公開日: 2019/11/07 (掲載号:No.343)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例11】「関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例11】

「関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は北関東のとある地方都市で建築資材の製造を行っている株式会社Aにおいて、10年ほど経理を担当しております。私の勤務するA社は、建築資材を総合的に取り扱っているB社の100%子会社で、B社からの注文により多品種小ロットの資材の生産を行い、それらを全てB社に販売しています。

A社はその親会社B社との間で、両社間の取引内容や方法等について覚書を取り交わしており、これまでそれに基づき取引が行われてきました。当該覚書によれば、B社がA社から購入する建設資材の価格は、原則として合理的な原価計算に基づき、両社が協議の上決定すること、及び発注量の大幅な増減、経済的事情の著しい変動が生じたときは、両社が協議の上で購入価格を決定する旨が定められています。

実際の取引価格の決定方法ですが、期中はとりあえず期首に暫定的に決定した「当初取引価格」により取引を行うものの、半年程度経過後において、その時点における実際原価に一定の上乗せ利益を加算した「期末決定価格」を決定していました。このような価格決定方法を採る理由は、両社間の取引は多品種少量の受注生産であり、固定費が約3割を占め、適切な原価計算を行うことが困難であることから、期首においては暫定価格とせざるを得ないためです。

親会社であるB社は、各年度の期末近くになると、A社を含む子会社や関連会社に対し、上記「期末決定価格」と「当初取引価格」との差額に基づき期末における値増・値引調整を決定し、その調整額(期末調整額)を通知していました。

上記に基づき、A社はB社に対する売上に関しては、実際に支払を受けた当初取引価格で計上し、また、期末決定価格の方が当初取引価格よりも低いことに伴い発生する期末調整額につき、売上値引によって経理し、売上計上額から減算処理しています。

ところが、今般受けた税務調査で、当社が売上値引と経理処理した金額について、子会社の利益を親会社に付け替えたものであり、寄附金に該当すると指摘されました。親会社が子会社の経営支援をする際に寄附金の問題が生じ得ることは理解しておりましたが、子会社が親会社に対して寄附をするなどということは理解しがたい主張であり、到底受け入れることはできません。そもそも、当社が親会社との間で行っている取引に関し生じる期末調整額は、実際原価に基づく合理的な原価計算の結果発生するものであり、本来あるべき公正な取引価格への修正と考えられるもので、寄附や贈与とは全くかけ離れた取引実務といえます。

本件についてどのように考えるのが税務上適切なのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例11】

「関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は北関東のとある地方都市で建築資材の製造を行っている株式会社Aにおいて、10年ほど経理を担当しております。私の勤務するA社は、建築資材を総合的に取り扱っているB社の100%子会社で、B社からの注文により多品種小ロットの資材の生産を行い、それらを全てB社に販売しています。

A社はその親会社B社との間で、両社間の取引内容や方法等について覚書を取り交わしており、これまでそれに基づき取引が行われてきました。当該覚書によれば、B社がA社から購入する建設資材の価格は、原則として合理的な原価計算に基づき、両社が協議の上決定すること、及び発注量の大幅な増減、経済的事情の著しい変動が生じたときは、両社が協議の上で購入価格を決定する旨が定められています。

実際の取引価格の決定方法ですが、期中はとりあえず期首に暫定的に決定した「当初取引価格」により取引を行うものの、半年程度経過後において、その時点における実際原価に一定の上乗せ利益を加算した「期末決定価格」を決定していました。このような価格決定方法を採る理由は、両社間の取引は多品種少量の受注生産であり、固定費が約3割を占め、適切な原価計算を行うことが困難であることから、期首においては暫定価格とせざるを得ないためです。

親会社であるB社は、各年度の期末近くになると、A社を含む子会社や関連会社に対し、上記「期末決定価格」と「当初取引価格」との差額に基づき期末における値増・値引調整を決定し、その調整額(期末調整額)を通知していました。

上記に基づき、A社はB社に対する売上に関しては、実際に支払を受けた当初取引価格で計上し、また、期末決定価格の方が当初取引価格よりも低いことに伴い発生する期末調整額につき、売上値引によって経理し、売上計上額から減算処理しています。

ところが、今般受けた税務調査で、当社が売上値引と経理処理した金額について、子会社の利益を親会社に付け替えたものであり、寄附金に該当すると指摘されました。親会社が子会社の経営支援をする際に寄附金の問題が生じ得ることは理解しておりましたが、子会社が親会社に対して寄附をするなどということは理解しがたい主張であり、到底受け入れることはできません。そもそも、当社が親会社との間で行っている取引に関し生じる期末調整額は、実際原価に基づく合理的な原価計算の結果発生するものであり、本来あるべき公正な取引価格への修正と考えられるもので、寄附や贈与とは全くかけ離れた取引実務といえます。

本件についてどのように考えるのが税務上適切なのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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