公開日: 2017/06/29 (掲載号:No.224)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第35回】「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」

筆者: 西田 友洋

【STEP4】回収可能性の検討

【STEP3】で算定した繰延税金資産は、その全額を貸借対照表に計上できるわけではない。将来の課税所得(税金)を減少させる部分しか貸借対照表に計上できない。そこで【STEP4】では、貸借対照表に計上できる繰延税金資産を算定するために「繰延税金資産の回収可能性」を検討する。また、繰延税金負債も例外的な場合に支払可能性の検討が必要な場合がある。

具体的には、以下の(1)(4)の検討が必要である。

(1) 企業の分類

① 企業の分類の決定

② 企業の分類ごとの回収可能性の判断指針

(2) 回収可能性の検討

① 一時差異等の解消のスケジューリング

② 将来減算一時差異と将来加算一時差異の解消年度ごとの相殺

③ 将来減算一時差異と繰戻・繰越期間内の将来加算一時差異との相殺

④ 将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額の算定

⑤ 将来減算一時差異と一時差異等加減算前課税所得の解消年度ごとの相殺

⑥ 将来減算一時差異と繰戻・繰越期間内の一時差異等加減算前課税所得との相殺

⑦ 回収可能性のある繰延税金資産及び回収可能性のない繰延税金資産(評価性引当額)の算定

(3) 支払可能性の検討

(1) 企業の分類

①  企業の分類の決定

以下の5つの区分に会社を区分して、その区分ごとの一定の判断指針をもとに繰延税金資産の回収可能性を検討する(回収指針15、17、19、22、26、32)。

(分類1)

《要件》
次の要件をいずれも満たす企業は、(分類1)に該当する。

ⅰ.過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得が生じている。

ⅱ.当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

(分類2)

《要件》
次の要件をいずれも満たす企業は、(分類2)に該当する。

ⅰ.過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。

ⅱ.当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない。

ⅲ.過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

(分類3)

《要件》
次の要件をいずれも満たす企業は、(分類4)の要件ⅱ又はⅲの要件を満たす場合を除き、(分類3)に該当する。

ⅰ.過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。

ⅱ.過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない。

なお、ⅰにおける課税所得から臨時的な原因により生じたものを除いた数値は、負の値となる場合を含む。

(分類4)

《要件》
次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において一時差異等加減算前課税所得が生じることが見込まれる企業は、(分類4)に該当する。

ⅰ.過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。

ⅱ.過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実がある。

ⅲ.当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。

なお、(分類4)の要件に該当するが、(分類2)又は(分類3)として取り扱うことができる場合もある。

〈(分類4)の要件に該当するが、(分類2)として取り扱う場合〉
重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類2)に該当するものとして取り扱い、回収指針20、21項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

(分類4)に係る分類の要件を満たすものの、(分類2)に該当するものとして取り扱われる例としては、過去において(分類2)に該当していた企業が、当期において災害による損失により重要な税務上の欠損金が生じる見込みであることから(分類4)に係る分類の要件を満たすものの、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積った場合に、将来において5年超にわたり一時差異等加減算前課税所得が安定的に生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが挙げられる(適用指針91)。

〈(分類4)の要件に該当するが、(分類3)として取り扱う場合〉
重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の一時差異等加減算前課税所得を見積る場合、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときは(分類3)に該当するものとして取り扱い、回収指針23項の定めに従って繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。

(分類4)に係る分類の要件を満たすものの、(分類3)に該当するものとして取り扱われる例としては、過去において業績の悪化に伴い重要な税務上の欠損金が生じており(分類4)に該当していた企業が、当期に代替的な原材料が開発されたことにより、業績の回復が見込まれ、その状況が将来も継続することが見込まれる場合に、将来においておおむね3年から5年程度は一時差異等加減算前課税所得が生じることを企業が合理的な根拠をもって説明するときが挙げられる(回収指針92)。

(分類5)

