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[無料公開中]相続税の実務問答 【第2回】「遺産の内容が分からない場合の相続税の申告」

筆者:梶野 研二

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相続税実務問答

【第2回】

「遺産の内容が分からない場合の相続税の申告」

 

税理士 梶野 研二

 

[問]

母が半年前に亡くなりました。相続人は、姉と私の2人だけです。母と同居して、長年、母の身の回りの世話をしてきた姉が母の財産のすべてを管理していましたが、これまで私は姉と仲が悪かったこともあり、遺産の内容を教えてもらうことができませんし、遺産分割の協議をすることもできません。

母が居住していた建物とその敷地は母のものであり、この建物と土地だけでも5,000万円を超える価値があると思われますので、相続税の申告が必要だと思われますが、その他の財産がどのくらいあるのか分かりません。

このような場合、どのようにして申告をしたらよいのでしょうか。

[答]

遺産の全容が明らかでない場合であっても、相続税の申告義務があると認められるときには、相続の開始したことを知った日から10ヶ月以内に、遺産の把握に努め、できる限り真実の遺産内容を反映した相続税の申告をし、算出された税額を納付しなければなりません。

相続税の申告期限までに申告・納付をしなかった場合には、無申告加算税や延滞税が課されることとなります。

●  説 明 ●

1 相続税の計算の仕組み

わが国の相続税は、法定相続分課税方式を導入した遺産取得課税方式、すなわち、被相続人の財産の総額(債務がある場合には債務の金額を控除した金額)を基に、民法に定める各相続人が民法に定める相続分に応じて被相続人の財産を相続したものと仮定して相続税の総額を計算し、それを各相続人の取得財産の価額に応じて按分して、各相続人の相続税額を算出するという方法を採用しています。

したがって、相続財産の全容が明らかにならない限り、正しい相続税額の計算はできないこととなります。

 

2 財産の全容が分からない場合

(1) 相続税の期限内申告の義務

相続税の申告期限までに遺産分割が整わない場合には、共同相続人が法定相続分で相続をしたものとして相続税の計算をすることになります(相法55)。

しかし、相続人間で、遺産の分割について争いがあり、被相続人と同居していた相続人が遺産の全部又は一部について明らかにしてくれない場合、あるいは、1人暮らしだった被相続人の生前の生活状況が不明で財産の所在等を確認することができない場合など、相続税の計算に必要な遺産の全容が把握できないケースや、相続税の課税価格に加算される相続開始前3年以内に被相続人から相続人に対して行われた贈与(相続時精算課税を選択している場合には、相続時精算課税を選択してから後の被相続人からのすべての贈与)の有無を確認することができないケースがあります。

このような場合であっても、相続税法には、申告の猶予を認める規定は設けられていません。したがって、相続人は、被相続人の財産債務について調査をし、相続税の納税義務があると認められた場合には、相続税の申告期限内に相続税の申告をしなければなりません。

(2) 期限内に申告・納付しなかった場合

相続税の申告期限までに、申告や納付がなされなかった場合には、原則として無申告加算税が賦課され、また、延滞税が発生することになります。

相続税の申告期限までに申告をしなかったことに、正当な事由があった場合には、加算税は賦課されませんが、相続税の申告期限までに遺産の全容が明らかにならなかったとしても、その時点で判明している遺産の額が相続税の基礎控除額を超えることが認識されていた場合、あるいは相続人として当然に行うべき努力をしたならば、遺産の額が基礎控除額を超えることが判明したと認められるような場合には、「正当の事由」が存するとは認められません。

この点に関し、次の判決が参考になります。

【参考】
平成5年11月19日大阪高等裁判所判決(行政事件裁判例集44巻11・12号)

