公開日: 2024/01/18 (掲載号:No.552)
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日本の企業税制 【第123回】「災害に係る主要な税制措置」

筆者: 小畑 良晴

※この記事は会員以外の方もご覧いただけます。

日本企業税制

【第123回】

「災害に係る主要な税制措置」

 

一般社団法人日本経済団体連合会
経済基盤本部長 小畑 良晴

 

年初に発生した能登半島地震の被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げたい。
政府は1月11日の持ち回り閣議で、能登半島地震を激甚災害と特定非常災害に指定した。

地震や津波に加え、台風、豪雨、豪雪等の自然災害が頻発している状況を踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、平成29年度税制改正において、災害への税制上の対応の規定が常設化され、発災後速やかに税制上の措置の実施が可能となっている。

平成29年度税制改正以前においても、災害が発生した際の被災者や事業者への対応については、国税通則法、災害減免法、所得税法をはじめとした各税法において、申告、納付期限の延長や、税の減免措置などが実施されていた。また、平成7年の阪神・淡路大震災、平成23年の東日本大震災の2つの大震災においては、上記の制度に加えて、被災者の救済、生活再建の支援等のため、震災特例法が制定され、雑損控除や災害減免法の適用範囲の拡大等の措置が講じられてきた。

平成29年度税制改正では、阪神・淡路大震災や東日本大震災で制定された震災特例法を踏まえて、被害の状況や規模などによらず、災害一般に適用することが適当なもの、被災は生活再建支援法などの下、他の支援施策が講じられている場合に適用することが適当なもの、について、あらかじめ規定を整備する方針の下で、所得税、法人税、相続税、贈与税、酒税、自動車重量税など広範に特例が設けられている。特例の対象となる災害については、阪神・淡路大震災、東日本大震災などの大規模災害に限定されず、後述の住宅ローン減税の特例措置に見られるように、被災者生活再建支援法が適用される災害も対象となるなど、幅広い災害が特例の対象とされている。

以下、主要な税制上の措置について整理したい。

 

〇申告期限等の延長等

国税通則法により、災害等の理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までに、これらの行為をすることができないと認められる場合には、災害等の理由のやんだ日から2ヶ月以内の範囲において、その期限の延長ができる。

特に、今回の地震のように、都道府県の全部又は一部にわたり、期限までに申告等の行為をすることができないと認められる場合には、国税庁長官が告示により、その地域及び期日を指定して期限を延長することとされている(地域指定)。

1月12日には、富山県及び石川県をその地域として指定する告示が行われた。なお、期限をいつまで延長するかについては、今後、被災者の状況に十分配慮しつつ検討することとされている。

【参考】 国税庁ホームページ
令和6年能登半島地震に関するお知らせ

 

〇住宅ローン減税の特例

災害により家屋を居住の用に供することができなくなった場合において、災害がなければ、その控除を受けることができた期間について、継続して住宅ローン控除の適用を受けることができる。

なお、被災した家屋を他の用途に転用した場合、被災した家屋又はその敷地を譲渡して税制上の特例措置(譲渡損失の損益通算、繰越控除)の適用を受ける場合、新たに住宅の新築取得等をした家屋について住宅ローン減税の適用を受けた場合には、被災した家屋に係る住宅ローン減税の継続適用は打ち切られる。

もっとも、被災者生活再建支援法が適用された市区町村の区域内に所在する住宅用家屋については、その被災した家屋に係る住宅ローン減税と一定期間内に新たに住宅用家屋の再取得等をした場合の住宅ローン減税との重複適用が可能である。

 

〇住宅取得等資金に係る贈与税の特例

住宅取得等資金に係る贈与税の特例の適用要件の緩和等が措置されている。

具体的には、災害により住宅が滅失した場合の居住要件の免除、贈与税の申告後に被災した場合における居住期限の延長、住宅の取得前に被災した場合の取得期限の延長などが挙げられる。

【参考】 国税庁ホームページ
No.8007 災害を受けたときの贈与税の取扱い

 