《要件》
次の要件をいずれも満たす企業は、(分類5)に該当する。

ⅰ.過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、重要な税務上の欠損金が生じている。

ⅱ.翌期においても重要な税務上の欠損金が生じることが見込まれる。

上記(分類1)から(分類5)の《要件》をいずれも満たさない企業は、過去の課税所得又は税務上の欠損金の推移、当期の課税所得又は税務上の欠損金の見込み、将来の一時差異等加減算前課税所得の見込み等を総合的に勘案し、各分類の要件からの乖離度合いが最も小さいと判断されるものに分類する(回収指針16)。なお、当該判断は、各分類の要件からの乖離度合いを定量的に検討することを意図するものではない(回収指針65)。

② 企業の分類ごとの回収可能性の判断指針

回収指針では、企業の分類ごとに繰延税金資産の回収可能性の判断指針が設けられている(回収指針18、20、21、23、24、25、27)。
企業の分類によっては、【STEP4】(2)の全部又は一部の検討が不要である。

(ⅰ) (分類1)の場合(回収指針20、21、39(2)、35(1)、46)

 target="_blank"全ての繰延税金資産について回収可能性があるため、【STEP4】(2)の検討は不要である。

(ⅱ) (分類2)の場合又は(分類4)の要件に該当するが、(分類2)として取り扱う場合(回収指針19、39(2)、28、35(1)、46)

一時差異等 回収可能性等 スケジューリング可能(※1)な将来減算一時差異 回収可能性あり スケジューリング不能な将来減算一時差異 原則、回収可能性なし ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、税務上の損金の算入時期が個別に特定できないが将来のいずれかの時点で損金に算入される可能性が高いと見込まれるものについて、当該将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性がある。 ⇒役員退職慰労引当金に係る将来減算一時差異については、将来のいずれかの時点で解消されるものであるため、その点に関する説明は不要と考えられるが、将来減算一時差異の残高と課税所得の水準との関係から回収できることについては合理的な根拠をもって説明することが求められると考えられる(企業会計基準適用指針公開草案第54号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」に寄せられたコメント「主なコメントの概要とそれらに対する対応」(以下、「コメント」という)47)。 スケジューリング不能なその他有価証券評価差額に係る将来減算一時差異(※2)(純額で取得原価>時価の場合) 回収可能性あり 繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異 解消時期が長期にわたる将来減算一時差異(※3)スケジューリングが可能か不能かの検討が必要なため、【STEP4】(2)①の検討のみ必要である。

(ⅲ) (分類3)の場合又は(分類4)の要件に該当するが、(分類3)として取り扱う場合(回収指針19、23、24、39(2)、29、35(2)、46)

一時差異等 回収可能性等 スケジューリング可能(※1)な将来減算一時差異 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。  上記にかかわらず、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。ただし、(分類4)の要件に該当するが、(分類3)として取り扱う場合には、当該取り扱いを用いることはできない。したがって、(分類4)の要件に該当するが、(分類3)として取り扱う場合には、おおむね5年以内の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、回収可能性を判断する。 スケジューリング不能な将来減算一時差異 回収可能性なし スケジューリング不能なその他有価証券評価差額に係る将来減算一時差異(※2)(純額で取得原価>時価の場合) 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)又は5年を超える見積可能期間の一時差異等加減算前課税所得の見積額にスケジューリング可能な一時差異の解消額を加減した額に基づき、純額の評価差損に係る繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産の回収可能性があるものとする。 繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異 回収可能性あり 解消時期が長期にわたる将来減算一時差異(※3) 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)において当該将来減算一時差異のスケジューリングを行った上で、当該見積可能期間を超えた期間であっても、当期末における当該将来減算一時差異の最終解消見込年度までに解消されると見込まれる将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できる。【STEP4】(2)の全ての検討が必要である。

(ⅳ) (分類4)の場合(回収指針27、35(3))

一時差異等 回収可能性等 スケジューリング可能(※1)な将来減算一時差異 翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積る場合、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。 スケジューリング不能な将来減算一時差異 回収可能性なし スケジューリング不能なその他有価証券評価差額に係る将来減算一時差異(※2)(純額で取得原価>時価の場合) 回収可能性なし 繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異 回収可能性あり 解消時期が長期にわたる将来減算一時差異(※3) 翌期に解消される将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性があると判断できるものとする。【STEP4】(2)の全ての検討が必要である。

