(了)