暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【第53回】
東洋大学法学部准教授
泉 絢也
(6) 受益権と本件持分
ア 概要
- 本信託の受益権(beneficial interest in the trust)は本件持分に分割される。
- 本信託の各本件持分は、本信託の純資産に対する平等な受益権を表しており、各持分保有者は、インカムゲインとキャピタルゲインの分配がある場合にはそれぞれの比例配分額を受け取る権利を有する。
- 本件持分は全額が払込済みのものであり、信託財産の割合的所有権を超えて、信託の費用、負債又は義務に対して持分所有者が個人的に責任を負うことはない。
- どの本件持分も、本信託の他の本件持分に対する優先権を持たない。
- 分配がある場合はすべて、分配の基準日又は信託の終了日に登録されている本件持分の口数に応じて、信託の資産からすべての持分所有者に分配される。
- スポンサーが別途定める場合を除き、持分所有者は、本信託が発行する追加の本件持分その他の証券(any additional shares or other securities issued by the Trust)を引き受ける権利を有していない。
- 受益権等に関して、スポンサーは、受託者又は持分所有者の承認を求めることなしに、独自の裁量で、以下の全権を有する。
① スポンサーが随時決定する本信託の優先権、議決権、権利、義務、特権を設定・設計し、あらゆる方法で変更し、確定すること
② スポンサーの決定するところに従い、本信託の受益権を額面金額の有無にかかわらず無制限の数の持分に分割すること
③ スポンサーが適切と判断する時期及び条件により、附則において定められた制限がある場合はその制限に従って、発行数の制限なく、いかなる者に対していかなる対価においても、本件持分(端数持分を含む)を発行すること
④ 本信託が保有する資産に対する本件持分の受益権の割合を実質的に変更することなしに、本件持分を分割又は併合すること
⑤ スポンサーが望ましいと考える本件持分に関するその他の行為を行うこと
イ 本件持分の発行方式等
- 本件持分の所有権(ownership of Shares)は、本信託、名義書換代理人又は類似の代理人の帳簿に記録される。スポンサーが適宜定める場合を除き、本件持分の所有権を証明する証書が発行されることはない。スポンサーは、本件持分に係る証書の発行、本件持分の譲渡、これらに類する事項に関して、適切と考える規則を定めることができる。
- 場合によっては、本信託、名義書換代理人又は類似の代理人によって保管される本信託の登録簿は、持分所有者の身元及び各自が保有する口数に関して、決定的な役割を果たす。
- 本件持分は、信託契約に従って、記名式(in registered form)で発行される。名義書換代理人は、証書式(in certificated form)の本件持分の名義書換のために登録及び書換代理人として任命されている。
- 名義書換代理人は、登録簿にすべての持分所有者及び証書式の本件持分の所有者の記録を保管する。スポンサーは、信託契約に従って行われた場合に限り、証書式による本件持分の譲渡を認める。そのような本件持分に係る受益権は、DTC(Depositoty Trust Company)の参加者及び/又は口座保有者を通じて振替式(in book-entry form)で保有される。
- 振替式について、本件持分に対して個々の証書は発行されない。本件持分は、1通以上の大券(global certificates)で表章され、名義書換代理人により DTCに預託され、DTCの施設で保管され、DTC のノミニーとしてCede & Co.名義で登録される。大券は、いかなるときでも発行済みの本件持分のすべてを証明するものである。
ウ 本件持分の譲渡方式等
- 持分所有者は、次の者で、本件持分の譲渡の要件を満たしている者に限定される。
① 銀行、ブローカー・ディーラー、信託会社などのDTC参加者
② DTC参加者と直接的又は間接的に保管に係る関係を維持している間接参加者
③ DTC参加者又は間接参加者を通じて本件持分に係る権利を保有する者
- 本件持分はDTCの振替システムを通じてのみ譲渡可能である。
- DTC参加者ではない持分所有者は、本件持分を保有するDTC参加者(又は本件持分を保有する間接参加者その他の事業体)に本件持分の譲渡を指示することにより、DTCを通じて本件持分を譲渡できる。
- 譲渡は証券業界の標準的な慣行に従って行われる。
- DTCでの本件持分の譲渡は、DTCの通常の規則、運営手順及び譲渡の性質に従って行われる。DTCは、DTC参加者のために有価証券(securities)を保有し、電子的方式による口座振替処理を通じてDTC参加者間の取引の清算と決済をファシリテートしている。
(7) 米国連邦所得税の課税関係
ア スポンサーの意図