(ⅴ) (分類5)の場合(回収指針31、35(4))

一時差異等 回収可能性等 スケジューリング可能(※1)な将来減算一時差異 回収可能性なし スケジューリング不能な将来減算一時差異 スケジューリング不能なその他有価証券評価差額に係る将来減算一時差異(※2)(純額で取得原価>時価の場合) 繰延ヘッジ損失に係る将来減算一時差異 解消時期が長期にわたる将来減算一時差異(※3)(分類5)では、将来加算一時差異と相殺できる場合のみ、繰延税金資産を計上できる(コメント105)ため、【STEP4】(2)①から③の検討が必要である。

(注) 回収可能性ありとは、将来の課税所得(税金)を減少させることから繰延税金資産を計上できるということである。回収可能性なしとは、将来の課税所得(税金)を減少させることができないため、繰延税金資産を計上できないということである。

(※1) スケジューリングとは将来減算一時差異の解消時期を合理的に決めることをいう(【STEP4】(2)①参照)。

(※2) その他有価証券評価差額金に係る税効果については、原則、個々の銘柄ごとに判断するが、スケジューリング可能なものと不能なものに分類した上でスケジューリング不能な部分について純額で判断する容認処理が認められている(回収指針39(2))。

(※3) 解消時期が長期にわたる将来減算一時差異とは、一時差異の発生から解消までの期間が長期であるものをいう。例えば、退職給付引当金や建物の減価償却超過額が該当する(回収指針35)。
なお、償却資産を減損し、税務上加算した場合、「会計上の簿価<税務上の簿価」となり、減損後の減価償却の際には、「会計上の減価償却費<税務上の減価償却費」となるが、この減価償却費の差額は「通常の」将来減算一時差異に該当する(回収指針36)。

 

(2) 回収可能性の検討

① 一時差異等の解消のスケジューリング

企業の分類の決定の後は、一時差異等の解消のスケジューリングを行う。一時差異等の解消のスケジューリングとは、一時差異等の解消時期が「いつになるか」を検討することをいう。
解消時期がわかるものを「スケジューリング可能な一時差異等」といい、解消時期がわからないものを「スケジューリング不能な一時差異等」という(回収指針3(5)(6))。

スケジューリング不能な将来減算一時差異は、いつ解消するかが不明であるため当該一時差異に係る繰延税金資産については、回収可能性の判定ができない。そのため、貸借対照表に計上できない((分類1)及び(分類2)で将来のいずれかの時点で回収できることを企業が合理的な根拠をもって説明する場合を除く)。