〇法人税法上の措置

法人税法においては、災害損失欠損金の繰戻し還付、仮決算による中間申告における所得税額の還付、中間申告書の提出不要制度が設けられている。

第一に、災害のあった日以後1年以内に終了する事業年度において、災害損失欠損金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額のうち欠損金額に達するまでの金額)がある場合には、その事業年度開始の日前1年(青色申告書の場合には2年)以内に開始した事業年度の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。

第二に、災害のあった日以後6ヶ月以内に終了する中間期間において、災害損失金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額)がある場合には、仮決算の中間申告において、控除しきれなかった所得税額の還付を受けることができる。

第三に、国税通則法第11条(災害等による期限の延長)に基づく申告期限の延長により、中間申告書の提出期限とその中間申告書に係る確定申告書の提出期限とが同一の日となる場合には、その中間申告書の提出を要しない。

また、租税特別措置法においては、被災代替資産等の特別償却制度が設けられている。今回の能登半島地震のように特定非常災害として指定された災害について、その発生日から同日の翌日以後5年を経過する日までの期間内に、被災代替資産等の取得等をして事業の用に供した場合には、特別償却をすることができる。

【参考】 国税庁ホームページ
災害により被害を受けられた方へのお知らせ

 

〇消費税の届出等に関する特例

特定非常災害の被災者である事業者が、被災したことにより、簡易課税制度の適用を受けることが必要となった場合、又は受けることの必要がなくなった場合には、承認申請書(提出期限:災害等のやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内)を税務署長に提出し、承認を受けることにより、当該災害等の生じた日の属する課税期間から、簡易課税制度の適用を受けること、又はやめることができる。

【参考】 国税庁ホームページ
特定非常災害に係る消費税の届出等に関する特例

(了)

「日本の企業税制」は、毎月第3週に掲載されます。

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日本企業税制

【第123回】

「災害に係る主要な税制措置」

 

一般社団法人日本経済団体連合会
経済基盤本部長 小畑 良晴

 

年初に発生した能登半島地震の被災者の方々に心よりお見舞いを申し上げたい。
政府は1月11日の持ち回り閣議で、能登半島地震を激甚災害と特定非常災害に指定した。

地震や津波に加え、台風、豪雨、豪雪等の自然災害が頻発している状況を踏まえ、被災者や被災事業者の不安を早期に解消するとともに、復旧や復興の動きに遅れることなく税制上の対応を手当てする観点から、平成29年度税制改正において、災害への税制上の対応の規定が常設化され、発災後速やかに税制上の措置の実施が可能となっている。

平成29年度税制改正以前においても、災害が発生した際の被災者や事業者への対応については、国税通則法、災害減免法、所得税法をはじめとした各税法において、申告、納付期限の延長や、税の減免措置などが実施されていた。また、平成7年の阪神・淡路大震災、平成23年の東日本大震災の2つの大震災においては、上記の制度に加えて、被災者の救済、生活再建の支援等のため、震災特例法が制定され、雑損控除や災害減免法の適用範囲の拡大等の措置が講じられてきた。

平成29年度税制改正では、阪神・淡路大震災や東日本大震災で制定された震災特例法を踏まえて、被害の状況や規模などによらず、災害一般に適用することが適当なもの、被災は生活再建支援法などの下、他の支援施策が講じられている場合に適用することが適当なもの、について、あらかじめ規定を整備する方針の下で、所得税、法人税、相続税、贈与税、酒税、自動車重量税など広範に特例が設けられている。特例の対象となる災害については、阪神・淡路大震災、東日本大震災などの大規模災害に限定されず、後述の住宅ローン減税の特例措置に見られるように、被災者生活再建支援法が適用される災害も対象となるなど、幅広い災害が特例の対象とされている。

以下、主要な税制上の措置について整理したい。

 

〇申告期限等の延長等

国税通則法により、災害等の理由により、国税に関する法律に基づく申告、申請、請求、届出その他書類の提出、納付又は徴収に関する期限までに、これらの行為をすることができないと認められる場合には、災害等の理由のやんだ日から2ヶ月以内の範囲において、その期限の延長ができる。

特に、今回の地震のように、都道府県の全部又は一部にわたり、期限までに申告等の行為をすることができないと認められる場合には、国税庁長官が告示により、その地域及び期日を指定して期限を延長することとされている(地域指定)。

