公開日: 2021/09/02 (掲載号:No.434)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例33】「業績悪化事由による賞与の減額と事前確定届出給与」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例33】

「業績悪化事由による賞与の減額と事前確定届出給与」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内の下町において作業工具の製造及び販売を行う株式会社A(3月決算法人)において経理担当の課長を務めております。当社は創業以来50年以上、下町の町工場として地道に事業を継続してきましたが、その技術力はNASAや航空機メーカーから直接注文が来るくらい一流であると自負しております。そのためなのか、当社の業績にはかなりムラがあり、高度な工具の受注が多数入り売上が大幅に伸びる期もあれば、その反動で売上が落ち込み損失を計上する期もあります。

わが社においては、業績を左右するような大口の商談は、担当の役員が競って受注する状況であるため、業績に貢献した役員に対しては賞与で報いるという方針を採っております。その場合の賞与の支給形態ですが、ここ数年は前年実績に応じた事前確定届出給与によっております。

ところが、先日受けた税務調査で当該事前確定届出給与の損金性が問題となりました。A社の取締役のうちBとCに対して、前事業年度について事前確定届出給与としてそれぞれ夏季に300万円、冬季に500万円支払うものとして届け出ていましたが、夏季賞与については届出通り支払ったものの、冬季賞与については100万円に減額して支給していました。

冬季賞与について届出額から減額支給した理由は、コロナ禍の影響でA社の資金繰りが急速に悪化し、満額支払うことは極めて困難ということで、支給日直前の臨時株主総会及び取締役会で減額決議がなされたというものです。今回の減額支給は、会社法に定められた正当な手続きを経て行ったものであり、役員給与の支給で問題となりがちな「恣意的な」利益調整の側面は全くないものと考えられるため、夏季・冬季とも全額損金算入されるべきものと認識しております。

それに対し調査官は、届出通り支払っていない場合には、すべて事前確定届出給与に該当せず、減額した冬季のみならず、届出通り支払った夏季も全額損金不算入であると主張しております。調査官のこのような主張は、極めて理不尽ではないかと感じているのですが、果たして法人税法の解釈として正当といえるのでしょうか、教えてください。

〇 事前確定届出給与の届出内容(変更前)とその変更後の内容

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例33】

「業績悪化事由による賞与の減額と事前確定届出給与」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内の下町において作業工具の製造及び販売を行う株式会社A(3月決算法人)において経理担当の課長を務めております。当社は創業以来50年以上、下町の町工場として地道に事業を継続してきましたが、その技術力はNASAや航空機メーカーから直接注文が来るくらい一流であると自負しております。そのためなのか、当社の業績にはかなりムラがあり、高度な工具の受注が多数入り売上が大幅に伸びる期もあれば、その反動で売上が落ち込み損失を計上する期もあります。

わが社においては、業績を左右するような大口の商談は、担当の役員が競って受注する状況であるため、業績に貢献した役員に対しては賞与で報いるという方針を採っております。その場合の賞与の支給形態ですが、ここ数年は前年実績に応じた事前確定届出給与によっております。

ところが、先日受けた税務調査で当該事前確定届出給与の損金性が問題となりました。A社の取締役のうちBとCに対して、前事業年度について事前確定届出給与としてそれぞれ夏季に300万円、冬季に500万円支払うものとして届け出ていましたが、夏季賞与については届出通り支払ったものの、冬季賞与については100万円に減額して支給していました。

冬季賞与について届出額から減額支給した理由は、コロナ禍の影響でA社の資金繰りが急速に悪化し、満額支払うことは極めて困難ということで、支給日直前の臨時株主総会及び取締役会で減額決議がなされたというものです。今回の減額支給は、会社法に定められた正当な手続きを経て行ったものであり、役員給与の支給で問題となりがちな「恣意的な」利益調整の側面は全くないものと考えられるため、夏季・冬季とも全額損金算入されるべきものと認識しております。

それに対し調査官は、届出通り支払っていない場合には、すべて事前確定届出給与に該当せず、減額した冬季のみならず、届出通り支払った夏季も全額損金不算入であると主張しております。調査官のこのような主張は、極めて理不尽ではないかと感じているのですが、果たして法人税法の解釈として正当といえるのでしょうか、教えてください。

〇 事前確定届出給与の届出内容(変更前)とその変更後の内容

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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