公開日: 2018/08/23 (掲載号:No.282)
文字サイズ

山本守之の法人税“一刀両断” 【第50回】「「リバースモーゲージ」と「ビアジェ」」

筆者: 山本 守之

山本守之の

法人税 “一刀両断”

【第50回】

「「リバースモーゲージ」と「ビアジェ」」

 

税理士 山本 守之

 

1 リバースモーゲージ

自宅を担保に老後資金を借り入れる「リバースモーゲージ」という制度があります。この制度は、持ち家のある高齢者が、その家を担保に老後の生活費などを一時金または年金形式で借りられる貸付制度です。この制度を使って自宅にそのまま住み続けながら生活費を確保することができます。長寿社会の老後破綻を回避する方法のひとつです。

しかし、この制度はあまり広がっていません。どうしてでしょうか。

【リバースモーゲージが成立しなかった場合】

Bさんは、栃木県宇都宮市で夫であるAさんと2人暮らしをしていましたが、Aさんが病気で死亡しました。Bさんは長男であるCさんと一緒に住むつもりはありません。そこで、Bさんは宇都宮にある住居を担保に融資を受け、その資金を介護施設の入居費用に充てるつもりでした。

Bさんは、家を失うことなく生活費を調整したかったのですが、リバースモーゲージは成立しませんでした。Bさんの場合、担保価値が少なかったのが原因でした。

日本の住居(融資対象)の大部分は木造で、家屋の大半は担保として評価されず、土地に準じて不動産評価額が決められることが常です。すると、リバースモーゲージは成立しない場合があります。

リバースモーゲージには次のようなリスクがあります。

① 地価下落のリスク

② 金利上昇のリスク

③ 長寿のリスク

①~③の状況により、担保割れにつながる恐れがあるため、金融機関が融資額を固めに設定するのです。

この制度のメリットは、自宅を売却することで融資が受けられるという点です。建物は担保価値がないと考えられているので、一般的にマンションは対象外のところがあります。また、子供などの推定相続人の同意が必要になります。

将来の相続も見据える必要から、相続人である子供などが拒否する場合、リバースモーゲージは使えないことがあります。

【リバースモーゲージが成立した場合】

Dさんは東京都港区に住居(一戸建)60坪を持っています。60歳で妻と2人で暮らしています。これからは2人で趣味の旅行を楽しみながら生活したいと思い、リバースモーゲージを申し込みました。

Dさんに収入はありませんが、立地条件が良く担保価値は十分あるので、リバースモーゲージが成立しました。死亡後に売却する場合、貸主にとって危険がなかったためです。

 

2 ビアジェ

フランスでは「ビアジェ」という権利があります。これは、高齢者が不動産(自宅など)に住み続けながら行える所有不動産の売却システムです。

買い手は初期費用に加え、売り手の死亡時まで定期的に支払を行います。売り手は、ゆとりある老後を送るために定期的な収入を受け取れるのです。

買い手のメリットは、売り手が早く死亡すると定期支払金を払わなくてよくなるので、通常よりも低い価格で不動産を取得できることです。

初期費用と定期支払金の金額は、通常の不動産売買と同様に、不動産の価格の鑑定から行い、売り手がその家に住み続けるのであれば、売り手の年齢から計算して平均余命を元に価格を設定します。

事例1 ビアジェを利用し得をしたEさんの場合

物 件
パリの北西部で、パリにいながら田舎のような雰囲気がある街です。昔ながらの八百屋さんやパン屋さんが軒を並べているので、生活がしやすく、どこかのどかな街です。パリの中心部から離れているため、パリ中心部より価格が安い場所です。しかし、近年レトロさが逆に人気を呼び、急激に値上がりしています。

マンションは豪華なものではなく90年代の建物でパリらしい趣があるものではありませんが、清潔で明るく、若い人たちが投資を始めるには最適の物件です。

条 件

  • 売主のFさん:65歳女性 ⇒ 68歳で急死
  • 市場価格:34万€
  • 物件:39㎡
  • 毎月支払額:600€
総支払額は一時金と合せて56,000€でした。Eさんは市場価額からみて割安でこの物件を買ったことになります。

一方、高齢のHさんのような取引もあります。

事例2 ビアジェを利用し損をしたGさんの場合

物 件
パリの高級住宅地の代名詞である16区にあり、目の前にブローニュの森が広がる立地です。エレベータ付きの4階建てのマンションで、パリらしい趣のある豪華なマンションです。