納税者が相続財産の全容を把握するため、種々の調査をし、情報入手の努力をした結果、相続財産の一部のみが判明し、その部分だけで遺産に係る基礎控除額を超える場合には(したがって、その努力をしなかった場合には、以下の申告方法を安易に許すべきではない。)、判明した相続財産につき、とりあえず自主的に申告しなければならず、これにより相続税の納税義務を確定させるべきであり、残余の相続財産が後日判明したときは修正申告によることとし、したがって、平均的な通常の納税者を基準としても、相続財産の全容が把握できないからといって、それを理由に、法定申告期限までに相続税の申告をしないことは許されないというのが税確保の観点からみて、立法の趣旨であるといわなければならない。

控訴人らは、相続財産の一部とはいえ、相続税の基礎控除額を超える相続財産を認識することができたにも拘らず、その部分についてさえも申告書を提出せず、納税者の自主的な申告に税金の徴収を委ねた申告納税方式の趣旨に反する行為をしたのであるから、被控訴人のした本件処分(無申告加算税賦課決定処分)は、右の納税方式を維持するための制裁として適法なものというべきである。

他に、同判決の第一審判決である平成5年3月29日神戸地方裁判所判決(行政事件裁判例集44巻3号)や平成14年3月26日高松地方裁判所判決(税務訴訟資料252号)が同様の判断をしています。

 

3 相続人間で遺産総額の異なる申告がなされる場合

相続人が2名以上いる場合には、相続税の申告書を共同して提出するのが一般的ですが、相続人ごとに、あるいは相続人のうち一部の者のみが共同して申告書を提出することもできます。そのため、相続人間に争いがあるようなときには、2以上の異なった内容の申告がされることがあります。

ある財産が、1人の相続人の相続税の申告書には計上されているが、別の相続人の申告書には計上されていないケース(他の相続人に相続財産の一部を隠匿しているケースや相続財産の範囲に認識の違いがあるケースなど)や、申告書に記載された財産は同一であっても、その評価額に差異があるケースなどが考えられます。

申告書の提出前に、相続人間、あるいは税務申告の委任を受けた税理士間で調整を図ることができればよいのですが、争いのある相続人間では、それも容易ではないことが多いと思います。

このような場合、通常、税務署職員による税務調査を経て、財産の範囲や評価額について一本化されることとなります。この時点で申告漏れや過少申告が指摘された場合には、原則として、過少申告加算税や延滞税の負担が生じることになります。相続財産の分割が未了であるために、相続税法第55条の規定により、法定相続分で財産を相続したものとして相続税の申告がなされている場合には、分割が完了するのを待って税務調査が行われることもあるようです。

【参考】 相続税法第55条(未分割遺産に対する課税)

相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。ただし、その後において当該財産の分割があり、当該共同相続人又は包括受遺者が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分又は包括遺贈の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった場合においては、当該分割により取得した財産に係る課税価格を基礎として、納税義務者において申告書を提出し、若しくは第32条第1項に規定する更正の請求をし、又は税務署長において更正若しくは決定をすることを妨げない。

〔凡例〕
相法・・・相続税法
措法・・・租税特別措置法
通法・・・国税通則法
(例)相法27①・・・相続税法27条1項

(了)

「相続税の実務問答」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

相続税の実務問答

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筆者紹介

  • 梶野 研二

    (かじの・けんじ)

    税理士

    国税庁課税部資産評価企画官付企画専門官、同資産課税課課長補佐、東京地方裁判所裁判所調査官、国税不服審判所本部国税審判官、東京国税局課税第一部資産評価官、玉川税務署長、国税庁課税部財産評価手法研究官を経て、平成25年6月税理士登録。
    現在、相続税を中心に税理士業務を行っている。

    【主な著書】
    ・『ケース別 相続土地の評価減』(新日本法規)
    ・『判例・裁決例にみる 非公開株式評価の実務』(共著 新日本法規出版)
    ・『株式・公社債評価の実務(平成23年版)』(編著 大蔵財務協会)
    ・『土地評価の実務(平成22年版)』(編著 大蔵財務協会)
    ・『贈与税の申告の実務-相続時精算課税を中心として』(編著 大蔵財務協会)
    ・『農地の相続税・贈与税』(編著 大蔵財務協会)
    ・『新版 公益法人の税務』(共著 財団法人公益法人協会)

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