公開日: 2023/09/07 (掲載号:No.534)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例55】「従業員に対する賞与の損金算入時期」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例55】

「従業員に対する賞与の損金算入時期」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、近畿地方のある県庁所在地において、主として旅行者向けの土産物店や飲食店を営む株式会社X(資本金5,000万円で3月決算)に勤務し、現在総務部長を務めている者です。2020年以来のコロナ禍で、わが社がターゲットとするインバウンドの旅行客は激減し、一時は廃業やむなしという瀬戸際まで追い込まれました。そのため、インバウンド一本やりの経営戦略を改め、国内客の取り込みも必死になって行うとともに、政府の様々な支援策や社長の必死の資金策によりどうにかこうにかこの度の経営危機を乗り切り、今年は国内客のみならずインバウンドの旅行客もだいぶ戻ってきたため、お陰様で何とか一息つくことができました。

そんなわけで、ここ数年は多くの従業員を泣く泣く解雇したり、残ってもらった従業員にも満足に賞与を支給することもできず、非常に心苦しいところでしたが、昨年度末においてはようやく決算賞与を支払うことができるところまで業績が回復しました。久しぶりの賞与だったため、従業員も大いに喜んでくれたようです。

さて、そんな中、先日から受けている当社の法人税にかかる税務調査で、従業員に対する当該賞与が問題とされております。すなわち、従業員全員にその支給額について事業年度末日までに通知をし、その金額を同日において損金経理したものの、銀行からの融資が遅れた関係で、実際の支給の日が翌事業年度の5月10日となったことが問題なのだそうです。確かに、法人税法施行令第72条の3(旧第134条の2)には翌事業年度末から1月以内という要件が定められていますが、まず、支給が遅れたのは不可抗力であり十分正当な理由があること、また、法律の定める債務確定基準(法法22③二)は満たしているにもかかわらず、法律に定められていない付加的な要件を政令で定めることは租税法律主義に反し許されないこと、の2つの理由から、税務署側の主張には問題があると考えております。この点につき、法人税法上どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例55】

「従業員に対する賞与の損金算入時期」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、近畿地方のある県庁所在地において、主として旅行者向けの土産物店や飲食店を営む株式会社X(資本金5,000万円で3月決算)に勤務し、現在総務部長を務めている者です。2020年以来のコロナ禍で、わが社がターゲットとするインバウンドの旅行客は激減し、一時は廃業やむなしという瀬戸際まで追い込まれました。そのため、インバウンド一本やりの経営戦略を改め、国内客の取り込みも必死になって行うとともに、政府の様々な支援策や社長の必死の資金策によりどうにかこうにかこの度の経営危機を乗り切り、今年は国内客のみならずインバウンドの旅行客もだいぶ戻ってきたため、お陰様で何とか一息つくことができました。

そんなわけで、ここ数年は多くの従業員を泣く泣く解雇したり、残ってもらった従業員にも満足に賞与を支給することもできず、非常に心苦しいところでしたが、昨年度末においてはようやく決算賞与を支払うことができるところまで業績が回復しました。久しぶりの賞与だったため、従業員も大いに喜んでくれたようです。

さて、そんな中、先日から受けている当社の法人税にかかる税務調査で、従業員に対する当該賞与が問題とされております。すなわち、従業員全員にその支給額について事業年度末日までに通知をし、その金額を同日において損金経理したものの、銀行からの融資が遅れた関係で、実際の支給の日が翌事業年度の5月10日となったことが問題なのだそうです。確かに、法人税法施行令第72条の3(旧第134条の2)には翌事業年度末から1月以内という要件が定められていますが、まず、支給が遅れたのは不可抗力であり十分正当な理由があること、また、法律の定める債務確定基準(法法22③二)は満たしているにもかかわらず、法律に定められていない付加的な要件を政令で定めることは租税法律主義に反し許されないこと、の2つの理由から、税務署側の主張には問題があると考えております。この点につき、法人税法上どのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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