したがって、スケジューリング不能な将来減算一時差異については、②以降の検討は不要である。

具体的には、スケジューリングは以下のように判断する。

〈一時差異等のスケジューリングの判断〉

◆一時差異

▷将来減算一時差異

  • 未払事業税、未払事業所税
    翌年度に納付することで税務上、減算できるため、納付年度である翌年度の解消としてスケジューリングする。
  • 貸倒引当金繰入限度超過額
    法人税法上の損金算入要件を満たした場合、税務上、減算できるが、相手先ごとに損金算入要件時期を見積ることは困難な場合が多いと考えられる。
    ただし、将来発生が見込まれる損失を合理的に見積もった貸倒引当金の計上であるが、その損失の発生時期を個別に特定し、スケジューリングすることが実務上困難な場合、過去の税務上の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等により、合理的なスケジューリングが行われている場合には、「スケジューリング不能な一時差異」とは取り扱わない(回収指針13)。
  • 棚卸資産評価損否認額
    売却・廃棄等が行われた場合、税務上、減算できるため、売却・廃棄等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    過去の損金算入実績に将来の合理的な予測を加味した方法等により、スケジューリングすることも考えられる。
  • 有価証券評価損否認額、子会社株式評価損否認額
    売却等により税務上、減算できるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
  • 減価償却超過額
    減価償却費の計上、売却等により税務上、減算できるため将来の減価償却費の計上時期や売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    【建物の場合、解消時期が長期にわたる将来減算一時差異に該当する。】
  • 固定資産の減損損失
    減価償却費の計上(償却資産の場合)、売却等により税務上、減算できるため将来の減価償却費の計上時期や売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    非償却資産の場合、売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
  • 賞与引当金
    翌年度に賞与を支給することで税務上、減算できるため、支給年度である翌年度の解消としてスケジューリングする。
  • 退職給付引当金
    退職一時金又は退職年金の支給、退職給付制度の移行又は終了等により税務上、減算できる。そのため、過去の損金算入実績等をもとに将来の合理的な予測をし、スケジューリングする。
    【解消時期が長期にわたる将来減算一時差異に該当する。】
  • 役員退職慰労引当金
    役員退職慰労金を支給することで税務上、減算できる。そのため、過去の役員の在任期間の実績や内規等に基づいて役員の退任時期を合理的に見込み、その退任時期(支給年度)の解消としてスケジューリングする。
    退任時期を合理的に見込めない場合は、スケジューリング不能とする。
  • 上記以外の引当金
    税務上、減算できる時期を合理的に見込みスケジューリングする。
  • 資産除去債務
    固定資産の除去時に税務上、減算できる。そのため、除去時を合理的に見込み、その除去時の解消としてスケジューリングする。
  • 税制非適格ストック・オプション
    権利行使時に課税所得計算上、減算できる。そのため、権利行使時を合理的に見込み、その権利行使日の解消としてスケジューリングする。
  • その他有価証券評価差額金(借方)
    売却等により税務上、損金算入されるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
  • グループ法人税制における完全支配関係にある国内会社間取引
    譲渡先の資産の売却(譲渡損の繰り延べの場合)や子会社株式の売却(寄付金による子会社株式の簿価修正の場合)等により税務上、減算できるため、売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    売却等の合理的な計画を譲渡先から入手できない等の場合はスケジューリング不能とする。

▷将来加算一時差異

  • 積立金方式の特別償却
    一定の年数(例えば7年)の均等額で税務上、加算(益金算入)する。その益金算入時期によりスケジューリングする。
  • 積立金方式の圧縮記帳
    固定資産の除売却、減価償却費の計上等により、税務上、加算されるため、除売却の合理的な計画、減価償却費の計上時期等をもとにスケジューリングする。
    非償却資産で固定資産の売却時期等を合理的に見込めない場合、スケジューリング不能とする。
  • 資産除去債務に対応する除去費用として有形固定資産の帳簿価額に加えた金額
    減価償却費の計上により、税務上、加算されるため、減価償却費の計上時期をもとにスケジューリングする。
  • その他有価証券評価差額金(貸方)
    売却等により税務上、益金算入されるため売却等の合理的な計画をもとにスケジューリングする。
    売却等の合理的な計画がない場合は、スケジューリング不能とする。
  • グループ法人税制における完全支配関係にある国内会社間取引
    譲渡先の資産の売却(譲渡益の繰り延べの場合)や子会社株式の売却(寄付金による子会社株式の簿価修正の場合)等により税務上、加算するため、売却の合理的な計画等をもとにスケジューリングする。
    売却等の合理的な計画を譲渡先から入手できない等の場合は、スケジューリング不能とする。

◆一時差異に準ずるもの

  • 繰越欠損金
    一時差異等加減算前課税所得の見積りをもとに繰越欠損金の解消時期をスケジューリングする。
  • 繰越外国税額控除
    他の一時差異等とは異なり、翌期以降に外国税額控除余裕額が生じるかどうかを検討する。翌期以降に外国税額控除余裕額が確実に見込まれる場合のみ、繰越外国税額控除の実現が見込まれる額を税金資産として計上する(回収指針47)。

なお、スケジューリング不能な将来加算一時差異(例えば、スケジューリング不能なその他有価証券評価差額金(純額)に係る繰延税金負債)は以下の②、③で行う将来減算一時差異の解消見込年度と対応させることができないため、②、③において将来減算一時差異、一時差異に準ずるものと相殺しない。

