公開日: 2021/06/03 (掲載号:No.422)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例30】「出向元法人が負担する出向者給与負担差額の損金性」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例30】

「出向元法人が負担する出向者給与負担差額の損金性」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内において電気工事業を営む株式会社Aで総務部長を務めております。わが社は設立以来50年、地道に業務を拡大してきており、現在では業務エリアは関東一円をカバーし、関連する子会社も10社以上となっております。

ところが、平成から令和の時代を迎え、取引先のいくつかが倒産や廃業したり、ベテランの従業員が何人も離職するといった事情があったばかりでなく、昨年来のコロナ禍の影響も少なからずあって、当社の業績が急速に悪化しております。そのため、経営コンサルティング会社に依頼し全社的な業務改善策を練ってもらったところ、抜本的なリストラが不可欠との提案を受けました。そこで、苦渋の決断ではありますが、子会社を数社清算することとしました。また、残りの子会社についても、従業員を相当数解雇するとともに、経営改善のためにA社から出向している社員の大半をA社に戻す人事を行いました。これらの施策が功を奏して、ようやく業績が回復基調になってきました。

しかし困ったことに、先日来受けている税務調査で調査官から、A社から出向者Bを受け入れているC社(A社の100%子会社)に対して支払っている給与負担金(Bに対する給与総額の50%相当額)は、本来C社が負担すべき出向者の給与をA社が一部肩代わりしているものであり、通常の経済取引として是認できるものではないため、A社のC社に対する寄附金に該当する旨言い渡されました。

A社は、創業後間もないC社の立ち上げのためには業界事情に精通したベテラン社員が必要との判断から、A社で課長クラスのBを営業部長として出向させたのであり、また、出向後も出向元法人であるA社とBとは雇用関係が維持されているため、Bとしては、出向後においても従来通りの労働条件を保証するよう要求する権利があると考えるべきであり、C社の規定による給与水準ではそれが保証されていないのであれば、A社はその差額を補填すべきということになると考えられます。

したがって、A社がC社に対してBの給与に関して較差補填金として支払った金額は、当然のごとくA社において損金算入されるべきと考えますが、このように税務調査で主張しても問題ないでしょうか、教えてください。

なお、C社には創業以来プロパーの正規社員はおらず、A社からの出向者数名のほかは、すべて非正規社員のみで構成されています。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例30】

「出向元法人が負担する出向者給与負担差額の損金性」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、都内において電気工事業を営む株式会社Aで総務部長を務めております。わが社は設立以来50年、地道に業務を拡大してきており、現在では業務エリアは関東一円をカバーし、関連する子会社も10社以上となっております。

ところが、平成から令和の時代を迎え、取引先のいくつかが倒産や廃業したり、ベテランの従業員が何人も離職するといった事情があったばかりでなく、昨年来のコロナ禍の影響も少なからずあって、当社の業績が急速に悪化しております。そのため、経営コンサルティング会社に依頼し全社的な業務改善策を練ってもらったところ、抜本的なリストラが不可欠との提案を受けました。そこで、苦渋の決断ではありますが、子会社を数社清算することとしました。また、残りの子会社についても、従業員を相当数解雇するとともに、経営改善のためにA社から出向している社員の大半をA社に戻す人事を行いました。これらの施策が功を奏して、ようやく業績が回復基調になってきました。

しかし困ったことに、先日来受けている税務調査で調査官から、A社から出向者Bを受け入れているC社(A社の100%子会社)に対して支払っている給与負担金(Bに対する給与総額の50%相当額)は、本来C社が負担すべき出向者の給与をA社が一部肩代わりしているものであり、通常の経済取引として是認できるものではないため、A社のC社に対する寄附金に該当する旨言い渡されました。

A社は、創業後間もないC社の立ち上げのためには業界事情に精通したベテラン社員が必要との判断から、A社で課長クラスのBを営業部長として出向させたのであり、また、出向後も出向元法人であるA社とBとは雇用関係が維持されているため、Bとしては、出向後においても従来通りの労働条件を保証するよう要求する権利があると考えるべきであり、C社の規定による給与水準ではそれが保証されていないのであれば、A社はその差額を補填すべきということになると考えられます。

したがって、A社がC社に対してBの給与に関して較差補填金として支払った金額は、当然のごとくA社において損金算入されるべきと考えますが、このように税務調査で主張しても問題ないでしょうか、教えてください。

なお、C社には創業以来プロパーの正規社員はおらず、A社からの出向者数名のほかは、すべて非正規社員のみで構成されています。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
国際医療福祉大学大学院教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。

【主要著書】
・『消費税 インボイス制度導入の実務』(清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ 消費税の判定誤りと実務対応』(清文社)
・『新版 医療・福祉施設における消費税の実務』(清文社)
・『【第三版】税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与実務Q&A』(清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税Q&A』(清文社)
・『Q&A 医療法人の事業承継ガイドブック』(清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(清文社)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(税務経理協会)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(税務経理協会)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(中央経済社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(清文社)

【主要論文】
・「わが国企業の海外事業展開とタックスヘイブン対策税制について」(『国際税務』2001年12月号)
・「タックスヘイブン対策税制の適用範囲-キャドバリー・シュウェップス事件の欧州裁判所判決等を手がかりにして-」『税務弘報』(2007年10月号)
など
            

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