公開日: 2020/08/06 (掲載号:No.380)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例20】「売上原価と棚卸資産の評価方法」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例20】

「売上原価と棚卸資産の評価方法」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、北関東において中古車販売業を営む株式会社Aで経理を担当しております。近年、わが国においては若年層の自動車離れが顕著であり、そもそも運転免許すら取得しない若者も都市部においては珍しくないと聞きます。幸いなことに、北関東は東京都内と比較すると公共交通機関が未発達で、自動車なしでは事実上生活が成り立たないため、一家に一台どころか大人は一人一台というのが標準的であり、自動車離れの影響は今のところ軽微といえます。しかし、そうはいってもやはり新車は高額であるため、当地においては私どものような中古車販売業の役割は大きいと言えます。

中古車販売業において重要なのは、棚卸資産である中古車の価格を適正に見積もることであると考えられます。そのため、弊社においては、社員は原則として全員、一般財団法人日本自動車査定協会(以下「査定協会」といいます)が実施する試験に合格することで得られる中古自動車査定士の資格を取るように奨励し、実際に大部分の社員が取得しております。また、弊社における自動車の買取りや譲渡時の価格も、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って決定しております。それにより、お客様に対して適正な中古車価額をお示しできるだけでなく、財務諸表上、常に棚卸資産の公正な価格を表示することができるものと考えております。

このような考え方に基づき、弊社においては法人税の申告についても、棚卸資産の期末評価は中古自動車査定基準に則った手法、すなわち加減点基準により行っております。ところが、先日受けた税務調査で所轄税務署の調査官は、弊社は税務署長宛てに棚卸資産の評価方法に関して特に届け出ていないことから、法人税法施行令第31条第1項により、最終仕入原価法により評価すべきこととなるため、期末棚卸資産の評価額が過少(売上原価が過大)であるとして、修正申告の勧奨を受けました。

弊社は「適正な中古車価格とは何か」を長年追求してきておりますが、その結論として、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って査定した金額こそがそれにあたるとしてきたものであり、当該価格は恣意的に決定されたものではなく、極めて公正な価格であると自信をもって言えます。したがって、それに反するような課税庁の判断にはおおよそ根拠がないと考えるところでありますが、弊社の考え方は税法に照らして誤りといえるのでしょうか、教えてください。

なお、査定協会が定める中古自動車査定基準に則った査定額は、棚卸資産の評価方法を定めた法人税法施行令第28条第1項のいずれにも該当しないこととなります。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例20】

「売上原価と棚卸資産の評価方法」

 

国際医療福祉大学大学院准教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、北関東において中古車販売業を営む株式会社Aで経理を担当しております。近年、わが国においては若年層の自動車離れが顕著であり、そもそも運転免許すら取得しない若者も都市部においては珍しくないと聞きます。幸いなことに、北関東は東京都内と比較すると公共交通機関が未発達で、自動車なしでは事実上生活が成り立たないため、一家に一台どころか大人は一人一台というのが標準的であり、自動車離れの影響は今のところ軽微といえます。しかし、そうはいってもやはり新車は高額であるため、当地においては私どものような中古車販売業の役割は大きいと言えます。

中古車販売業において重要なのは、棚卸資産である中古車の価格を適正に見積もることであると考えられます。そのため、弊社においては、社員は原則として全員、一般財団法人日本自動車査定協会(以下「査定協会」といいます)が実施する試験に合格することで得られる中古自動車査定士の資格を取るように奨励し、実際に大部分の社員が取得しております。また、弊社における自動車の買取りや譲渡時の価格も、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って決定しております。それにより、お客様に対して適正な中古車価額をお示しできるだけでなく、財務諸表上、常に棚卸資産の公正な価格を表示することができるものと考えております。

このような考え方に基づき、弊社においては法人税の申告についても、棚卸資産の期末評価は中古自動車査定基準に則った手法、すなわち加減点基準により行っております。ところが、先日受けた税務調査で所轄税務署の調査官は、弊社は税務署長宛てに棚卸資産の評価方法に関して特に届け出ていないことから、法人税法施行令第31条第1項により、最終仕入原価法により評価すべきこととなるため、期末棚卸資産の評価額が過少(売上原価が過大)であるとして、修正申告の勧奨を受けました。

弊社は「適正な中古車価格とは何か」を長年追求してきておりますが、その結論として、査定協会が定める中古自動車査定基準に則って査定した金額こそがそれにあたるとしてきたものであり、当該価格は恣意的に決定されたものではなく、極めて公正な価格であると自信をもって言えます。したがって、それに反するような課税庁の判断にはおおよそ根拠がないと考えるところでありますが、弊社の考え方は税法に照らして誤りといえるのでしょうか、教えてください。

なお、査定協会が定める中古自動車査定基準に則った査定額は、棚卸資産の評価方法を定めた法人税法施行令第28条第1項のいずれにも該当しないこととなります。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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