② 将来減算一時差異と将来加算一時差異の解消年度ごとの相殺

上記①のスケジューリングをもとに 解消年度ごとに将来減算一時差異、将来加算一時差異を相殺する(回収指針11(3))。
将来減算一時差異と将来加算一時差異は将来の課税所得(税金)に対して反対方向の影響であるため、将来加算一時差異と相殺できた将来減算一時差異は、将来の課税所得(税金)を減少させる効果がある。
そのため、相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。

③ 将来減算一時差異と繰戻・繰越期間内の将来加算一時差異との相殺

上記②で相殺できなかった将来減算一時差異は、税務上認められている繰越欠損金の繰戻・繰越期間内の(上記②相殺後の残額の)将来加算一時差異と相殺する(回収指針11(4))。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。

(注) 繰越欠損金の繰戻は、本解説投稿時点で適用が停止されているため、現状では繰越期間のみ考えれば良い。

これは、相殺できなかった将来減算一時差異は課税所得の水準次第(上記②では課税所得は考慮していない)では、将来の欠損金になる可能性もある。そのため、相殺できなかった将来減算一時差異を欠損金のようなものと考えて、税務上認められている繰越欠損金の繰戻・繰越期間内の(上記②相殺後の残額の)将来加算一時差異と相殺する。

④ 将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額の算定

上記③でも相殺できなかった将来減算一時差異は、下記⑤で将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額と解消年度ごとに相殺する。
そのため、ここでは一時差異等加減算前課税所得を見積もる。一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の額(及び該当する場合は、当該事業年度において控除することが見込まれる当期末に存在する税務上の繰越欠損金の額)を除いた額をいう(回収指針3(9))。最終的に見積るのは、課税所得ではなく、一時差異等加減算前課税所得である。

見積もる際には、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得及びタックス・プランニング(固定資産又は有価証券の売却等)に基づく一時差異等加減算前課税所得を考慮して検討する(回収指針6)。

収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得を見積る際に、課税所得を見積る必要がある。この課税所得は、適切な権限を有する機関の承認を得た業績予測の前提となった数値を、経営環境等の企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報(過去における中長期計画の達成状況、予算やその修正資料、業績評価の基礎データ、売上見込み、取締役会資料を含む)と整合的に修正した上で、課税所得又は税務上の欠損金を見積ることになる(回収指針32)。

また、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得は、区分ごとに、以下の2つを満たす場合、一時差異等加減算前課税所得の見積額に含めることができる(回収指針34)。

(分類2)又は(分類4)の要件に該当するが、(分類2)として取り扱う場合

(ア) 資産の売却等に係る意思決定が、事業計画や方針等で明確となっており、かつ、資産の売却等に経済的合理性があり、実行可能である場合

(イ) 売却される資産の含み益等に係る金額が、契約等で確定している場合又は契約等で確定していない場合でも、例えば、有価証券については期末の時価、不動産については期末前おおむね1年以内の不動産鑑定評価額等の公正な評価額によっている場合

(分類3)又は(分類4)の要件に該当するが、(分類3)として取り扱う場合

(ア) 将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)又は回収指針24項に従って繰延税金資産を見積る企業においては5年を超える見積可能期間に資産を売却する等の意思決定が事業計画や方針等で明確となっており、かつ、資産の売却等に経済的合理性があり、実行可能である場合

(イ) 売却される資産の含み益等に係る金額が、契約等で確定している場合又は契約等で確定していない場合でも、例えば、有価証券については期末の時価、不動産については期末前おおむね1年以内の不動産鑑定評価額等の公正な評価額によっている場合

(分類4)の場合

(ア) 資産の売却等に係る意思決定が、適切な権限を有する機関の承認、決裁権限者による決裁又は契約等で明確となっており、確実に実行されると見込まれる場合

(イ) 売却される資産の含み益等に係る金額が、契約等で確定している場合又は契約等で確定していない場合でも、例えば、有価証券については期末の時価、不動産については期末前おおむね1年以内の不動産鑑定評価額等の公正な評価額によっている場合

