相続税の実務問答
【第44回】
「令和元年台風第19号による被災地内の土地等がある場合の相続税の申告期限」
税理士 梶野 研二
[問]
私の父は、令和元年5月10日に亡くなりました。相続人は母、私及び弟の3名で、3名とも東京都に住んでいます。父は、出身地である長野県N市に貸家及びその敷地を所有していましたが、10月の台風第19号により近くを流れる河川が氾濫し、甚大な被害を受けてしまいました。
現在、相続税の申告の準備をしていますが、相続財産の中にこの台風第19号により被災した土地等がある場合には、申告期限が延長される特例措置があると聞きました。私たちの場合にこの特例措置が適用されますか。特例措置が適用されるのであれば、申告期限はいつまで延長されるのでしょうか。
また、この土地を分割協議により弟が相続することとなった場合に、母や私の申告期限はどうなるのでしょうか。
[答]
お父様がお亡くなりになられたことによる相続税の申告書は、本来、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内、つまり令和2年3月10日までに提出しなければなりませんが、あなた方の場合には、相続財産の中に令和元年台風第19号による災害に係る「特定地域」に指定された長野県内に存する土地がありますので、相続税の申告期限は、少なくとも特定非常災害に指定された令和元年台風第19号の発生日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年8月11日まで延長されます(国税通則法の規定に基づき申告期限がさらに延長される場合があります)。なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんが1人で相続することとなったとしても、相続人全員の相続税の申告期限が延長されることとなります。
● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ●
1 特定の災害が発生した場合の相続税の特例措置
相続税の課税価格の計算上、各財産の価額は、相続開始日の時価によることが原則であり(相法22)、相続税の申告書は相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に提出することとされています(相法27①)。
しかしながら、相続税の申告書の提出期限までの間に発生した災害により甚大な被害が生じた場合には、「被災者の不安を早期に解消するとともに、税制上の対応が復旧や復興の動きに遅れることのないよう」(財務省「平成29年度税制改正の解説」582頁)にとの観点から、平成29年度の税制改正により次の特例措置が設けられました。
① 特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例
② 相続税の申告書の提出期限の延長の特例
2 特定土地等及び特定株式等に係る相続税の課税価格の計算の特例
相続税の課税価格の計算上、相続や遺贈により取得した財産の価額は、相続開始時における各財産の時価とされており(相法22)、相続開始後に生じた原因により財産の価額が下落したとしても、相続税の課税価格の計算には影響しません。
しかしながら、特定非常災害の発生日前に相続が開始し、かつ、その相続に係る相続税の申告書の提出期限前に特定非常災害が発生した場合には、相続又は遺贈により取得した財産のうち、特定非常災害の発生日において所有していた特定土地等又は特定株式等について相続税の課税価格に算入すべき価額は、その特定非常災害の発生直後の価額とすることができることとされました(措法69の6①)。
この「特定非常災害」とは、「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」第2条第1項の規定により特定非常災害として指定された災害をいいます。令和元年の台風第19号は、「令和元年台風第19号による災害についての特定非常災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令」(令和元年政令第129号)により特定非常災害に指定され、その発生日は令和元年10月10日とされています。
また、「特定土地等」とは、特定地域内にある土地又は土地の上に存する権利をいい、「特定株式等」とは、特定地域内に保有する資産の割合が高い一定の法人の株式又は出資(上場株式等を除きます)をいいます。この場合の「特定地域」とは、被災者生活再建支援法第3条第1項の規定の適用を受ける地域(同項の規定の適用がない場合には、その特定非常災害により相当な損害を受けた地域として財務大臣が指定する地域)をいい、令和元年台風第19号に関しては、次の地域が該当します。
〇「令和元年台風第19号」による災害に係る特定地域
3 相続税の申告書の提出期限の延長の特例
相続税の申告書は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に提出しなければなりません。しかしながら、この本来の提出期限までの間に災害が発生した場合には、本来の申告書の提出期限内に申告をすることが困難となることも考えられます。
そこで、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者のうちに、上記2の特例の適用を受けることのできる者がいる場合には、その相続又は遺贈により財産を取得した相続人及び受遺者の全員の相続税の申告書の提出期限が、次の①②のいずれか遅い日まで延長されることとされました(措法69の8①)。
① 特定非常災害に係る国税通則法第11条の規定により延長された申告期限
本稿公開日現在、長野市の一部を含む一定の指定地域に納税地のある者について、国税通則法第11条の規定により申告期限が延長されています(地域指定)が、延長される期限については、今後、決定されることとなります( 令和元年11月1日国税庁告示第13号)。この指定地域は、国税庁ホームページによって確認することができます。
なお、指定地域以外に納税地のある者についても、所轄の税務署に申請をすることにより、申告期限が延長される場合があります(個別指定)。
② 特定非常災害発生日の翌日から10ヶ月を経過する日
4 ご質問の場合
あなた方が、お父様の相続が開始したことを知った日が令和元年5月10日であるとしますと、本来の相続税の申告書の提出期限は、その日の翌日から10ヶ月を経過する日、すなわち令和2年3月10日です。
しかしながら、相続財産のうちに特定地域内に指定された長野県内の土地がありますので、この土地は、令和元年台風第19号による被害の発生直後の価額により評価することができるとともに、相続税の申告書の提出期限は、少なくとも特定非常災害の発生日(令和元年10月10日)の翌日から10ヶ月を経過する日(この10ヶ月を経過する日は令和2年8月10日ですが、同日が祝日(山の日)であるため、その翌日の8月11日)となります。なお、国税通則法第11条の規定により申告期限が8月11日より後の日とされた場合には、同条の規定により延長された申告期限となります。
なお、遺産分割の結果、この土地を弟さんだけが相続することとなったとしても、相続人全員の申告期限が延長されることとなります。
〔凡例〕
相法・・・相続税法
相令・・・相続税法施行令
相規・・・相続税法施行規則
相基通・・・相続税法基本通達
所基通・・・所得税基本通達
評基通・・・財産評価基本通達
通法・・・国税通則法
措法・・・租税特別措置法
措通・・・租税特別措置法関係通達
通法・・・国税通則法
(例)相法27①・・・相続税法27条1項
(了)
「相続税の実務問答」は、毎月第3週に掲載されます。























