公開日: 2022/02/03 (掲載号:No.455)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例38】「不動産業者が外務員に支払う歩合給の損金計上時期」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例38】

「不動産業者が外務員に支払う歩合給の損金計上時期」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、東京都内で不動産仲介業を営む株式会社Aの代表取締役です。私がこの業界に入ったきっかけは、大学卒業後先輩の勧めでなんとなく大手不動産会社に入社したことだったわけですが、自分が頑張れば頑張るほど結果が出て実入りが多くなるという仕事のやり方が、思いのほか私の性に合ったため、以来30年間この業界で働いております。

大手不動産会社を退職して独立開業したのは今から15年前であり、今では20人のスタッフを抱えるところまで来ております。現在、わが社の主たる業務は、首都圏一円の一戸建てや分譲マンションの売買仲介となっております。

不動産業界(宅地建物取引業者)においては、保険や自動車販売業界でも導入されていると思われますが、その営業職の給与体系は、売上に応じて給与が決まる歩合給の場合と、基本給と諸手当によって賃金が決まってくる固定給の場合とがあるようです。ただし、歩合給といっても、完全歩合給(フルコミッション)のケースと、歩合の部分と固定給(最低保証)の部分があるケース(一部歩合給)とに分けられるようです。

私自身は、営業職たるもの、すべからく完全歩合給で働くべしと考えており、自社の営業職にもそれを強く勧めております。経営者の立場からみても、完全歩合給は会社の利益に真に貢献している者に報いる報酬体系といえることから、合理的と考えております。給料制というのは、働かない者にも会社の稼ぎを分配する仕組みであり、社会主義的な悪平等主義にもつながるため、大企業に多い働かない中高年に悩まされている優秀な営業マンほど嫌うのではないかと、私は理解していました。

しかし、わが社の場合、実際には、完全歩合給と一部歩合給との割合が半々といったところです。完全歩合給は、働く人間にとって、報酬に上限がないことから大きなインセンティブになると信じていますが、わが社に転職してくる者と面接してみると、契約が取れないときの不安定さやプレッシャーが怖いと言って、一部歩合給を選択するようです。

さて、そのようなわが社に先日税務署の調査が入り、一点当局と見解が異なる事項が生じました。それは、当社の扱っていた一戸建ての販売収益の計上時期に誤りがあり、当社が計上した事業年度(X2事業年度)ではなくその前事業年度(X1事業年度)に計上すべきであるという点に関しては調査官と合意したのですが、その原価につき当社の完全歩合給の営業担当への実際の支払いがX2事業年度であるからといって、X2事業年度まで認められないという調査官の主張につき、当社はどうにも承服できないという点です。

費用収益対応の原則に従えば、売上収益に対応する事業年度にその原価に含まれるべき歩合給も計上すべきとなるものと考えておりますが、当社の考え方に問題はあるのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例38】

「不動産業者が外務員に支払う歩合給の損金計上時期」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、東京都内で不動産仲介業を営む株式会社Aの代表取締役です。私がこの業界に入ったきっかけは、大学卒業後先輩の勧めでなんとなく大手不動産会社に入社したことだったわけですが、自分が頑張れば頑張るほど結果が出て実入りが多くなるという仕事のやり方が、思いのほか私の性に合ったため、以来30年間この業界で働いております。

大手不動産会社を退職して独立開業したのは今から15年前であり、今では20人のスタッフを抱えるところまで来ております。現在、わが社の主たる業務は、首都圏一円の一戸建てや分譲マンションの売買仲介となっております。

不動産業界(宅地建物取引業者)においては、保険や自動車販売業界でも導入されていると思われますが、その営業職の給与体系は、売上に応じて給与が決まる歩合給の場合と、基本給と諸手当によって賃金が決まってくる固定給の場合とがあるようです。ただし、歩合給といっても、完全歩合給(フルコミッション)のケースと、歩合の部分と固定給(最低保証)の部分があるケース(一部歩合給)とに分けられるようです。

私自身は、営業職たるもの、すべからく完全歩合給で働くべしと考えており、自社の営業職にもそれを強く勧めております。経営者の立場からみても、完全歩合給は会社の利益に真に貢献している者に報いる報酬体系といえることから、合理的と考えております。給料制というのは、働かない者にも会社の稼ぎを分配する仕組みであり、社会主義的な悪平等主義にもつながるため、大企業に多い働かない中高年に悩まされている優秀な営業マンほど嫌うのではないかと、私は理解していました。

しかし、わが社の場合、実際には、完全歩合給と一部歩合給との割合が半々といったところです。完全歩合給は、働く人間にとって、報酬に上限がないことから大きなインセンティブになると信じていますが、わが社に転職してくる者と面接してみると、契約が取れないときの不安定さやプレッシャーが怖いと言って、一部歩合給を選択するようです。

さて、そのようなわが社に先日税務署の調査が入り、一点当局と見解が異なる事項が生じました。それは、当社の扱っていた一戸建ての販売収益の計上時期に誤りがあり、当社が計上した事業年度(X2事業年度)ではなくその前事業年度(X1事業年度)に計上すべきであるという点に関しては調査官と合意したのですが、その原価につき当社の完全歩合給の営業担当への実際の支払いがX2事業年度であるからといって、X2事業年度まで認められないという調査官の主張につき、当社はどうにも承服できないという点です。

費用収益対応の原則に従えば、売上収益に対応する事業年度にその原価に含まれるべき歩合給も計上すべきとなるものと考えておりますが、当社の考え方に問題はあるのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~40】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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