公開日: 2021/07/01 (掲載号:No.426)
文字サイズ

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例31】「法人の破産手続きと破産債権に関する貸倒れの時期」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例31】

「法人の破産手続きと破産債権に関する貸倒れの時期」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方において工作機械製造業を営む株式会社A(3月決算法人)で財務・経理部長を務めております。わが社の主要な取引先である自動車業界及び自動車部品業界は、わが国の製造業の中でもいわゆる「勝ち組」とされてきましたが、最近は将来の自動車に対する環境規制に関するグローバルスタンダードが、わが国企業が得意とする「ハイブリッド方式」や「水素エンジン」ではなく、欧米企業が注力している「電気自動車(EV車)」となる見込みで、そうなると自動車本体はもちろんのこと、エンジンをはじめとする自動車部品を製造しているわが国企業への影響は絶大なものとなり、業界の将来を考えると、正直いって頭が痛いところです。

そのような中、現在自動車部品メーカーの間では、様々な形の業務提携や事業再編が進行中であり、取引先の中には経営状況が悪化して事業の継続が困難となっている会社も現れております。残念ながら、わが社の取引先の中にもコロナ禍の前から急速に財務状態が悪くなり、経営破綻する企業が出てきております。当該企業(株式会社B)は3年ほど前に経営破綻し、管轄する地方裁判所から破産宣告を受けましたが、当社は、それまで再三にわたりコンタクトを取り1円でも多く売掛債権を支払うよう迫ってきたB社の元代表取締役との音信が不通となり、最早債権回収の手段は尽きたことを根拠に、2020(令和2)年2月に取締役会を開催し、B社に対する売掛債権38,000,000円につき、回収不能になったとして貸倒処理すべき旨を決議しました。そのため、当社は2020(令和2)年3月期に、当該売掛債権38,000,000円全額について貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入しております。

ところが、先日受けた税務調査で調査官は、当社のB社に対する売掛債権が回収不能となったのは、裁判所による破産終結の決定があったときであり、本件の場合は官報によりB社の破産事件終結の旨の公示があった時点(2019(平成31)年3月4日)であるとして、当該売掛債権に係る貸倒損失は2019(平成31)年3月期に計上すべきといってきました。これは、当社の債権回収に係る努力を全く評価しない暴論であると考えるのですが、それでも調査官の主張に従うべきでしょうか、教えてください。

なお、本件に関し、取引先B社の経営破綻とA社の貸倒処理に関する時系列を示すと以下の通りとなっており、A社の2019(平成31)年3月期は、38,000,000円の貸倒損失計上前は、10,000,000円程度の黒字、2020(令和2)年3月期は1億円超の黒字決算となっております。

〇 取引先の経営破綻と貸倒処理の時系列

H29.6.24 H30.8.14 H31.1.25 H31.3.4 R2.2.23 裁判所からB社に係る破産宣告の通知書が届く A社が当該破産事件の最終配当を受ける 破産終結によりB社の登記簿閉鎖 官報によりB社の破産事件終結の旨公告 取締役会でB社に対する売掛債権回収不能を決議

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例31】

「法人の破産手続きと破産債権に関する貸倒れの時期」

 

国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方において工作機械製造業を営む株式会社A(3月決算法人)で財務・経理部長を務めております。わが社の主要な取引先である自動車業界及び自動車部品業界は、わが国の製造業の中でもいわゆる「勝ち組」とされてきましたが、最近は将来の自動車に対する環境規制に関するグローバルスタンダードが、わが国企業が得意とする「ハイブリッド方式」や「水素エンジン」ではなく、欧米企業が注力している「電気自動車(EV車)」となる見込みで、そうなると自動車本体はもちろんのこと、エンジンをはじめとする自動車部品を製造しているわが国企業への影響は絶大なものとなり、業界の将来を考えると、正直いって頭が痛いところです。

そのような中、現在自動車部品メーカーの間では、様々な形の業務提携や事業再編が進行中であり、取引先の中には経営状況が悪化して事業の継続が困難となっている会社も現れております。残念ながら、わが社の取引先の中にもコロナ禍の前から急速に財務状態が悪くなり、経営破綻する企業が出てきております。当該企業(株式会社B)は3年ほど前に経営破綻し、管轄する地方裁判所から破産宣告を受けましたが、当社は、それまで再三にわたりコンタクトを取り1円でも多く売掛債権を支払うよう迫ってきたB社の元代表取締役との音信が不通となり、最早債権回収の手段は尽きたことを根拠に、2020(令和2)年2月に取締役会を開催し、B社に対する売掛債権38,000,000円につき、回収不能になったとして貸倒処理すべき旨を決議しました。そのため、当社は2020(令和2)年3月期に、当該売掛債権38,000,000円全額について貸倒損失として損金経理を行い、損金の額に算入しております。

ところが、先日受けた税務調査で調査官は、当社のB社に対する売掛債権が回収不能となったのは、裁判所による破産終結の決定があったときであり、本件の場合は官報によりB社の破産事件終結の旨の公示があった時点(2019(平成31)年3月4日)であるとして、当該売掛債権に係る貸倒損失は2019(平成31)年3月期に計上すべきといってきました。これは、当社の債権回収に係る努力を全く評価しない暴論であると考えるのですが、それでも調査官の主張に従うべきでしょうか、教えてください。

なお、本件に関し、取引先B社の経営破綻とA社の貸倒処理に関する時系列を示すと以下の通りとなっており、A社の2019(平成31)年3月期は、38,000,000円の貸倒損失計上前は、10,000,000円程度の黒字、2020(令和2)年3月期は1億円超の黒字決算となっております。

〇 取引先の経営破綻と貸倒処理の時系列

H29.6.24 H30.8.14 H31.1.25 H31.3.4 R2.2.23 裁判所からB社に係る破産宣告の通知書が届く A社が当該破産事件の最終配当を受ける 破産終結によりB社の登記簿閉鎖 官報によりB社の破産事件終結の旨公告 取締役会でB社に対する売掛債権回収不能を決議

この記事全文をご覧いただくには、プロフェッションネットワークの会員(プレミアム
会員又は一般会員)としてのログインが必要です。
通常、Profession Journalはプレミアム会員専用の閲覧サービスですので、プレミアム
会員のご登録をおすすめします。
プレミアム会員の方は下記ボタンからログインしてください。

プレミアム会員のご登録がお済みでない方は、下記ボタンから「プレミアム会員」を選択の上、お手続きください。

連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

関連書籍

法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

重点解説 法人税申告の実務

公認会計士・税理士 鈴木基史 著

演習法人税法

公益社団法人 全国経理教育協会 編

【電子書籍版】法人税事例選集

公認会計士・税理士 森田政夫 共著 公認会計士・税理士 西尾宇一郎 共著

事例で解説 法人税の損金経理

税理士 安部和彦 著

税法基本判例 Ⅰ

谷口勢津夫 著

社長!税務調査の事前対策してますか

公認会計士・税理士 清原裕平 著

法人の不良債権処理と税務の対応

税理士 内山 裕 著

実務必須の重要税務判例70

弁護士 菊田雅裕 著

国税調査の舞台裏

税理士 小倉敏郎 著

法人税申告書と決算書の作成手順

税理士 杉田宗久 共著 税理士 岡野敏明 共著
#