公開日: 2014/07/31 (掲載号:No.80)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第7回】「連結会計」

筆者: 西田 友洋

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【STEP8】未実現損益の消去

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企業グループ間で資産の売買を行う場合、資産を売却する会社は簿価よりも高く売ったり、安く売ったりすることがある。この場合、購入した会社にその購入資産が残高として残っていれば、その資産には、販売した会社の利益や損失が含まれている。しかし、この利益や損失は企業グループ内の取引で発生したものであるため、未実現の利益・損失(実現していない損益)である。したがって、全額消去する必要がある(連結基準36)。

ただし、売手側が親会社か連結子会社かで会計処理が若干、異なる。

親会社が売手(ダウン・ストリーム)である場合は、未実現損益を全額消去する。一方、連結子会社が売手(アップ・ストリーム)の場合、未実現損益を全額消去することに変わりはないが、非支配株主がいる場合には、非支配株主にも未実現損益の消去額を持分比率に応じて負担してもらう(連結基準38)。

〈親会社が売手(ダウン・ストリーム)〉
全額消去する。

〈連結子会社が売手(アップ・ストリーム)〉
全額消去し、非支配株主に持分比率に応じて負担してもらう。

なお、未実現損失の場合、売手側の帳簿価額のうち回収不能と認められる部分は、消去しない(連結基準36)。これは、企業グループ外に販売しても損失が出ることが明らかである場合には、保守主義・健全性の観点から消去しないというものである。

また、未実現損益の金額に重要性が乏しい場合には、消去しないことができる(連結基準37)。

さらに、未実現損益の消去後、実現した場合には、実現に係る連結修正仕訳が必要である。未実現損益の実現の態様を資産の種類ごとにまとめると以下のようになる。

[商品の場合]

  • 企業グループ外への売却により実現
  • 評価損の計上により実現
  • 廃棄により実現

[非償却資産の場合]

  • 企業グループ外への売却により実現
  • 固定資産の減損により実現

[償却資産の場合]

  • 企業グループ外への売却により実現
  • 減価償却により実現
  • 除却により実現
  • 固定資産の減損により実現

ここでは、以下の連結修正仕訳について解説する。

① 商品販売における未実現利益の消去

② 固定資産の売却における未実現利益の消去

① 商品販売における未実現利益の消去

企業グループ内で商品販売を行い、購入会社が企業グループ外に販売していなければ、購入会社にはその取引による在庫が残っていることになる。そして、その在庫には、未実現損益が含まれている(売手が簿価で販売した場合を除く)。

そのため、その在庫に含まれている未実現損益を消去する必要がある。

《設例13》

(前提条件)

  • 連結子会社Aは連結子会社Bに商品を100で売り上げた(この商品の売上原価は90である)。
  • 連結子会社Bは連結決算日において当該商品を在庫として保有している。債権債務の決済は行われている。
  • また、連結子会社Aの非支配株主の持分比率は30%である。
  • なお、税効果会計は考慮しない。
【取引の相殺消去】

【未実現利益の消去】

100-90=10

連結子会社Bでは在庫金額100となっているので、連結子会社が保有していた時の在庫金額である90になるように修正する。

【非支配株主への按分】

未実現利益消去額10×30%=3

なお、翌期に連結子会社Bが企業グループ外へ販売した時には、上記で消去した未実現損益が実現する。
その際の会計処理は以下のとおりである。

【前期連結修正仕訳の引継(開始仕訳)】

【実現仕訳】
連結子会社Bは個別財務諸表上、在庫金額100であったものを販売している。
一方、連結財務諸表上は在庫金額は90であったものを販売している。
したがって、売上原価を10減少させる会計処理を行う。

② 固定資産の売却における未実現利益の消去

企業グループ内で固定資産の売買を行い、購入会社が企業グループ外へと売買等していなければ、購入会社にはその固定資産が残っていることになる。そして、その固定資産には、未実現損益が含まれている(売手が簿価で売買した場合を除く)。

そのため、その固定資産に含まれている未実現損益を消去する必要がある。

《設例14》

(前提条件)

  • 親会社は当期末に連結子会社に建物を1,000で売却した(この建物の帳簿価額は800である)。
  • 連結子会社は連結決算日において当該建物を保有している。債権債務の決済は行われている。
  • また、建物の残存耐用年数は10年で、定額法で減価償却を行う。
  • なお、税効果会計は考慮しない。

【未実現利益の消去】

1,000-800=200

連結子会社の建物の帳簿価額1,000となっているので、親会社が保有していた時の建物の帳簿価額である800になるように修正する。

なお、翌期に減価償却費を計上することで、上記で消去した未実現損益が実現する。
その際の会計処理は以下のとおりである。

【前期連結修正仕訳の引継(開始仕訳)】

【実現仕訳】

未実現利益消去額200÷10年=20

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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第7回】

「連結会計」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

昨今では、1社単独ではなく、複数の企業を一体とした企業グループにより経営活動を行うことが多い。このような状況では、企業グループ間で様々な取引を行っており、個別財務諸表だけでは、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を経済的実態に沿って開示することはできない。

例えば、同じ企業グループ内でA社からB社へ製品の販売を行い、B社が消費者へその製品を販売する場合、個別財務諸表においては、A社及びB社ともに売上が計上される。しかし、企業グループとしてはB社の消費者への販売のみが売上に該当し、A社のB社への売上は企業グループ内の内部取引にすぎない。したがって、個別財務諸表だけでは、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を正しく開示することはできない。

そのため、企業グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を経済的実態に沿って、適切に開示するために「連結財務諸表」が必要となる。

 

連結会計は、以下の9つのステップに分けることができる。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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