公開日: 2025/06/05 (掲載号:No.621)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例75】「医療法人の理事長に対する貸付金に係る利率の水準」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例75】

「医療法人の理事長に対する貸付金に係る利率の水準」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、今年で創業50周年を迎える、東北地方のある県の県内第二の都市に病院や診療所、訪問看護ステーション等を開設する医療法人社団X(3月決算法人)において、事務長を務めております。

医療業界はご承知の通り、ここ数年はコロナ禍に振り回されており、現場が疲弊して多数の離職者が出るなど、散々な有様でした。当医療法人においても、コロナが猛威を振るっていた2020年春から2022年末までの時期には、医療スタッフがそれへの対応にかかりっきりとなったため、管理部門のスタッフもそれにより手薄となった業務へのバックアップに入るなど、両者が一体となってただ走り続けることによりなんとかその嵐の中を潜り抜けてきたといったところでした。幸いなことにその時期は、国からコロナ関連の様々な補助金を交付されていたことから、法人の経営状況は意外に悪くなったのですが、コロナが感染症の5類に分類された2023年5月以降は、一転して補助金で上げ底となっていた収益性が一気に落ち込み、病院経営の体質改善への取り組みが待ったなしとなりました。そのため、現在、法人を挙げて業務の効率化、収益性の向上に取り組んでいるところです。

さて、そのような中、先週から所轄税務署の税務調査を受けております。そこで現在問題となっているのは、法人の理事長に対する貸付金に関してです。すなわち、医療法人傘下の診療所の建物を建て替える際、その2階及び3階部分を理事長の自宅としたのですが、その部分の建設費用相当額(約1億円)及び生活費充当金額(約2,000万円)につき一旦、銀行から法人に対し融資を受け、さらに法人から理事長個人に転貸するという方法を採っています。当該貸付金につき、法人は銀行から受けた融資と同等の金利で理事長に貸し付けていることとして、当該利息相当分に係る経済的利益につき源泉徴収を行っていますが、調査官は、建設費用相当額はともかくとして、生活費充当金額に対する貸付金利は低すぎるとして、利子税の特例基準割合によるべきと主張しております。法人としては、当該貸付金につき得も損もしていないため、銀行融資に係る金利と同等の金利で貸し付けることに何の問題もないと考えておりますが、税法上はどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例75】

「医療法人の理事長に対する貸付金に係る利率の水準」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、今年で創業50周年を迎える、東北地方のある県の県内第二の都市に病院や診療所、訪問看護ステーション等を開設する医療法人社団X(3月決算法人)において、事務長を務めております。

医療業界はご承知の通り、ここ数年はコロナ禍に振り回されており、現場が疲弊して多数の離職者が出るなど、散々な有様でした。当医療法人においても、コロナが猛威を振るっていた2020年春から2022年末までの時期には、医療スタッフがそれへの対応にかかりっきりとなったため、管理部門のスタッフもそれにより手薄となった業務へのバックアップに入るなど、両者が一体となってただ走り続けることによりなんとかその嵐の中を潜り抜けてきたといったところでした。幸いなことにその時期は、国からコロナ関連の様々な補助金を交付されていたことから、法人の経営状況は意外に悪くなったのですが、コロナが感染症の5類に分類された2023年5月以降は、一転して補助金で上げ底となっていた収益性が一気に落ち込み、病院経営の体質改善への取り組みが待ったなしとなりました。そのため、現在、法人を挙げて業務の効率化、収益性の向上に取り組んでいるところです。

さて、そのような中、先週から所轄税務署の税務調査を受けております。そこで現在問題となっているのは、法人の理事長に対する貸付金に関してです。すなわち、医療法人傘下の診療所の建物を建て替える際、その2階及び3階部分を理事長の自宅としたのですが、その部分の建設費用相当額(約1億円)及び生活費充当金額(約2,000万円)につき一旦、銀行から法人に対し融資を受け、さらに法人から理事長個人に転貸するという方法を採っています。当該貸付金につき、法人は銀行から受けた融資と同等の金利で理事長に貸し付けていることとして、当該利息相当分に係る経済的利益につき源泉徴収を行っていますが、調査官は、建設費用相当額はともかくとして、生活費充当金額に対する貸付金利は低すぎるとして、利子税の特例基準割合によるべきと主張しております。法人としては、当該貸付金につき得も損もしていないため、銀行融資に係る金利と同等の金利で貸し付けることに何の問題もないと考えておりますが、税法上はどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『新版 修正申告と更正の請求の対応と実務』(2025年・清文社)
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

           

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