1月12日には、富山県及び石川県をその地域として指定する告示が行われた。なお、期限をいつまで延長するかについては、今後、被災者の状況に十分配慮しつつ検討することとされている。

【参考】 国税庁ホームページ
令和6年能登半島地震に関するお知らせ

 

〇住宅ローン減税の特例

災害により家屋を居住の用に供することができなくなった場合において、災害がなければ、その控除を受けることができた期間について、継続して住宅ローン控除の適用を受けることができる。

なお、被災した家屋を他の用途に転用した場合、被災した家屋又はその敷地を譲渡して税制上の特例措置(譲渡損失の損益通算、繰越控除)の適用を受ける場合、新たに住宅の新築取得等をした家屋について住宅ローン減税の適用を受けた場合には、被災した家屋に係る住宅ローン減税の継続適用は打ち切られる。

もっとも、被災者生活再建支援法が適用された市区町村の区域内に所在する住宅用家屋については、その被災した家屋に係る住宅ローン減税と一定期間内に新たに住宅用家屋の再取得等をした場合の住宅ローン減税との重複適用が可能である。

 

〇住宅取得等資金に係る贈与税の特例

住宅取得等資金に係る贈与税の特例の適用要件の緩和等が措置されている。

具体的には、災害により住宅が滅失した場合の居住要件の免除、贈与税の申告後に被災した場合における居住期限の延長、住宅の取得前に被災した場合の取得期限の延長などが挙げられる。

【参考】 国税庁ホームページ
No.8007 災害を受けたときの贈与税の取扱い

 

〇法人税法上の措置

法人税法においては、災害損失欠損金の繰戻し還付、仮決算による中間申告における所得税額の還付、中間申告書の提出不要制度が設けられている。

第一に、災害のあった日以後1年以内に終了する事業年度において、災害損失欠損金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額のうち欠損金額に達するまでの金額)がある場合には、その事業年度開始の日前1年(青色申告書の場合には2年)以内に開始した事業年度の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付を請求することができる。

第二に、災害のあった日以後6ヶ月以内に終了する中間期間において、災害損失金額(棚卸資産や固定資産などについて災害のあった日の属する事業年度において災害により生じた損失の額)がある場合には、仮決算の中間申告において、控除しきれなかった所得税額の還付を受けることができる。

第三に、国税通則法第11条(災害等による期限の延長)に基づく申告期限の延長により、中間申告書の提出期限とその中間申告書に係る確定申告書の提出期限とが同一の日となる場合には、その中間申告書の提出を要しない。

また、租税特別措置法においては、被災代替資産等の特別償却制度が設けられている。今回の能登半島地震のように特定非常災害として指定された災害について、その発生日から同日の翌日以後5年を経過する日までの期間内に、被災代替資産等の取得等をして事業の用に供した場合には、特別償却をすることができる。

【参考】 国税庁ホームページ
災害により被害を受けられた方へのお知らせ

 

〇消費税の届出等に関する特例

特定非常災害の被災者である事業者が、被災したことにより、簡易課税制度の適用を受けることが必要となった場合、又は受けることの必要がなくなった場合には、承認申請書(提出期限:災害等のやむを得ない理由がやんだ日から2ヶ月以内)を税務署長に提出し、承認を受けることにより、当該災害等の生じた日の属する課税期間から、簡易課税制度の適用を受けること、又はやめることができる。

【参考】 国税庁ホームページ
特定非常災害に係る消費税の届出等に関する特例

(了)

「日本の企業税制」は、毎月第3週に掲載されます。

連載目次

日本の企業税制

▷2024年
▷2023年

筆者紹介

小畑 良晴

(おばた・よしはる)

一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長

1965年生まれ。1990年東京大学法学部卒業。同年(社)経済団体連合会(現 日本経済団体連合会)事務局入局。
2006年経済法制グループ長 兼 税制・会計グループ副長、2009年経済基盤本部主幹、2015年より現職。
税制、経済法規、金融・資本市場などの各委員会を担当。

【著書】
・『改正会社法対応版 会社法関係法務省令 逐条実務詳解』共著(清文社)
・『税制改正の要点解説』共著(清文社)
他多数

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