条 件

  • 売主のHさん:84歳男性 ⇒ 100歳で死亡
  • 市場価格:60万€
  • 物件:60㎡
  • 毎月支払額:5,000€

Hさんは84歳と高齢であり、物件はパリ屈指の16区と好立地なので、Gさんの毎月の支払額は5,000€と高額でした。このマンションの市場価格は60万€なので、Hさんが8年以内に亡くなればGさんの得となりましたが、Hさんは100歳で亡くなったので、Gさんの支払総額は一時金と合わせて108万€となり、大損になりました。

いつ亡くなるかは誰にも分からないので、早く物件を手に入れて得をするかもしれないし、すごく長生きして損をしてしまうかもしれないのです。そのため、ビアジェの前には健康調査が行われることも多いのです。

 

3 検討すること

日本のリバースモーゲージはあくまで銀行や国(地方自治体)の融資ですが、フランスのビアジェは物件の譲渡ですので、損得は当然あります。

どちらの方法が良いかは条件にもよりますが、日本ではビアジェは使えません。日本の制度が融資だけにとどまるので、フランスに比べて遅れていると批判されてもしかたありません。

(了)

「山本守之の法人税“一刀両断”」は、毎月第4週に掲載されます。

山本守之の

法人税 “一刀両断”

【第50回】

「「リバースモーゲージ」と「ビアジェ」」

 

税理士 山本 守之

 

1 リバースモーゲージ

自宅を担保に老後資金を借り入れる「リバースモーゲージ」という制度があります。この制度は、持ち家のある高齢者が、その家を担保に老後の生活費などを一時金または年金形式で借りられる貸付制度です。この制度を使って自宅にそのまま住み続けながら生活費を確保することができます。長寿社会の老後破綻を回避する方法のひとつです。

しかし、この制度はあまり広がっていません。どうしてでしょうか。

【リバースモーゲージが成立しなかった場合】

Bさんは、栃木県宇都宮市で夫であるAさんと2人暮らしをしていましたが、Aさんが病気で死亡しました。Bさんは長男であるCさんと一緒に住むつもりはありません。そこで、Bさんは宇都宮にある住居を担保に融資を受け、その資金を介護施設の入居費用に充てるつもりでした。

Bさんは、家を失うことなく生活費を調整したかったのですが、リバースモーゲージは成立しませんでした。Bさんの場合、担保価値が少なかったのが原因でした。

日本の住居(融資対象)の大部分は木造で、家屋の大半は担保として評価されず、土地に準じて不動産評価額が決められることが常です。すると、リバースモーゲージは成立しない場合があります。

リバースモーゲージには次のようなリスクがあります。

① 地価下落のリスク

② 金利上昇のリスク

③ 長寿のリスク

①~③の状況により、担保割れにつながる恐れがあるため、金融機関が融資額を固めに設定するのです。

この制度のメリットは、自宅を売却することで融資が受けられるという点です。建物は担保価値がないと考えられているので、一般的にマンションは対象外のところがあります。また、子供などの推定相続人の同意が必要になります。

将来の相続も見据える必要から、相続人である子供などが拒否する場合、リバースモーゲージは使えないことがあります。

【リバースモーゲージが成立した場合】

Dさんは東京都港区に住居(一戸建)60坪を持っています。60歳で妻と2人で暮らしています。これからは2人で趣味の旅行を楽しみながら生活したいと思い、リバースモーゲージを申し込みました。

Dさんに収入はありませんが、立地条件が良く担保価値は十分あるので、リバースモーゲージが成立しました。死亡後に売却する場合、貸主にとって危険がなかったためです。

 

2 ビアジェ

フランスでは「ビアジェ」という権利があります。これは、高齢者が不動産(自宅など)に住み続けながら行える所有不動産の売却システムです。

買い手は初期費用に加え、売り手の死亡時まで定期的に支払を行います。売り手は、ゆとりある老後を送るために定期的な収入を受け取れるのです。

買い手のメリットは、売り手が早く死亡すると定期支払金を払わなくてよくなるので、通常よりも低い価格で不動産を取得できることです。

初期費用と定期支払金の金額は、通常の不動産売買と同様に、不動産の価格の鑑定から行い、売り手がその家に住み続けるのであれば、売り手の年齢から計算して平均余命を元に価格を設定します。

事例1 ビアジェを利用し得をしたEさんの場合

物 件
パリの北西部で、パリにいながら田舎のような雰囲気がある街です。昔ながらの八百屋さんやパン屋さんが軒を並べているので、生活がしやすく、どこかのどかな街です。パリの中心部から離れているため、パリ中心部より価格が安い場所です。しかし、近年レトロさが逆に人気を呼び、急激に値上がりしています。

