法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【事例40】
「過大支払電気料金の損金性と損害賠償請求権」
国際医療福祉大学大学院教授
税理士 安部 和彦
【Q】
私は、北関東のとある地方都市において、自動車部品の製造・販売業を営む株式会社Aにおいて経理課長を務めております。近年、自動車産業はEV(Electric Vehicle)化が世界的な潮流で、既存の自動車メーカーのみならず異業種が続々参入して、新たなデファクト・スタンダード(de facto standard)を確立しようとしのぎを削っており、2030年には雌雄が決するのではないかといわれております。
そのような中、エンジン関連の部品を国内の自動車用エンジン製造メーカーに納めている当社としても、今後業界がどのような方向性をたどるのか、また当社はどのような生き残り策を模索していくべきなのかにつき、必死の情報収集を行っているところです。
ところで、一昨年の秋口において、当社が電力会社と契約している電力料金につき、本来の使用量に基づく料金よりも過大に支払い続けていたことが判明しました。当社は当時、それまで5年程の間、大口需要者向けの業務用電力の契約を行っていましたが、一部の事業所につき、その適用を受けずに電力料金が計算され、過大に請求されていたというわけです。その事業所は本社や工場と比較して電力消費量はそれほど大きくないため、電力料金の請求が過大であることが分かりにくいという事情がありました。
このような事実は電力会社からの連絡で初めて判明したもので、当社は法人税の申告上、過去5年分の差額を一括で支払いを受けた前事業年度に益金算入し、過去の事業年度の申告内容はいじらないという経理処理を行いました。ただし、たまたま前事業年度はコロナ禍の影響で赤字決算であったため、当該収益にもかかわらず法人税の支払いは生じませんでした。なお、本件により当該電力会社に不信感を持ち、現在は別の事業会社と契約を締結し、電力の供給を受けています。
しかし、先週から受けている国税局の税務調査で、現在本件が問題となっております。調査部の主査がいうには、電力料金の過大請求分は前事業年度に判明し、それに係る電力会社からの支払いも前事業年度に一括で行われたのは事実であるが、過払い分はその前の5事業年度において発生しているのであり、その各事業年度において過払電気料金に係る返還請求権も確定しているのであるから、当社の益金・損金の経理処理には誤りがあるということです。
このような経理処理を同時両建説というのだそうですが、そもそも電力会社のミスでこの問題が起こったというばかりでなく、既に正当な料金と信じて支払いを終えているわが社が、電力会社からの連絡以前にその事実を知る由がないにもかかわらず、それ以前の各事業年度に返還請求権を計上しろとは無理な話であると考えます。
このような場合、法人税法上はどのように考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。
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