〈小説〉
『資産課税第三部門にて。』
【第6話】
「限定承認とみなし譲渡課税」
公認会計士・税理士 八ッ尾 順一
「お~い、谷垣君。」 田中統括官が谷垣調査官を呼ぶ。
「この相続税の申告書を見ると、相続人は、限定承認をしているらしい・・・」
田中統括官は申告書に添付されている家庭裁判所からの限定承認受理の通知書を見ながら、谷垣調査官に声をかけた。
谷垣調査官は腕時計を見た。午前11時50分である。
「限定承認って・・・民法のですか?」 谷垣調査官が尋ねる。
「それは当たり前だろう。君も税務職員なら、限定承認って聞いたら、民法よりも所得税法59条1項をすぐに思い浮かべないと。特に資産課税部門の職員であればなおさらだ。」 田中統括官は薄笑いしながら谷垣調査官を見た。
「・・・みなし譲渡課税の規定ですね。」 谷垣調査官は少しムッとした表情で答える。
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