マンションは豪華なものではなく90年代の建物でパリらしい趣があるものではありませんが、清潔で明るく、若い人たちが投資を始めるには最適の物件です。

条 件

  • 売主のFさん:65歳女性 ⇒ 68歳で急死
  • 市場価格:34万€
  • 物件:39㎡
  • 毎月支払額:600€

総支払額は一時金と合せて56,000€でした。Eさんは市場価額からみて割安でこの物件を買ったことになります。

一方、高齢のHさんのような取引もあります。

事例2 ビアジェを利用し損をしたGさんの場合

物 件
パリの高級住宅地の代名詞である16区にあり、目の前にブローニュの森が広がる立地です。エレベータ付きの4階建てのマンションで、パリらしい趣のある豪華なマンションです。

条 件

  • 売主のHさん:84歳男性 ⇒ 100歳で死亡
  • 市場価格:60万€
  • 物件:60㎡
  • 毎月支払額:5,000€

Hさんは84歳と高齢であり、物件はパリ屈指の16区と好立地なので、Gさんの毎月の支払額は5,000€と高額でした。このマンションの市場価格は60万€なので、Hさんが8年以内に亡くなればGさんの得となりましたが、Hさんは100歳で亡くなったので、Gさんの支払総額は一時金と合わせて108万€となり、大損になりました。

いつ亡くなるかは誰にも分からないので、早く物件を手に入れて得をするかもしれないし、すごく長生きして損をしてしまうかもしれないのです。そのため、ビアジェの前には健康調査が行われることも多いのです。

 

3 検討すること

日本のリバースモーゲージはあくまで銀行や国(地方自治体)の融資ですが、フランスのビアジェは物件の譲渡ですので、損得は当然あります。

どちらの方法が良いかは条件にもよりますが、日本ではビアジェは使えません。日本の制度が融資だけにとどまるので、フランスに比べて遅れていると批判されてもしかたありません。

(了)

「山本守之の法人税“一刀両断”」は、毎月第4週に掲載されます。

連載目次

山本守之の法人税“一刀両断”

筆者紹介

山本 守之

(やまもと・もりゆき)

税理士。現在、日本税務会計学会顧問、租税訴訟学会副会長(研究・提言担当)、税務会計研究学会理事、日本租税理論学会理事を務め、全国各地において講演活動を行うとともに、千葉商科大学大学院(政策研究科、博士課程)でプロジェクト・アドバイザー(専門分野の高度な学術研究、高度な実務経験を持つ有識者)として租税政策論の教鞭をとっている。研究のためOECD、EU、海外諸国の財務省、国税庁等を約30年にわたり歴訪。2020年11月29日、逝去。

【著書】
・『時事税談-人間の感性から税をみつめる』(清文社)
・『役員給与税制の問題点-規定・判例・執行面からの検討』(中央経済社)
・『検証 税法上の不確定概念 (新版)』(中央経済社)
・『裁決事例(全部取消)による役員給与・寄附金・交際費・貸倒れ・資本的支出と修繕費』(財経詳報社)
・『法人税申告の実務全書』監修(日本実業出版社)
・『法人税の理論と実務』(中央経済社)
・『体系法人税法』(税務経理協会)
・『税金力-時代とともに「税」を読む』(中央経済社)
・『租税法の基礎理論』(税務経理協会)
他、多数
 

関連書籍

路線価による土地評価の実務

公認会計士・税理士 名和道紀 共著           長井庸子 共著

新・くらしの税金百科 2026→2027

公益財団法人 納税協会連合会 編

徹底解説 不動産契約書Q&A

弁護士法人 官澤綜合法律事務所 著

〇×判定ですぐわかる資産税の実務

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

資産税の取扱いと申告の手引

一色広己 編 荒木未来 編

不動産の評価・権利調整と税務

鵜野和夫 著 税理士・不動産鑑定士 下﨑 寛 著 税理士・不動産鑑定士 関原教雄 著

資産税実務問答集

一色広己 編 荒木未来 編

相続税・贈与税取扱いの手引

公益財団法人 納税協会連合会 編集部 編

相続道の歩き方

弁護士 中村 真 著

信託法務大全 第4編

田中和明 監修・著 田村直史 編著 伊藤 博 編著 千吉良健一 編著

評価通達がない不動産評価 判例・裁決40

税理士・不動産鑑定士 下﨑 寛 著 税理士・不動産鑑定士 関原教雄 著

STEP式 相続税・贈与税申告書の作成手順

税理士 石原健次 監修 税理士 松田昭久 共著 税理士 上西由香 共著 税理士 西田 豊 共著 税理士 金本昌史 共著

新着情報

もっと見る

記事検索

#