公開日: 2014/11/27 (掲載号:No.96)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第11回】「リース取引(借手)」

筆者: 西田 友洋

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【STEP5】所有権移転外ファイナンス・リース取引

所有権移転外ファイナンス・リース取引は売買処理に準じた会計処理を行う(基準9)。ただし、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引300万円以下(維持管理費用相当額等のリース料総額に占める割合が重要な場合には、その合理的見積額を除くことができる)のリース取引については、賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34、35(3))。

具体的には以下の順に検討することになる。

(1) 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引

(2) リース資産総額の重要性の判定

(3) リース資産総額の重要性が乏しくない場合の会計処理

(4) リース資産総額の重要性が乏しい場合の会計処理

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(1) 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引

ここでは、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引に該当するか否かを検討する。

1つのリース契約に科目の異なる有形固定資産又は無形固定資産が含まれている場合は、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができる(適用指針35(3))。例えば、1つのリース契約に建物附属設備、器具備品、機械装置、ソフトウェアというように異なる科目が含まれている場合には、異なる科目ごとに判定することができる。

企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース契約に該当する場合、賃貸借処理に準じた会計処理を行うことができる(適用指針34)ため、【STEP7】を検討する。該当しない場合、売買処理に準じた会計処理を行うため、下記(2)以降を検討する。

なお、ここでの判定は300万円以下のリース契約という金額要件だけではなく、企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引という要件も満たす必要があることに留意が必要である。300万円以下の取引であっても、企業の事業内容に照らして重要性が乏しくない場合には、売買処理に準じた会計処理を行う必要がある。

 

(2) リース資産総額の重要性の判定

リース資産総額に重要性が乏しい場合、売買処理に準じた会計処理の中で簡便的な会計処理(下記(4)②参照)を行うことが認められている。

具体的な判定は、「未経過リース料の期末残高」の「未経過リース料の期末残高+有形固定資産及び無形固定資産残高の合計額」に対する割合で行い、これが10%未満の場合、リース資産総額の重要性は乏しいと判断する(適用指針32)。

重要性が乏しくない場合、下記(3)を検討する。重要性が乏しい場合、下記(4)を検討する。

上記の算定式における未経過リース料の期末残高には、以下のものは含まれない。

  • 賃貸借処理に準じた会計処理を行う少額リース資産(【STEP2】参照)(適用指針32)
  • 賃貸借処理に準じた会計処理を行う短期リース取引(【STEP3】参照)(適用指針32)
  • 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引で賃貸借処理に準じた会計処理を行うもの(【STEP5】(1)参照)(適用指針32)
  • 原則的な売買処理に準じた会計処理を行っているリース取引(下記(3)参照)(適用指針32)
  • 転リース取引(転リースについては、利息相当額に関する取扱いが別途規定(適用指針47)されていることから転リースに係る未経過リース料相当分は含めないと考えられる)

また、有形固定資産及び無形固定資産の期末残高には、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係るリース資産の期末残高分は除くと考えられる。これは、所有権移転外ファイナンス・リース取引に係る未経過リース料が未経過リース料の残高に含まれているからである。

 

(3) リース資産総額の重要性が乏しくない場合の会計処理

リース資産総額の重要性が乏しくない場合、以下の3つを検討し売買処理に準じた会計処理を行う。

① リース資産及びリース債務の計上額

② 支払リース料の利息相当額

③ リース資産の減価償却

① リース資産及びリース債務の計上額

貸手の現金購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、リース資産及びリース債務の計上額は異なる。

(ⅰ) 貸手の現金購入価額等が明らかな場合
貸手の現金購入価額等が明らかな場合、リース料総額(残価保証がある場合は、残価保証額を含む。【STEP1】(1)①(ⅰ)参照)を【STEP1】(1)①(ⅱ)の割引率で割り引いた現在価値と貸手の現金購入価額等(【STEP1】(1)②参照)のいずれか低い価額によりリース資産及びリース債務を計上する(適用指針22(1))。通常、企業は同一のものであれば、金額が安い方を購入するため、低い価額の方で貸借対照表に計上することになる。

