法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【第3回】「法人税の課税所得計算と損金経理(その3)」
筆者:安部 和彦
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【第3回】
「法人税の課税所得計算と損金経理(その3)」
国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦
(5) 確定決算主義と逆基準性
次に、わが国における法人税の課税所得計算に関して、企業会計準則主義とともに重要な原則である「確定決算主義」について確認しておきたい。
確定決算主義とは一般に、法人は確定した決算に基づき、確定申告書を作成し提出すべきことを指す(法法74①)(※1)。ここでいう「確定した決算」とは、会社法上、定時株主総会による計算書類の承認(会社法438②)又は定時株主総会に提出された計算書類の取締役による内容の報告(会社法439)を意味する(※2)。
(※1) なお広義では、損金経理や公正処理基準を含むと解されている。岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)29頁。一方、渡辺教授は、確定決算主義は手続的なルール、公正処理基準は実体的なルールと整理する。渡辺徹也『スタンダード法人税法』(弘文堂・2018年)36頁。
(※2) 金子宏『租税法(第二十二版)』(弘文堂・2017年)868頁。
ただし、判例上、例えば、事業年度末に総勘定元帳の各勘定の閉鎖後の残高を基に作成した決算書類に基づいて作成し行った確定申告は、当該決算書類につき株主総会の同意を得ていないとしても有効であるとされる(福岡高裁平成19年6月19日判決・訟月53巻9号2728頁)など、一定の場合には、株主総会の承認を受けていない計算書類に基づく確定申告も有効であると解されている。
ところで、このような確定決算主義をめぐりかねてから問題となってきた事象に、いわゆる逆基準性(逆基準現象)の問題がある。この点については、会計学と租税法とではやや異なった見解が提示されている。
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連載目次
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
▷総論
● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)
- 【第1回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その1)
- (1)益金と損金の意義
- (2)企業会計準拠主義と「別段の定め」
- 【第2回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その2)
- (3)損金にならない不正な支出
- (4)資本等取引と損金
- 【第3回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その3)
- (5)確定決算主義と逆基準性
- 【第4回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その4)
- (6)費用収益対応の原則
- (7)権利確定主義と債務確定主義
- 【第5回】 法人税の課税所得計算と損金経理(その5)
- (8)費用収益対応の原則と権利確定主義との関係
- (9)損金経理とは
▷事例解説
- 【事例1】 即時償却と損金経理
- 【事例2】 役員に対する土地建物の現物支給
- 【事例3】 役員退職給与に係る「不相当に高額」の意義
- 【事例4】 米国のリミテッドパートナーシップを通じた不動産投資から生じた費用及び損失の取り込みの可否
- 【事例5】 医療法人の有する医業未収金の償却と損金経理
- 【事例6】 機械装置の取得と減価償却費の計上
- 【事例7】 医療用検査機器の機械装置該当性
- 【事例8】 医薬品共同開発負担金の損金性
- 【事例9】 減価償却資産の判定単位
- 【事例10】 賃貸用マンションのリフォーム費用の損金性
- 【事例11】 関係会社への売上値引及び単価変更による売上の減額の寄附金該当性
- 【事例12】 返品調整引当金の意義とその廃止の経緯
- 【事例13】 従業員への慰安目的で実施する「感謝の夕べ」に要する費用の損金性
- 【事例14】 分掌変更により支払う役員退職給与の損金性
- 【事例15】 特許業務法人の社員は使用人兼務役員に該当するのか
- 【事例16】 宅地造成に伴う雨水排水路工事費に係る見積金額の損金計上
- 【事例17】 建物内部造作の「器具及び備品」該当性
- 【事例18】 臨床検査の委託を受ける会社における検査機器に対する特別償却の適用
- 【事例19】 仮装経理による棚卸資産過大計上分に係る特別損失の損金性
- 【事例20】 売上原価と棚卸資産の評価方法
- 【事例21】 従業員名義預金口座に振り込まれていた決算賞与の損金性
- 【事例22】 役員給与における「不相当に高額な部分」の意義と租税法律主義
- 【事例23】 土地建物を一括で購入した場合の建物の取得価額と減価償却費
- 【事例24】 法人間の船舶取引に係る譲渡価額と減価償却費
- 【事例25】 事業譲渡に伴って行った債権放棄の貸倒損失該当性と寄附金課税
- 【事例26】 中古自動車販売業の代表者に対する役員報酬の過大性
- 【事例27】 支払利息の損金性と同族会社の行為計算否認
- 【事例28】 従業員が窃取した棚卸資産の販売に関する損害賠償請求権と貸倒損失
- 【事例29】 ガソリンスタンドに対する売掛金の減額処理の寄附金該当性
- 【事例30】 出向元法人が負担する出向者給与負担差額の損金性
- 【事例31】 法人の破産手続きと破産債権に関する貸倒れの時期
- 【事例32】 修繕費の損金計上のタイミングと仮装行為
- 【事例33】 業績悪化事由による賞与の減額と事前確定届出給与
- 【事例34】 事業年度末における未使用ポイントの損金算入の可否
- 【事例35】 医療法人の代表者の配偶者が使用する車両と定期同額給与となる経済的利益
- 【事例36】 同族会社の代表者と同居する愛人に対して支給する給与の損金性
- 【事例37】 法人の代表者が自分個人名義のクレジットカードで支払った飲食代金の交際費該当性
- 【事例38】 不動産業者が外務員に支払う歩合給の損金計上時期
- 【事例39】 役員退職給与の支払時における損金算入
- 【事例40】 過大支払電気料金の損金性と損害賠償請求権
- 【事例41】 ゴルフ場の運営会社に営業権を譲渡した場合の寄附金該当性
- 【事例42】 同一事業グループからの借入金に係る同族会社等の行為計算否認規定の適用
・・・ 以下、順次公開 ・・・
筆者紹介
安部 和彦
(あんべ・かずひこ)
税理士
和彩総合事務所 代表社員
国際医療福祉大学大学院教授東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。【主要著書】
・『消費税 インボイス制度導入の実務』(清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ 消費税の判定誤りと実務対応』(清文社)
・『新版 医療・福祉施設における消費税の実務』(清文社)
・『【第三版】税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』(清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税Q&A』(清文社)
・『Q&A 医療法人の事業承継ガイドブック』(清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(清文社)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(税務経理協会)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(税務経理協会)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(中央経済社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(清文社)【主要論文】
・「わが国企業の海外事業展開とタックスヘイブン対策税制について」(『国際税務』2001年12月号)
・「タックスヘイブン対策税制の適用範囲-キャドバリー・シュウェップス事件の欧州裁判所判決等を手がかりにして-」『税務弘報』(2007年10月号)
など
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