公開日: 2015/03/26 (掲載号:No.112)
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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第15回】「関連当事者との取引の注記」

筆者: 西田 友洋

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【STEP3】重要性の判定

【STEP2】で把握した関連当事者との取引について、全て注記するわけではない。関連当事者との取引のうち、重要な取引を注記する(適用指針12)。そのため、ここでは、重要性の判定について検討する。

有価証券報告書作成の場合と計算書類作成の場合で検討過程が異なるため、有価証券報告書作成の場合は(1)と計算書類作成の場合は(2)を検討する。

(1) 有価証券報告書作成の場合の重要性の判定

(2) 計算書類作成の場合の重要性の判定

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(1) 有価証券報告書作成の場合の重要性の判定

有価証券報告書作成の場合、法人グループと個人グループで重要性が異なる。そのため、まず、関連当事者を、法人グループと個人グループに分類する。その後に、重要性の判定を行う。

① 法人グループ及び個人グループの分類

法人グループには、以下のものが該当する(適用指針13(1)~(3))。

(ⅰ) 連結財務諸表作成会社の上位に位置する法人のグループ

▷ 親会社(【STEP1】(3)参照)

▷ その他の関係会社及び当該その他の関係会社の親会社(【STEP1】(9)参照)

▷ 連結財務諸表作成会社の法人主要株主(【STEP1】(1)参照)

(ⅱ) 連結財務諸表作成会社の下位に位置する法人のグループ

▷ 非連結子会社(【STEP1】(5)参照)

▷ 関連会社及び当該関連会社の子会社(【STEP1】(7)参照)

▷ 従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限る。【STEP1】(11)参照)

(ⅲ) 連結財務諸表作成会社の上位に位置する法人の子会社のグループ

▷ 兄弟会社(【STEP1】(8)参照)

▷ その他の関係会社の子会社(【STEP1】(9)参照)

▷ 連結財務諸表作成会社の法人主要株主が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社(【STEP1】(10)参照)

個人グループとは、の法人グループ以外をいう。具体的には、以下のものが該当する(適用指針13(4))。

(ⅳ) 連結財務諸表作成会社の役員・個人主要株主等のグループ

▷ 連結財務諸表作成会社の個人主要株主及びその近親者(【STEP1】(1)参照)

▷ 連結財務諸表作成会社の役員及びその近親者(【STEP1】(2)参照)

▷ 親会社の役員及びその近親者(【STEP1】(4)参照)

▷ 重要な子会社の役員及びその近親者(【STEP1】(6)参照)

▷ 上記4つに掲げた者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社(【STEP1】(10)参照)

なお、連結財務諸表作成会社の役員(親会社及び重要な子会社の役員を含む)若しくはその近親者が、他の会社の代表者を兼務しており、当該役員等がその会社の代表者として、連結財務諸表作成会社と行う取引は、法人間における商取引に該当すると考えられるため、法人グループとして取り扱う。一方、連結財務諸表作成会社の役員(親会社及び重要な子会社の役員を含む)若しくはその近親者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社との取引は、個人グループとして取り扱う。

法人グループに該当したものとの取引については、を検討する。個人グループに該当したものとの取引については、を検討する。

② 法人グループにおける重要性の判定

連結損益計算書項目、連結貸借対照表項目等に分けて重要性の判定を行う。重要性の判定の結果、重要性がある取引については、【STEP4】(1)を検討する。重要性がない取引について、それ以上の検討は不要である。

重要性の判定は、各関連当事者との取引(類似・反復取引についてはその合計)ごとに行う。例えば、1つの取引について売上高は重要であるが、売掛金残高には重要性がない場合においても、売上高及び売掛金残高の両者の注記が必要となる(適用指針14)。

(ⅰ) 連結損益計算書項目における重要性の判定

連結損益計算書項目における重要性の判定は以下のとおりに行う(適用指針15(1)、17(1))。

売上高、売上原価、販売費及び一般管理費

▷ 売上高又は売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引について注記を行う。

営業外収益、営業外費用

▷ 営業外収益又は営業外費用の合計額の10%を超える損益に係る取引(その取引総額を注記し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて注記する)

▷ 資金貸借取引の期末残高に重要性が乏しい場合であっても、その取引に係る利息に関して上記と同様に重要性の判断を行う。

特別利益、特別損失

▷ 1,000 万円を超える損益に係る取引(その取引総額を注記し、取引総額と損益が相違する場合には損益を併せて注記する)

ただし、「営業外収益、営業外費用」及び「特別利益、特別損失」の各項目に係る関連当事者との取引については、上記判断基準により注記対象となる場合であっても、その取引総額が、税金等調整前当期純損益又は最近5年間の平均の税金等調整前当期純損益(当該期間中に税金等調整前当期純利益と税金等調整前当期純損失がある場合には、原則として税金等調整前当期純利益が発生した年度の平均とする)の10%以下となる場合には、注記は不要である。