(ⅱ) 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合
貸手の現金購入価額等が明らかでない場合、リース料総額(残価保証がある場合は、残価保証額を含む。【STEP1】(1)①(ⅰ)参照)を【STEP1】(1)①(ⅱ)の割引率で割り引いた現在価値と見積現金購入価額(【STEP1】(1)②参照)のいずれか低い価額によりリース資産及びリース債務を計上する(適用指針22(2))。低い価額の方で計上する理由は(ⅰ)と同様である。
また、貸手の現金購入価額等は明らかでない場合が多いので、(ⅱ)を用いることが多い。

② 支払リース料の利息相当額

リース料総額は、利息相当額部分とリース債務の元本相当額部分とに区分計算し、利息相当額部分は利息法により各期に支払利息(下記(ⅱ)参照)として会計処理し、元本相当額部分はリース債務の元本返済として会計処理する(適用指針23、24)。現在価値基準(【STEP1】(1)参照)の判定上、維持管理費用相当額等をリース料総額から控除している場合、リース料総額から維持管理費用相当額等の合理的見積額を差し引く。維持管理費用相当額等は発生時にその内容を示す勘定科目で費用計上する(適用指針25、26)。

利息相当額の総額及び各期に計上する支払利息(利息法)は以下のようになる。

(ⅰ) 利息相当額の総額
利息相当額の総額は、リース取引開始日のリース料総額とリース資産(リース債務)の計上価額との差額になる(適用指針23)。

(ⅱ) 各期に計上する支払利息(利息法)
利息法により各期に計上する支払利息はリース債務の未返済元本残高に一定の利率(リース料総額の現在価値がリース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額と等しくなる利率)を乗じて計算する(適用指針24)。

③ リース資産の減価償却

リース資産の減価償却においても通常の固定資産と同様に耐用年数、残存価額、償却方法を決定する必要がある。

(ⅰ) 耐用年数
原則として、リース期間を耐用年数とする。リース期間終了後の再リース期間をファイナンス・リース取引の判定においてリース期間に含めている場合、再リース期間を耐用年数に含める(適用指針27)。

(ⅱ) 残存価額
残存価額は原則としてゼロとする。リース契約上に残価保証の取決めがある場合、原則として、当該残価保証額を残存価額とする(適用指針27)。

(ⅲ) リース資産の償却方法
リース資産の償却方法は、定額法、生産高比例法等から企業の実態に応じて選択する。自己所有の固定資産に適用する減価償却方法と同一の方法を選択する必要はない(適用指針28)。

会計処理の検討後は、【STEP8】(1)で注記を検討する。

《設例1》

当期首に所有権移転外ファイナンス・リース取引の契約を締結した。
当該リース取引に関する基本情報は以下のとおりである。

【基本情報】

  • 借手の見積現金購入価額は12,500である。
  • リース期間は5年である。
  • リース料総額は15,000(消費税抜き)である。
  • リース料は1年に1回、年度末に3,000(消費税抜き)ずつ支払う。
  • 償却方法は定額法である。
  • 貸手の計算利子率は知り得ない。
  • 借手の追加借入利子率は年5%である。
  • リース資産総額の重要性は乏しくない。

【会計処理】

(1) リース資産及びリース負債の計上

(※1)

① 現在価値基準

② 借手の見積現金購入価額12,500

③ ①>②のため、リース資産計額は12,500

(※2) 15,000×8%=1,200

(※3) (※1)(※2)=13,700

(2) 支払リース料の支払い時

(※4) (※7)(※5)=2,439

(※5) リース債務13,700×(※6)≒801

(※6) リース料総額の現在価値とリース取引開始日におけるリース資産(リース債務)の計上価額が等しくなる利率

(注) 上記利率は消費税込みのリース債務をもとに計算する場合と消費税抜きのリース債務をもとに計算する場合が考えられる。本設例では消費税込みのリース債務をもとに計算する場合で算定している。

