公開日: 2023/10/05 (掲載号:No.538)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例56】「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例56】

「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方の政令指定都市に隣接する市において、主として光学医療機器の製造・販売を行う株式会社X(資本金30億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医療機器は、分野によって異なりますが、海外の製品が強い分野があったり、逆にわが国のメーカーが強い分野があったりと様々な状況といえますが、わが社が扱う光学医療機器(医用光学機械)は、比較的わが国のメーカーが強い分野ではないかと思われます。そのため、わが社もこれまで順調に利益を計上し内部留保を積み上げてきましたが、その再投資先として同業ないし隣接する分野の他社の株式(いずれも上場企業)を購入してきたという経営トップの意思決定は、結果としてみれば、あまり適切ではなかったように思われます。

すなわち、それらの会社の業績が思わしくなく、明らかに当初の出資額よりも大幅に価値が減価しているところばかりとなってしまいました。無論、わが社も手をこまねいているばかりではなく、わが社の精鋭を出資先に何人も送り込んだりしましたが、結果として業績が上向くことはありませんでした。そのため、会計上、これらの出資先の帳簿価額を大幅に引き下げざるを得ず、税務上も泣く泣く評価損を計上することを余儀なくされました。

しかし、その後顧問税理士から国税庁の「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)を知らされ、その時点における出資先の今後の財務状態から更なる評価損の計上が可能である旨告げられましたが、減額更正の期限が徒過していたため(平成23年12月の改正前で請求期間は1年)、嘆願書により減額更正を依頼しました。

ところが、国税局の担当官は、わが社の場合税法に照らして評価損の計上が可能となる要件を満たしていないため、嘆願書にかかわらず減額更正はできないと言ってきました。当方は、国税庁の上記Q&A(特にQ3)により初めて、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態を検討すべきことを知ったのであり、確定申告時には当該Q&Aの存在自体を知らなかったため、検討することは物理的に不可能であるから、国税局の主張は不当と考えております。わが社の考え方で問題ないでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例56】

「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、中部地方の政令指定都市に隣接する市において、主として光学医療機器の製造・販売を行う株式会社X(資本金30億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医療機器は、分野によって異なりますが、海外の製品が強い分野があったり、逆にわが国のメーカーが強い分野があったりと様々な状況といえますが、わが社が扱う光学医療機器(医用光学機械)は、比較的わが国のメーカーが強い分野ではないかと思われます。そのため、わが社もこれまで順調に利益を計上し内部留保を積み上げてきましたが、その再投資先として同業ないし隣接する分野の他社の株式(いずれも上場企業)を購入してきたという経営トップの意思決定は、結果としてみれば、あまり適切ではなかったように思われます。

すなわち、それらの会社の業績が思わしくなく、明らかに当初の出資額よりも大幅に価値が減価しているところばかりとなってしまいました。無論、わが社も手をこまねいているばかりではなく、わが社の精鋭を出資先に何人も送り込んだりしましたが、結果として業績が上向くことはありませんでした。そのため、会計上、これらの出資先の帳簿価額を大幅に引き下げざるを得ず、税務上も泣く泣く評価損を計上することを余儀なくされました。

しかし、その後顧問税理士から国税庁の「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)を知らされ、その時点における出資先の今後の財務状態から更なる評価損の計上が可能である旨告げられましたが、減額更正の期限が徒過していたため(平成23年12月の改正前で請求期間は1年)、嘆願書により減額更正を依頼しました。

ところが、国税局の担当官は、わが社の場合税法に照らして評価損の計上が可能となる要件を満たしていないため、嘆願書にかかわらず減額更正はできないと言ってきました。当方は、国税庁の上記Q&A(特にQ3)により初めて、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態を検討すべきことを知ったのであり、確定申告時には当該Q&Aの存在自体を知らなかったため、検討することは物理的に不可能であるから、国税局の主張は不当と考えております。わが社の考え方で問題ないでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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