法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【事例60】
「未経過固定資産税相当額を支払った場合における当該金額の損金性」
拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦
【Q】
私は、九州地方のある県庁所在地に本社を置き、旅館やホテルを数件所有して経営する株式会社X(資本金1億円で3月決算)に勤務しており、現在経理部長を務めております。ここ数年続くコロナ禍でわが国の旅行業界は大変なダメージを受け、政府や地方自治体の繰り出す様々な旅行支援も思いのほか効果がなく、地方に所在する多くの旅館やホテルが経営危機に陥り、廃業に追い込まれるか、同業他社に買収されるか、全く別の業種に転換するかといったいくつかの選択肢の中から自らの将来を決めざるを得ないという、きわめて厳しい状況でした。
そのような中でも、SNSを駆使した地道なプロモーション活動を行った結果、徐々にリピーターを獲得し、コロナ禍の影響が薄らいだ昨年から、おかげさまで週末は満室、平日も3分の2ほどの稼働率が得られるようになり、何とかやっていけているところまで回復しました。地域経済はおしなべて疲弊していて、同業他社も全般的に苦境にある会社が多いためか、比較的ましな当社に、様々な身売り等の話が舞い込んできます。先日も、取引先である信用金庫から隣県にある、既に廃業した旅館の敷地及び建物の売却の話があり、応じることにしました。その際、建物と敷地の代金のほか、両者にかかっている固定資産税及び都市計画税のうち、売却日までのものを日数按分した額を合わせて支払っております。
ところが、この件につき弊社の顧問税理士に相談したところ、未経過固定資産税(都市計画税を含む)は新たに取得した旅館の取得価額に算入されるべきものであり、損金算入はまかりならんと苦言を呈されました。税務署上がりのこの税理士は、かなり保守的な会計処理を好む傾向にあり、私としてはもう少し納税者有利のアドバイスが欲しいところですが、社長と馬が合うようで、強く言えないところです。税務上の取扱いは本当にこれでよいのでしょうか、教えてください。
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