公開日: 2024/02/01 (掲載号:No.554)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例59】「遺跡の調査・発掘に関する請負業務代金の未回収分に係る貸倒損失該当性」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例59】

「遺跡の調査・発掘に関する請負業務代金の未回収分に係る貸倒損失該当性」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、関東地方のある県庁所在地に本社を置き、建築・土木工事業を営む株式会社X(資本金3億円で3月決算)に勤務しており、現在総務部長を務めております。わが社はもともと宅地造成や住宅の建設工事などを行っている普通の建設会社でしたが、十数年前にたまたま地元自治体から依頼を受けて遺跡の発掘調査に携わったことから、最近の主たる業務は遺跡の調査・発掘に関する請負業務となっております。

遺跡の発掘作業が必要なケースというものは突然現れるもので、例えば、もともと企業の社宅として利用されていた敷地につき、当該企業が業務効率化の一環で社宅を廃止し、当該敷地をマンション用地として大手ディベロッパーに売却するという事例は非常にありふれたものですが、その際にマンション開発を担当したディベロッパーが当該敷地を掘り返したところ、運良く(むしろ悪く?)弥生時代の土器や石器が発掘されるというのが典型例となります。

発掘調査は地元や周辺の自治体の依頼で行うのですが、ケースによっては自治体が直接発注するのではなく、中間に任意団体(人格なき社団)を介して依頼される場合もあります。今回の税務調査で問題となったのは、この中間に任意団体を挟んだケースです。すなわち、元々話を持って来たのは地方自治体であるとはいえ、契約の相手方は当該任意団体であり、任意団体には当然信用力もなく、億単位の発掘費用を支払う能力があるのか疑問視されます。実際、契約で定められた着手金5,000万円の支払いは2ヶ月遅れ、残額は契約が終了した時点では1円も支払われておりません。したがって、わが社は未収入金として計上していた残額1億6,000万円について回収不能と判断し、全額その期において貸倒損失として損金処理を行いました。

しかし、国税局の調査官は、任意団体は地方自治体と一体で活動しているため信用力は十分である上、残額の支払いが遅延したのは発掘調査が天候不順のため当初予定より伸びたことが原因で、任意団体の支払い能力とは何ら関係がないことから、貸倒損失として損金処理することはできないと言ってきました。この場合、法人税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例59】

「遺跡の調査・発掘に関する請負業務代金の未回収分に係る貸倒損失該当性」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、関東地方のある県庁所在地に本社を置き、建築・土木工事業を営む株式会社X(資本金3億円で3月決算)に勤務しており、現在総務部長を務めております。わが社はもともと宅地造成や住宅の建設工事などを行っている普通の建設会社でしたが、十数年前にたまたま地元自治体から依頼を受けて遺跡の発掘調査に携わったことから、最近の主たる業務は遺跡の調査・発掘に関する請負業務となっております。

遺跡の発掘作業が必要なケースというものは突然現れるもので、例えば、もともと企業の社宅として利用されていた敷地につき、当該企業が業務効率化の一環で社宅を廃止し、当該敷地をマンション用地として大手ディベロッパーに売却するという事例は非常にありふれたものですが、その際にマンション開発を担当したディベロッパーが当該敷地を掘り返したところ、運良く(むしろ悪く?)弥生時代の土器や石器が発掘されるというのが典型例となります。

発掘調査は地元や周辺の自治体の依頼で行うのですが、ケースによっては自治体が直接発注するのではなく、中間に任意団体(人格なき社団)を介して依頼される場合もあります。今回の税務調査で問題となったのは、この中間に任意団体を挟んだケースです。すなわち、元々話を持って来たのは地方自治体であるとはいえ、契約の相手方は当該任意団体であり、任意団体には当然信用力もなく、億単位の発掘費用を支払う能力があるのか疑問視されます。実際、契約で定められた着手金5,000万円の支払いは2ヶ月遅れ、残額は契約が終了した時点では1円も支払われておりません。したがって、わが社は未収入金として計上していた残額1億6,000万円について回収不能と判断し、全額その期において貸倒損失として損金処理を行いました。

しかし、国税局の調査官は、任意団体は地方自治体と一体で活動しているため信用力は十分である上、残額の支払いが遅延したのは発掘調査が天候不順のため当初予定より伸びたことが原因で、任意団体の支払い能力とは何ら関係がないことから、貸倒損失として損金処理することはできないと言ってきました。この場合、法人税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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