(ⅱ) 連結貸借対照表項目等における重要性の判定

連結貸借対照表項目に属する科目の残高及びその注記事項に係る関連当事者との取引、債務保証等の残高、担保提供・受入れ残高(連結貸借対照表項目等)における重要性の判定は以下のとおりに行う(適用指針15(2)、17)。

▷ その金額(残高)が総資産の1%を超える取引

▷ 担保資産の重要性の判断は、期末における対応する債務の残高をもって行う。

▷ 債務保証等の重要性の判断は、極度額ではなく、期末における保証債務等(被保証債務等)の金額で行う。

▷ 資金貸借取引、有形固定資産や有価証券の購入・売却取引等については、それぞれの残高が総資産の1%以下であっても、取引の発生総額(資金貸付額等)が総資産の1%を超える取引(ただし、取引が反復的に行われている場合や、その発生総額の把握が困難である場合には、期中の平均残高が総資産の1%を超える取引を注記することもできる)

▷ 資本取引の場合、期末残高の注記は求められていない(基準28)。そのため、取引金額で重要性を判定することになると考えられる。

▷ 事業の譲受又は譲渡の場合には、譲受又は譲渡の対象となる資産や負債が個々に取引されるのではなく、一体として取引されると考えられることから、対象となる資産又は負債の総額のいずれか大きい額が、総資産の1%を超える取引

③ 個人グループにおける重要性の判定

連結損益計算書項目及び連結貸借対照表項目等のいずれに係る取引についても、1,000 万円を超える取引については、注記を行う(適用指針16)。重要性の判定の結果、重要性がある取引については、【STEP4】(1)を検討する。重要性がない取引について、それ以上の検討は不要である。

重要性の判定は、各関連当事者との取引(類似・反復取引についてはその合計)ごとに行う。例えば、1つの取引について売上高は重要であるが、売掛金残高には重要性がない場合においても、売上高及び売掛金残高の両者の注記が必要となる(適用指針14)。

 

(2) 計算書類作成の場合の重要性の判定

計算書類における関連当事者との取引の注記においても、重要なものだけ注記する(規則112)。ただし、重要性の判断基準は有価証券報告書作成の場合(上記(1)参照)のように規則では規定されていない。

そのため、各社で重要性の基準を設けて注記が必要かどうかを判定する必要がある。実務的には、有価証券報告書作成の場合の重要性の判定と同様に行うことが多いと考えられる。

重要性の判定の結果、重要性のある取引については、【STEP4】(2)を検討する。重要性がない取引について、それ以上の検討は不要である。

【重要性の判定の留意点(有価証券報告書作成及び計算書類作成共通)】
関連当事者との取引の注記における重要性の判定にあたり、これまで注記対象となっていた取引等について、ある連結会計年度で重要性が乏しくなっても、それが一時的であると判断されるような場合には、ただちに注記対象から除外するなどの画一的な取扱いをせず、注記の継続性が保たれるよう留意する必要がある(適用指針20)。

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フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

【第15回】

「関連当事者との取引の注記」

 

仰星監査法人
公認会計士 西田 友洋

 

【はじめに】

今回は、連結財務諸表作成会社を前提に関連当事者との取引の注記について解説する。

関連当事者とは、ある当事者が他の当事者を支配しているか、又は、他の当事者の財務上及び業務上の意思決定に対して重要な影響力を有している場合の当事者等をいい、具体的には、親会社、子会社、関連会社、会社の役員等をいう(企業会計基準第11号「関連当事者の開示に関する会計基準(以下、「基準」という)」5(3))。

会社と関連当事者が取引を行った場合、対等な立場で行われているとは限らず、会社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼすことがある。また、直接の取引がない場合においても、関連当事者の存在自体が、会社の財政状態や経営成績に影響を及ぼすことがある。そのため、会社と関連当事者との取引や関連当事者の存在が財務諸表に与えている影響を財務諸表利用者が把握できるように、関連当事者との取引の注記が求められている(基準2)。

また、関連当事者との取引の注記は、有価証券報告書では連結ベースで注記するのに対して、計算書類では個別ベースで注記を行う。そのため、有価証券報告書の場合と計算書類の場合で検討過程が異なるので留意が必要である。

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連載目次

フロー・チャートを使って学ぶ会計実務

第1回~第30回

筆者紹介

西田 友洋

(にしだ・ともひろ)

公認会計士

2007年に、仰星監査法人に入所。
法定監査、上場準備会社向けの監査を中心に様々な業種の会計監査業務に従事する。
その他、日本公認会計士協会の中小事務所等施策調査会「監査専門部会」専門委員に就任している。
2019年7月退所。

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