「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例40(贈与税)】
代表者及びその配偶者が所有する同族会社債権を放棄させたため、同族会社の株主間で株価上昇分の価値の移転が発生し、みなし贈与となった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
税理士の主導により、同族会社の代表者の相続税対策及び同族会社の財務体質改善のため、代表者(以下甲という)及びその配偶者(以下乙という)が所有する同族会社債権を放棄させた。これにより、同族会社の株主間で株価上昇分の価値の移転につきみなし贈与が発生した。
しかし、実際には甲に相続税はかからず、また、同族会社も休業状態となったことから、これらの債権放棄は、贈与税を負担してまでも行う必要がなかった。したがって、債権放棄に係るみなし贈与により負担した贈与税270万円につき損害が発生したとして賠償請求を受けた。
《賠償請求の経緯》
- 平成X4年6月
甲の相続税の試算の依頼を乙より受ける。 - 平成X4年11月
甲の相続税の試算結果を、乙に報告。 - 平成X5年3月
甲が同族会社に対する債権2,200万円を放棄。これにより、株価が上昇し、乙に40万円のみなし贈与税が発生。 - 平成X6年3月
甲が同族会社に対する債権1,300万円を放棄。これにより、株価が上昇し、乙にみなし贈与が発生。ただし、相続開始年分の被相続人からの贈与のため、贈与税はかからず。 - 平成X6年3月
乙が同族会社に対する債権2,300万円を放棄。これにより、株価が上昇し、甲に230万円のみなし贈与税が発生。 - 平成X6年11月
甲死亡(相続開始)。 - 平成X7年3月
甲の相続税の計算過程で、みなし贈与が発覚。 - 平成X7年6月
平成X5年分の贈与税を期限後申告。税理士が贈与税を負担。 - 平成X7年8月
相続税及び平成X6年分贈与税準確定申告を行う。税理士が贈与税を負担。
《基礎知識》
◆同族会社に対する債権放棄とみなし贈与(相法9、相基通9-2)
同族会社に対して、株主等から債権放棄、資産の無償又は低額譲受け等があったことにより、その同族会社の株式又は出資の価額が増加した場合には、債権放棄等を行った者から、他の株主に、その株式の価額の増加分に相当する利益の供与があったものとして、贈与税が課税される。
《税理士の落とし穴》
債権放棄により同族会社の株主間にみなし贈与課税の問題が発生することを理解していなかった。
債権放棄によって相続税の軽減を図る場合には、相続税のみならず、受贈益に対する法人税課税のほか、他の株主に対する贈与税や所得税の課税関係についてもあらかじめ確認し、依頼者に説明しておく必要があったが、これを怠った。
《税理士の責任》
甲は自身が120株(議決権割合60%)、乙が80株(議決権割合40%)を所有する同族会社の代表取締役であった。甲は平成X3年に体調を崩し、平成X5年頃から寝たきりの状態となった。同族会社はホテル業を営んでいたが、売り上げの低迷により、近年は赤字続きであった。
税理士は、甲の相続税対策及び同族会社の財務体質改善のため、平成X5年3月期には甲の同族会社に対する貸付金2,200万円、平成X6年3月期には甲の同族会社に対する貸付金等1,300万円及び乙の同族会社に対する貸付金等2,300万円を放棄させた。しかし、これにより、平成X5年には甲から乙に、平成X6年には乙から甲に、株主間におけるみなし贈与税が発生した。
甲の債権放棄は相続財産を減少させるうえで一定の効果はあったものの、債権放棄をしなくても、相続税はかからなかった。また、乙の債権放棄も、同族会社が平成X7年から休業状態となったことから、贈与税を支払ってまで行う必要はなかった。
したがって、これら一連の取引は税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
贈与税が課税されるケースがあることをきちんと説明する
同族会社における債権放棄は、債権放棄等を行った者から、他の株主に、その株式の価額の増加分に相当する利益の供与があったものとして、贈与税が課税されるケースがあることを念頭に、同族株主全員で話し合い、同族株主間で贈与の問題が発生しないように、歩調を合わせて行う必要がある。
1人の同族株主が単独で債権放棄等を行う場合には、他の同族株主に贈与税が発生するケースがあることを十分説明し、事前に了解を得ておく必要がある。
[ポイント②]
文章等による証拠を残す
十分な説明を行った場合でも、依頼者から説明を受けていないとして、損害賠償請求される場合もある。
そこで、将来紛争になった場合に、必要な説明を行ったことを証明できるように、メール、FAX等文章による証拠を残しておくことが重要である。
(了)
「「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント」は、毎月第4週に掲載されます。
