- スポンサーは、本信託が米国連邦所得税法上、財務省規則301.7701-4条(c)(1)に定義されているインベストメントトラスト(investment trust)として運営され、取り扱われること及び内国歳入法671条~679条に規定されているグランタートラスト(grantor trust)(※)として取り扱われることを意図している。
(※) 内国歳入法上のグランタートラストとは、信託を設定した者であるグランター又は他の所有者が信託の所得や資産について管理又は指示する権限を保持している信託である、米国連邦所得税法上は、信託自体が独立の納税義務者となりうるが、グランタートラストに該当すると、信託の所得はグランター又は他の所有者に課税される(信託に帰属する所得、控除及び税額控除は、その割合に応じて、それぞれの課税所得又は税額控除の計算に含まれる)(IRS(米国内国歳入庁)ホームページ、内国歳入法671条等)。
- 信託契約のすべての条項は、グランタートラストとして扱われるインベストメントトラストとしての地位を本信託が失うことのないように解釈されることを意図している。
- 信託契約その他の契約のいかなる条項も、受託者又はスポンサーに持分所有者の投資を変更する権限(財務省規則301.7701-4(c)、内国歳入法等の類似又は後継の条項の意味における権限)を与えるものと解釈してはならない。
- スポンサーは受託者に持分所有者の投資を変更するような指示を与えてはならない。本信託は、米国連邦所得税法上、本信託がグランタートラスト以外の扱いを受ける可能性がある行為を行ってはならない。
- 本信託は、信託契約に別段の定めがある場合を除き、デラウェア州法により設立される法定信託に対して、現在又は将来施行される法律によって与えられるすべての権限及び特権を行使する権利を有する。
イ 信託課税
- スポンサー及び受託者は、本信託を米国連邦所得税法上のグランタートラストとして扱う。
- Chapman and Cutler LLPの見解では、この点に関する支配的原則(governing authority)がないため疑義がないわけではないが、本信託は米国連邦所得税法上、グランタートラストに分類されるはずである。
- その結果、本信託自体には米国連邦所得税は課されない。その代わり、本信託の収益と費用は持分所有者にフロースルー(flow through)され、受託者は本信託の収益、利益、損失、控除をIRSに報告する。ただし、IRSや裁判所がこれに反する立場をとる可能性もある。
- IRSが本信託はグランタートラストに分類されないという主張に成功した場合、本信託は米国連邦所得税法上、パートナーシップに分類される可能性が高く、持分所有者への課税時期その他の課税関係に影響を及ぼす可能性がある。
- 本信託が連邦所得税法上、上場パートナーシップに分類されて、通常の法人と同様の課税に服し、本信託の収益から持分所有者への分配が通常の配当所得として持分所有者に課税される可能性もある。
ウ 米国持分所有者に対する課税
《米国持分所有者》
- 米国持分所有者(U.S. Shareholder)とは次に掲げる持分所有者である。
① 米国の連邦所得税法上、米国の市民又は居住者として扱われる個人
② 米国、米国のいずれかの州又はコロンビア特別区の法律に基づいて設立又は組織された法人(又は米国連邦所得税法上、法人として扱われる事業体)
③ 米国連邦所得税法上、その源泉に関係なく総所得に含まれる遺産
④ 米国内の裁判所が信託の運営について第一義的な監督権限を行使することができ、かつ1人以上の米国人が信託のすべての重要な意思決定を管理する権限を有している場合の信託又は適用される財務省規則に基づき国内信託として扱うことを有効に選択した信託
《収入・費用等》
- 米国持分所有者は、米国連邦所得税法上、本信託が保有する原資産に対する割合的持分を直接所有しているものとして取り扱われる。
- 米国持分所有者は、本信託の収入について、各比例配分額を直接受領したものとして取り扱われ、本信託の費用について、各比例配分額を直接負担したものとして扱われる。
- 本信託が保有するビットコインは、本信託の特定の費用の支払のために使用される場合があり、これは現在のIRSのガイダンスによれば、当該ビットコインを売却したものとして扱われる。
《ビットコインの売却等》
- 本信託が、費用を支払うための現金を手に入れるためにビットコインを売却した場合又は費用を支払うためにビットコインを使用し、これが売却として取り扱われた場合には、米国持分所有者は、売却により本信託が実現した金額の比例的配分と、売却されたビットコインのその比例的配分に対応する持分所有者の取得価額との差額相当額の損益を認識することになる。
- 売却されたビットコインに対応するその者に係る取得価額は、一般に、売却直前に本信託が保有していたすべてのビットコインに対する取得価額の合計額に、分子を売却されたビットコインの数量、分母を売却直前に本信託が保有していたビットコインの総数量とする分数を乗じて決定される。
- 付随的権利等(本連載第52回参照)の売却代金に係る分配は、その者にとって通常所得を発生させる課税イベントである。
《本件持分の譲渡》
