相続税の実務問答
【第22回】
「遺産分割が調ったことによる相続税額の調整
(相続人間で調整をする場合)」
税理士 梶野 研二
[問]
昨年2月に父が亡くなりました。相続人は、私と姉の2名です。相続税の申告書の提出期限までに遺産分割協議が調わなかったことから、法定相続分(各人2分の1)により財産を取得したものとして相続税の期限内申告書を提出しました。
その後、姉と遺産分割協議を進め、今年の3月末に合意に至り、遺産分割協議書を作成することができました。遺産分割の結果、母の介護を行っていたことなどを勘案して私が遺産の5分の3相当額を、姉が5分の2相当額を取得することとなりました。
ところで、姉の取得財産の価額は、法定相続分である2分の1相当額よりも少なくなりますので、姉は相続税の更正の請求をすることができるのですが、遺産分割協議の際に、手続きが煩瑣なので姉は更正の請求を行わず、更正の請求をしたならば還付されることとなる相続税相当額を私から姉に支払う旨合意しました。なお、遺産分割協議書にその旨の記載はありません。
私が、姉に還付される見込みだった相続税相当額を支払った場合に、私から姉に贈与があったものとして、姉に贈与税が課税されることとなりますか。
[答]
相続税の申告書の提出期限において、遺産が未分割であったため、法定相続分に従って遺産を取得したものとして相続税の申告をしていた場合に、その後の遺産分割により、法定相続分よりも少ない財産しか相続しないこととなり、遺産分割の結果に基づいて計算した相続税額が、当初申告において計算した相続税額よりも少なくなるときには、相続税の更正の請求を行うことにより、差額の相続税額の還付を受けることができます。
しかし、更正の請求をせずに、更正の請求をしたならば還付されることとなる相続税額相当額を相続人間で授受することにより相続税の負担額を精算した場合に、それが遺産分割協議の際の相続人間の合意によるものであると認められるならば、遺産分割の1つの方法である代償分割に基づく金銭の授受が行われたものと解するのが相当であることから、贈与税が課税されることはありません。
● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ●
1 未分割遺産が分割された場合の相続税額の是正手続
相続税の申告書の提出期限までに、共同相続人間で遺産の分割がされなかった場合には、各共同相続人が民法に規定する相続分の割合(法定相続分)に従って遺産を取得したものとして、課税価格を計算して、相続税の申告をすることとされています(相法55)。
その後、遺産の分割が行われ、遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した場合の課税価格よりも小さくなった相続人は、遺産分割の結果に従って相続税の額の再計算をし、これに基づいて更正の請求をすることができることとされています(相法55ただし書き、32①一)
この更正の請求を行うかどうかについては、遺産分割により取得した財産の額を基に計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した課税価格よりも少なくなる相続人の選択に委ねられています(詳細については前回参照)。
2 遺産分割に伴う相続税額の調整を相続人間で行った場合
申告書の提出期限において、遺産が分割されていなかったことから、法定相続分に従って課税価格の計算をして相続税の申告が行われた場合において、その後、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した相続税の課税価格より小さくなったことから、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となったときに、相続税の更正の請求せずに、何ら負担調整をすることなく相続税の課税を終了させたとしても、贈与税の課税問題が生じることはありません(詳細については前回参照)。
それでは、遺産分割がされ、遺産分割によって取得した財産の額を基に再計算した相続税の課税価格が、法定相続分に従って遺産を取得したものとして計算した場合の相続税の課税価格より大きくなり、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過少となる相続人から、既に行った申告に係る課税価格及び相続税額が過大となる相続人に対して、相続税法第32条の規定による更正の請求を行ったならば還付されることとなった相続税相当額を、直接、交付した場合には、新たな課税問題が生じることとなるのでしょうか。
この点については、次のように考えられます。すなわち、相続税の負担額を調整するために相続人間で一定の金額を授受することまで織り込んで遺産分割が行われたならば、そのような合意は遺産分割の1つの方法である「代償分割」と捉えることができると思われます。そのことが遺産分割協議書に謳われている場合はもとより、遺産分割の合意は必ずしも書面によることが要件とはされていないことからすると、遺産分割書にその旨の記載がないとしても、遺産分割の際になされた合意に基づいて、相続税の負担調整を相続人間の一定の金員の授受という形で行うこととなったことが認められるならば、当該合意により授受される金員は、贈与による金員の授受とはなりませんので、贈与税の課税問題は生じないと考えられます。
3 ご質問の場合
遺産分割の結果、取得した財産の価額が法定相続分相当額よりも少なくなったお姉様は、相続税の更正の請求をすることができ、この更正の請求に基づいて相続税の減額更正が行われるときには、併せて、あなたに対して、相続税の増額更正がされることとなります(増額更正の前に、あなたが修正申告書を提出することもできます)が、このような煩瑣な手続きを経ることなく、お姉様が更正の請求をしたならば減額された相続税相当額を、あなたからお姉様に支払うことを遺産分割協議の際に合意していたのであれば、この金員の授受は贈与と認定されず、お姉様に贈与税が課されることはありません。
〔凡例〕
相法・・・相続税法
相令・・・相続税法施行令
相規・・・相続税法施行規則
相基通・・・相続税法基本通達
所基通・・・所得税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措通・・・租税特別措置法関係通達
通法・・・国税通則法
(例)相法27①・・・相続税法27条1項
(了)
「相続税の実務問答」は、毎月第3週に掲載されます。






