(分類5)の場合、原則として、繰延税金資産の回収可能性の判断にタックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を織り込むことはできない。ただし、税務上の繰越欠損金を十分に上回るほどの資産の含み益等を有しており、かつ、上記「(分類4)の場合」の(ア)及び(イ)をいずれも満たす場合、タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得の見積額を、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に織り込むことができる(回収指針34(5))。

⑤ 将来減算一時差異と一時差異等加減算前課税所得の解消年度ごとの相殺

上記③でも相殺できなかった将来減算一時差異は、上記④で算定した将来の一時差異等加減算前課税所得の見積額と解消年度ごとに相殺する(回収指針11(6))。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。

⑥ 将来減算一時差異と繰戻・繰越期間内の一時差異等加減算前課税所得との相殺

上記⑤でも相殺できなかった将来減算一時差異は、税務上認められている繰越欠損金繰戻・繰越期間内の(上記⑤相殺後の残額の)一時差異等加減算前課税所得と相殺する(回収指針11(6))。相殺できた将来減算一時差異に係る繰延税金資産は回収可能性ありと判断する。このような相殺を行うのは、上記③と同じ理由である。

ここまでで相殺できなかった将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、回収可能性なしと判断する。

⑦ 回収可能性のある繰延税金資産及び回収可能性のない繰延税金資産(評価性引当額)の算定

【STEP3】で算定した回収可能性考慮前・繰延税金資産及び繰延税金負債から上記⑥までで回収可能性なしと判断した繰延税金資産(評価性引当額)を控除した金額のみが回収可能性のある繰延税金資産として貸借対照表に計上することができる。

 

(3) 支払可能性の検討

将来加算一時差異は、将来の課税所得(税金)を増加させるものである。したがって、理論上は将来の税金の支払が見込まれる(支払可能性のある)将来加算一時差異に係る繰延税金負債のみを貸借対照表に計上するために、繰延税金負債について支払可能性の検討が必要である。

しかし、実務指針では、事業休止等により、会社が清算するまでに明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合のみ支払可能性がないと判断することになっている(実務指針24)。
そのため、事業休止等の状況でない限り、支払可能性はあるとし、会社が事業を行っている状況では支払可能性を検討せずに、全ての将来加算一時差異に係る繰延税金負債を貸借対照表に計上する(ただし、将来加算一時差異について将来減算一時差異との相殺を行う必要があるため、スケジューリングは必要である)。

《設例②》

  • 企業の分類は「3」である。
  • 法定実効税率は30%である。
  • 一時差異等加減算前課税所得はX2年度が500、X3年度以降は300と見積っている。
  • 一時差異等加減算前課税所得の見積り期間は5年間としている。

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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第35回】

「個別財務諸表における税効果会計(回収指針対応版)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

平成27年12月28日に企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、「回収指針」という)」が公表されている(なお、回収指針は、平成28年3月28日に改正が行われている)。

そこで、今回は回収指針に基づいて、個別財務諸表における税効果会計を解説する。今回の解説は、本連載【第4回】「個別財務諸表における税効果会計」の改訂版である。なお、本解説では3月末決算の会社を前提に解説している。

「税効果会計」とは、将来の税金を減少させる効果を繰延税金資産として計上し、将来の税金を増加させる効果を繰延税金負債として計上する会計処理である。

例えば、会計上は当期に費用計上するが、税務上は翌期以降に損金算入する場合、将来に損金算入されることにより将来の課税所得が減少し、将来の税金が減少する。この減少の原因は当期に発生しているため、当期に繰延税金資産(回収可能性ありの場合、詳細は【STEP4】参照)として計上する。
反対に、税務上は当期に損金算入するが、会計上は翌期以降に費用計上する場合、将来の当該費用計上額は税務上加算され、将来の課税所得は増加し、将来の税金が増加する。この増加の原因は当期に発生しているため、当期に繰延税金負債として計上する。

また、税効果会計は大きく「個別財務諸表における税効果会計」、「連結財務諸表における税効果会計」、「連結納税における税効果会計」に分けることができる。今回は「個別財務諸表における税効果会計」について解説する。

個別財務諸表における税効果会計は、以下の5つのステップに分けることができる。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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