法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【事例16】
「宅地造成に伴う雨水排水路工事費に係る見積金額の損金計上」
国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦
【Q】
私は埼玉県で宅地開発業を営む株式会社A(3月決算)の代表取締役です。今回のご相談は、わが社が数年前から行ってきた、県内のX市における宅地開発事業に関する法人税の取扱いに関するものです。
A社は、X市から土地を購入し、宅地として造成し販売することとしました。当該宅地開発は、都市計画法上、埼玉県知事の許可を必要とし、当該許可にはX市の同意が必要とされます。X市はこの同意権を背景に、A社に対して、今回の開発区域外にある雨水排水路の整備などを行うよう指導してきました。A社は当該指導を了承し、X市の同意を得て埼玉県知事から平成27年6月に開発許可を受けました。その後A社は当該宅地を造成して平成29年12月末までの6ヶ月間にすべて販売し、法人税の申告上、その収益を平成30年3月期の益金に算入しました。
しかし、宅地販売後になって、X市の担当者は雨水排水路の仕様の変更を要請してきましたが、これにより工事費が一挙に3倍となるため、A社は当該要請を拒否しました。その後X市の担当者は、当初の工費の範囲内で収まるような仕様の変更にとどめる代案を提示してきましたので、A社はこれを受け入れ、当該排水路の工事を行うB建築株式会社に見積もりを依頼しました。B社は直ちに見積もり(1億5,000万円)を提示してきたので、これをX市の担当者に連絡しました。
困ったことに、X市は更に方針を変更し、当該工事は公共事業として行うこととし、A社に対して、当該見積額を都市下水路整備負担金としてX市に支払うよう求めたため、A社はこれを平成30年3月までに了承しました。また、A社は当該負担金相当額を全額平成30年3月期の法人税の申告上、売上原価として損金に算入しました。X市も当該金額を平成30年度一般会計予算において歳入として計上したところです。
ところが、X市の住民が当該工事を含む下水路整備事業につき反対運動を起こしたため、X市は平成31年3月において当該工事を実施しないことを決定し、結局、A社もまた上記負担金の支出を行わないこととなりました。
このような経緯がありましたが、最近受けた税務調査で調査官から、都市下水路整備負担金として平成30年3月期に売上原価として損金算入した金額は、実際に支払っておらず、債務として確定していないことから、損金算入は認められない旨言い渡されました。平成30年3月の決算時点においては、都市下水路整備負担金を支出することは確実であり、その金額も合理的に見積もることができることから、実際に支払っていなくとも売上原価とするのは妥当と考えますが、いかがでしょうか。
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