- 米国持分所有者が本件持分の全部又は一部を売却した場合には、その者は、売却した本件持分に帰属する、売却時に本信託が保有していたビットコインの比例的配分の全部又は一部をそれぞれ売却したものとして扱われる。
- 米国持分所有者は、通常、本件持分の売却により実現した金額と、売却時に本信託が保有していたビットコインの比例的配分のうち売却された本件持分に帰属する部分に対応するその者の取得価額との差額相当額の売却損益を認識することになる。
- 現在のIRSガイダンスによれば、このような利益又は損失(及び本信託がビットコインを売却したことにより米国持分所有者が実現した利益又は損失)は、一般に、持分所有者における売却されたビットコインの比例的配分に係る保有期間が1年超であるかどうかによって、長期又は短期のキャピタルゲイン又はキャピタルロスとなる。
- 償還された本件持分が表す原資産であるビットコインと引き換えに、本件持分の全部又は一部を償還することは、通常、米国持分所有者にとって課税イベントとはならない。
(8) 非米国持分所有者への課税
- 米国持分所有者に該当しない持分所有者を非米国持分所有者(Non-U.S. Shareholder)という。
- 非米国持分所有者は、通常、本件持分の売却や処分又は本信託によるビットコインの売却や処分によって認識される利得に関連して、米国連邦所得税を課税されない。ただし、次の場合にはこの限りではない。
① その者が個人であり、売却や処分に係る課税年度中に183日以上米国に滞在し、その利益が米国源泉によるものとして扱われる場合
② その利得が、その者による米国内における事業の遂行と実質的に関連しており、他の要件を満たす場合
- 非米国持分所有者は、現金であるか、現物であるかを問わず、本信託から受け取る分配金に関して、通常、米国連邦所得税又は源泉所得税が課されることはない。
- 非米国持分所有者が受け取る又は受け取ったとみなされる米国源泉のFDAP所得(Fixed or Determinable Annual or Periodical Income:定期定額所得)は、米国での事業と実質的に関連しているとみなされる所得に該当しない限り、30%の源泉所得税が課されるのが通常であるが、租税条約等により減免される可能性もある。
- この点に関するガイダンスはないものの、フォーク、エアドロップ又は同様の事象の結果、 非米国持分所有者が認識した通常所得は上記のFDAP所得に該当すると解されるが、米国内源泉所得として扱われるか、米国外源泉所得として扱われるかどうかは明らかではなく、スポンサーを含む源泉徴収義務者は30%の税率で源泉徴収する可能性が高い。
- ただし、 非米国持分所有者の居住地国が本信託を課税上透明な(fiscally transparent)ものとして扱う場合には、 非米国持分所有者は、上記源泉所得税が減免等される恩典を請求できる可能性がある。
(9) 米国における情報申告とバックアップ源泉徴収
- 受託者は、本信託に関連して、IRSに所定の情報申告を行うとともに、持分所有者に対して所定の税務情報を提供する。
- 適用される法令で義務付けられている範囲内において、各持分所有者には、本信託の年間の収益、費用、もしあれば利得及び損失の割当額に関する情報が提供される。
- 米国持分所有者は、納税者番号を提供し、所定の証明手続きに従わない限り、特定の状況下で、税率24%の米国のバックアップ源泉徴収税が課される可能性がある。
- 非米国持分所有者は、特定の情報申告義務や源泉徴収義務を回避するために、所定の手続きを踏み、米国人でないことを証明しなければならない場合があり、一部の者は、外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act)により課される特定の情報申告や証明の要件を満たさなければならない。
〔凡例〕
決済・・・資金決済に関する法律
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
措法・・・租税特別措置法
相基通・・・相続税法基本通達
投信法・・・投資信託及び投資法人に関する法律
投信法令・・・投資信託及び投資法人に関する法律施行令
国外送金等調書法・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律
国外送金等調書令・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行令
国外送金等調書規則・・・内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律施行規則
国税庁FAQ・・・暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和5年12月25日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
この連載の公開日程は、下記の連載目次をご覧ください。





