(※7) 3,000×1.08=3,240

(3) 減価償却

(※8) リース資産12,500÷リース期間5年=2,500

 

(4) リース資産総額の重要性が乏しい場合の会計処理

リース資産総額の重要性が乏しい場合、上記(3)と同様に、以下の3つを検討し、売買処理に準じた会計処理を行う。

① リース資産及びリース債務の計上額

② 支払リース料の利息相当額

③ リース資産の減価償却

① リース資産及びリース債務の計上額

貸手の現金購入価額等が明らかな場合と明らかでない場合で、リース資産及びリース債務の計上額は異なる。

(ⅰ) 貸手の現金購入価額等が明らかな場合
利子込み法(下記②(ⅰ)参照)を採用している場合は、リース料総額でリース資産及びリース負債を計上する。利息相当額の総額を定額法で配分する方法(下記②(ⅱ)参照)を採用している場合は、上記(3)①(ⅰ)と同様である。

(ⅱ) 貸手の現金購入価額等が明らかでない場合
利子込み法(下記②(ⅰ)参照)を採用している場合は、リース料総額でリース資産及びリース負債を計上する。利息相当額の総額を定額法で配分する方法(下記②(ⅱ)参照)を採用している場合は、上記(3)①(ⅱ)と同様である。

② 支払リース料の利息相当額

支払リース料のうち利息相当額は利息法による会計処理が原則であるが、リース資産総額の重要性が乏しい場合、以下の2つの方法のいずれかを選択することができる(適用指針31)。

(ⅰ) 利子込み法(リース料総額から利息相当額を控除せずに、減価償却費(支払リース料と同額)のみが計上される方法)

(ⅱ) 利息相当額の総額を定額法で配分する方法(利息相当額をリース期間で除した金額をリース料支払時に支払利息として計上する方法。利息相当額の総額は上記(3)②(ⅰ)参照)

③ リース資産の減価償却

リース資産の減価償却においても通常の固定資産と同様に耐用年数、残存価額、償却方法を決定する必要がある。

(ⅰ) 耐用年数
上記(3)③(ⅰ)と同様である。

(ⅱ) 残存価額
上記(3)③(ⅱ)と同様である。

(ⅲ) リース資産の償却方法
上記(3)③(ⅲ)と同様である。

なお、注記の検討は不要である(【STEP8】(1)参照)。

《設例2》

当期首に所有権移転外ファイナンス・リース取引の契約を締結した。
当該リース取引に関する基本情報は以下のとおりである。

【基本情報】

  • 借手の見積現金購入価額は12,500である。
  • リース期間は5年である。
  • リース料総額は15,000(消費税抜き)である。
  • リース料は1年に1回、年度末に3,000(消費税抜き)ずつ支払う。
  • 償却方法は定額法である。
  • 貸手の計算利子率は知り得ない。
  • 借手の追加借入利子率は年5%である。
  • リース資産総額の重要性は乏しく、利子込み法を採用している。

【会計処理】

(1) リース資産及びリース負債の計上

(※1) リース料総額

(※2) 15,000×8%=1,200

(※3) (※1)(※2)=16,200

(2) 支払リース料の支払い時

(※4) 3,000×1.08=3,240
利子込み法のため支払利息は計上されない。

(3) 減価償却

(※5) リース資産15,000÷リース期間5年=3,000

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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第11回】

「リース取引(借手)」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

今回は、リース取引の借手の会計処理について解説する。

借手におけるリース取引の会計処理は以下の8つのSTEPで検討することになる。なお、本解説では企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下「基準」という)及び企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下「適用指針」という)適用前のリース取引の会計処理については解説していない。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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