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[無料公開中]相続税の実務問答 【第36回】「遺留分減殺請求を受けた場合の更正の請求」

筆者:梶野 研二

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相続税実務問答

【第36回】

「遺留分減殺請求を受けた場合の更正の請求」

 

税理士 梶野 研二

 

[問]

私は、平成25年2月15日に亡くなった叔父から、叔父が所有していた財産のうち主要な財産であったS市の土地・建物、T市の土地及び銀行預金の遺贈を受けましたので、期限内に相続税の申告及び納付を済ませました。

ところが、今年の2月4日になって、突然、叔父の唯一の相続人で長らく音信不通であった長男甲から遺留分の減殺請求を受けました。甲は、最近まで私が叔父の財産の遺贈を受けていたことを知らなかったようです。

その後、2人で協議を行い、私が遺贈により取得した財産のうち、T市の土地と銀行預金の一部を甲に引き渡すことになり、3月18日にその旨を記載した覚書を作成し、この覚書に基づき、4月22日にT市の土地を甲の名義とする所有権移転登記が完了しました。

この結果、私が、叔父から取得した財産が減ったことになりますので、既に納付した相続税は納め過ぎだったことになりますが、この納め過ぎとなった相続税の還付を受けることができるのでしょうか。還付を受けられるとすれば、どのような手続きが必要でしょうか。

[答]

相続人甲氏からの遺留分減殺請求により、あなたは遺贈を受けた財産のうちT市の土地及び銀行預金の一部を甲氏に返還することとなりましたので、そのことが確定した3月18日の翌日から起算して4ヶ月以内に相続税の更正の請求をすることにより、相続税の還付を受けることができます。


● 説 明 ●

1 遺留分減殺請求

遺留分権利者は、自己の遺留分を確保するのに必要な範囲で、減殺を請求することができます(民法1031)。遺留分権利者から遺留分減殺請求権の意思表示が受遺者又は受贈者に対してなされると、法律上、当然にその効力が生じ、減殺請求の対象となった財産は、遺留分の限度で遺留分権利者に帰属することとなると考えるのが判例・通説です。

遺留分減殺請求がされた場合、受遺者又は受贈者は遺贈又は贈与の目的物を返還しなければなりませんが、現物の返還に代えて、その価額を弁償することもできます(民法1041)。

 

2 遺留分減殺請求に伴う相続税の更正の請求

相続税の申告書の提出後に遺留分の減殺請求を受け、当該申告に係る相続税の課税価格が減少することとなった場合には、相続税の更正の請求が認められています(相法32①三)。

(注) なお、減殺請求権を行使した遺留分権利者については、遺留分減殺請求の結果に基づいて、相続税の修正申告書又は期限後申告書を提出することができます(遺留分減殺請求を受けた受遺者等が更正の請求を行った場合において、当該修正申告書又は期限後申告書の提出がされない場合には、遺留分減殺請求権を行使した遺留分権利者に対し、更正又は決定処分が行われます)(相法30①、31①、35③)。

ところで、私法上は、遺留分減殺請求がなされると当然にその効力が生じ、減殺請求の対象となった財産は、遺留分の限度で遺留分権利者に帰属することとなると解されます(上記参照)。しかしながら、遺留分減殺請求の意思表示がなされたとしても、そのことによって直ちに遺留分減殺請求権者が取得する財産の価額が確定するわけではありません。

すなわち、遺留分に相当する金額の算定が必要になりますし、受遺者や受贈者は遺留分権利者との間で実際に返還する財産について協議をし、また、現物の返還に代えて価額による弁償を選択することもありえることから、遺留分減殺請求により遺留分権利者が取得することとなる財産の価額が確定するまでには、相当の時間を要することとなります。

そうしますと、遺留分減殺請求が行われた後の遺留分権利者及び受遺者等についての相続税の課税価格の計算をすることができるのは、遺留分減殺請求に基づいて遺留分権利者に返還すべき財産又は価額弁償すべき額が確定した後ということになります。

そこで、相続税法第32条第1項第3号は、更正の請求の原因を「遺留分による減殺の請求があったこと」ではなく、「遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと」と定め、その結果申告等に係る相続税の課税価格及び相続税額が過大となったときには、この確定を知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることができることとしています。

この「返還すべき、又は弁償すべき額」の確定とは、当事者間の協議や調停により返還する財産あるいは現物の返還に代えて弁償する金額についての具体的な合意が成立した場合や判決が確定した場合をいうものと考えられます。当該財産の引渡しや登記、弁償金の支払いがその後に行われることとなったとしても、更正の請求の期限の起算日は、上記の協議や調停による合意の成立の日又は判決の確定の日の翌日であることに変わりはありません。

 

3 ご質問の場合

叔父様から遺贈を受けたあなたは、相続人の甲氏から遺留分減殺請求を受け、T市の土地と銀行預金の一部を甲氏に引き渡すこととなり、その結果、相続税の課税価格及び相続税額が過大となったとのことですが、相続税の還付を受けるためには合意が成立した本年3月18日の翌日から起算して4ヶ月以内、つまり7月18日までに更正の請求をする必要があります。

甲氏から遺留分の減殺請求を受けた2月4日の翌日、あるいはS市の土地建物の所有権移転登記が行われた4月22日の翌日が更正の請求の期限の起算日になるわけではありませんので、ご注意ください。

平成30年の民法(相続法)の改正により、現物の返還を原則としていた「遺留分減殺請求」の制度が、遺留分の侵害額を金銭で請求する「遺留分侵害請求」に改められました。この改正は、令和元年7月1日以降に開始した相続から適用されます。本稿は、この改正前の民法の規定を前提にしています。

 

〔凡例〕
相法・・・相続税法
相令・・・相続税法施行令
相規・・・相続税法施行規則
相基通・・・相続税法基本通達
所基通・・・所得税基本通達
措法・・・租税特別措置法
措通・・・租税特別措置法関係通達
通法・・・国税通則法
(例)相法27①・・・相続税法27条1項

(了)

「相続税の実務問答」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

相続税の実務問答

第1回~第30回

第31回~

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筆者紹介

  • 梶野 研二

    (かじの・けんじ)

    税理士

    国税庁課税部資産評価企画官付企画専門官、同資産課税課課長補佐、東京地方裁判所裁判所調査官、国税不服審判所本部国税審判官、東京国税局課税第一部資産評価官、玉川税務署長、国税庁課税部財産評価手法研究官を経て、平成25年6月税理士登録。
    現在、相続税を中心に税理士業務を行っている。

    【主な著書】
    ・『ケース別 相続土地の評価減』(新日本法規)
    ・『判例・裁決例にみる 非公開株式評価の実務』(共著 新日本法規出版)
    ・『株式・公社債評価の実務(平成23年版)』(編著 大蔵財務協会)
    ・『土地評価の実務(平成22年版)』(編著 大蔵財務協会)
    ・『贈与税の申告の実務-相続時精算課税を中心として』(編著 大蔵財務協会)
    ・『農地の相続税・贈与税』(編著 大蔵財務協会)
    ・『新版 公益法人の税務』(共著 財団法人公益法人協会)

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