法人税の損金経理要件をめぐる事例解説
【事例54】
「貸付金に係る貸倒損失の損金算入時期」
拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦
【Q】
私は、中部地方のある県庁所在地において医薬品の卸売業を営む株式会社X(資本金1億円)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医薬品の販売は、近年、全国的に大手のドラッグストア(その多くが上場企業)とその系列の薬剤師が常駐し処方箋を扱う薬局(調剤薬局)が大きなシェアを握っております。
ドラッグストアは元々調剤を行わずに、一般用医薬品(風邪薬などの薬剤師の関与がなくとも購入できる医薬品)を扱う小売店でしたが、近年では単にそれにとどまらず、化粧品やトイレットペーパー、洗剤といった日用品や菓子、食料品を安価に販売することで、いわば「医薬品を扱うスーパーマーケット」という位置づけで都市部の消費者の支持を獲得し、M&Aを繰り返すことで急成長していった業態であると考えられます。
そのような中、わが社の取引先である独立系の中小の薬局は、年々ジリ貧で経営状態が厳しくなっている状況です。わが社は戦前の創業で、戦後の高度成長期には急速に事業を拡大させたこともあって過去の剰余金が資本として蓄積しており、比較的余剰資金があるといえます。そのため、取引先から緊急の融資を依頼されることもままあり、当社も「取引先とともに成長する」という社是を守る社長の判断で、それに応じることがあります。しかし、この判断の多くは裏目に出て、大半の融資は回収できない事態に陥りました。仕方なく、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上しました。
ところが、先日から受けている当社の法人税にかかる税務調査で、なんと当該貸倒損失が問題とされております。調査官によれば、貸倒損失の計上時期に問題があり、貸付先が債務超過になった段階で損失を計上すべきであり、それをわざわざ翌々期まで繰り延べたのは利益調整に当たり許されないとのことでした。当社は、ギリギリまで回収努力を行った上で、やむを得ず貸倒損失を計上したのであり、貸付先が債務超過になったからといって直ちに損失を計上するのは、時期尚早であり妥当ではないと反論しております。この場合、法人税法上はどのように考えるべきなのでしょうか、教えてください。
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