公開日: 2024/08/01 (掲載号:No.580)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例65】「公益法人等が普通法人に移行した後有価証券を譲渡した場合における当該有価証券の取得価額」

筆者: 安部 和彦

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例65】

「公益法人等が普通法人に移行した後有価証券を譲渡した場合における当該有価証券の取得価額」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、九州地方のある県庁所在地に本拠を置く一般財団法人において、理事長補佐を務めております。当法人は、もともとある地元の事業家が成した財産を元手に美術品を管理する目的で設立された財団法人(法人税法上は公益法人等)でしたが、いわゆる公益法人制度改革により、約10年前に一般財団法人(法人税法上は非営利型法人ではなく普通法人扱い)に移行しております。

財団法人は一般に、財産の集合体と捉えられ、設立者から拠出された財産を管理運用する目的で運営されていますが、当法人も現金預金ばかりでなく、有価証券や不動産を相当数所有しており、その効果的な運用も常に重要な任務となっております。中でも有価証券への投資はリスクもあり相当慎重に行ってきたところですが、金融機関出身者が理事に就任してからは、その者が専門知識を生かして堅調な投資実績を上げてきており、ひとまず安心といったところです。

ところが、先日、当法人が設立後初めて受けた税務調査で過年度の有価証券への投資が問題となり、困惑しております。すなわち、一般財団法人に移行する前から所有していた有価証券の一部を移行後に譲渡したのですが、その際の譲渡原価の額及び譲渡損益が当法人の申告内容と異なるというのです。当法人は、以下の表のとおり、当該有価証券を移行前に非収益事業に属する資産として40,000,000円で取得し、移行後に25,000,000円で譲渡していることから、譲渡損を15,000,000円計上したのですが、課税庁は、譲渡原価は移行日における税務上の帳簿価額(時価)であり、それは24,000,000円であるとして、譲渡益1,000,000円を計上すべきと主張しております。移行前からずっと保有し続けている有価証券に関し、その譲渡原価を移行日における時価(税務上の帳簿価額)とするのは到底納得がいかないのですが、法人税法上はどのように考えるのでしょうか、教えてください。

〇 有価証券譲渡損益(円)

譲渡対価の額 移行前取得価額 譲渡損益A 帳簿価額 譲渡損益B 25,000,000 40,000,000 △15,000,000 24,000,000 1,000,000

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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

【事例65】

「公益法人等が普通法人に移行した後有価証券を譲渡した場合における当該有価証券の取得価額」

 

拓殖大学商学部教授
税理士 安部 和彦

 

【Q】

私は、九州地方のある県庁所在地に本拠を置く一般財団法人において、理事長補佐を務めております。当法人は、もともとある地元の事業家が成した財産を元手に美術品を管理する目的で設立された財団法人(法人税法上は公益法人等)でしたが、いわゆる公益法人制度改革により、約10年前に一般財団法人(法人税法上は非営利型法人ではなく普通法人扱い)に移行しております。

財団法人は一般に、財産の集合体と捉えられ、設立者から拠出された財産を管理運用する目的で運営されていますが、当法人も現金預金ばかりでなく、有価証券や不動産を相当数所有しており、その効果的な運用も常に重要な任務となっております。中でも有価証券への投資はリスクもあり相当慎重に行ってきたところですが、金融機関出身者が理事に就任してからは、その者が専門知識を生かして堅調な投資実績を上げてきており、ひとまず安心といったところです。

ところが、先日、当法人が設立後初めて受けた税務調査で過年度の有価証券への投資が問題となり、困惑しております。すなわち、一般財団法人に移行する前から所有していた有価証券の一部を移行後に譲渡したのですが、その際の譲渡原価の額及び譲渡損益が当法人の申告内容と異なるというのです。当法人は、以下の表のとおり、当該有価証券を移行前に非収益事業に属する資産として40,000,000円で取得し、移行後に25,000,000円で譲渡していることから、譲渡損を15,000,000円計上したのですが、課税庁は、譲渡原価は移行日における税務上の帳簿価額(時価)であり、それは24,000,000円であるとして、譲渡益1,000,000円を計上すべきと主張しております。移行前からずっと保有し続けている有価証券に関し、その譲渡原価を移行日における時価(税務上の帳簿価額)とするのは到底納得がいかないのですが、法人税法上はどのように考えるのでしょうか、教えてください。

〇 有価証券譲渡損益(円)

譲渡対価の額 移行前取得価額 譲渡損益A 帳簿価額 譲渡損益B 25,000,000 40,000,000 △15,000,000 24,000,000 1,000,000

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連載目次

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説

▷総論

● 法人税の課税所得計算と損金経理(その1~5)

▷事例解説

● 法人税の損金経理要件をめぐる事例解説【事例1~50】

・・・  以下、順次公開 ・・・

筆者紹介

安部 和彦

(あんべ・かずひこ)

税理士
和彩総合事務所 代表社員
拓殖大学商学部教授

東京大学卒業後、平成2年、国税庁入庁。
調査査察部調査課、名古屋国税局調査部、関東信越国税局資産税課、国税庁資産税課勤務を経て、外資系会計事務所へ移り、平成18年に安部和彦税理士事務所・和彩総合事務所を開設、現在に至る。
医師・歯科医師向け税務アドバイス、相続税を含む資産税業務及び国際税務を主たる業務分野としている。
平成23年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野准教授に就任。
平成26年9月、一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻博士後期課程単位修得退学
平成27年3月、博士(経営法) 一橋大学
令和3年4月、国際医療福祉大学大学院医療経営管理分野教授に就任。
令和5年4月、拓殖大学商学部教授に就任。

【主要著書】
・『事例で解説 法人税の損金経理』(2024年・清文社)
・『三訂版 医療・福祉施設における消費税の実務』(2023年・清文社)
・『改訂 消費税 インボイス制度導入の実務』(2023年・清文社)
・『裁判例・裁決事例に学ぶ消費税の判定誤りと実務対応』(2020年・清文社)
・『消費税 軽減税率対応とインボイス制度 導入の実務』(2019年・清文社)
・『[第三版]税務調査と質問検査権の法知識Q&A』(2017年・清文社)
・『最新判例でつかむ固定資産税の実務』(2017年・清文社)
・『新版 税務調査事例からみる役員給与の実務Q&A』(2016年・清文社)
・『要点スッキリ解説 固定資産税』(2016年・清文社)
・『Q&Aでわかる消費税軽減税率のポイント』(2016年・清文社)
・『Q&A医療法人の事業承継ガイドブック』(2015年・清文社)
・『国際課税における税務調査対策Q&A』(2014年・清文社)
・『消費税[個別対応方式・一括比例配分方式]有利選択の実務』(2013年・清文社)
・『修正申告と更正の請求の対応と実務』(2013年・清文社)
・『税務調査の指摘事例からみる法人税・所得税・消費税の売上をめぐる税務』(2011年・清文社)
・『相続税調査であわてない「名義」財産の税務(第3版)』(2021年・中央経済社)
・『相続税調査であわてない不動産評価の税務』(2015年・中央経済社)
・『消費税の税務調査対策ケーススタディ』(2013年・中央経済社)
・『医療現場で知っておきたい税法の基礎知識』(2012年・税務経理協会)
・『事例でわかる病医院の税務・経営Q&A(第2版)』(2012年・税務経理協会)
・『Q&A 相続税の申告・調査・手続相談事例集』(2011年・税務経理協会)
・『ケーススタディ 中小企業のための海外取引の税務』(2020年・ぎょうせい)
・『消費税の税率構造と仕入税額控除』(2015年・白桃書房)

【ホームページ】
https://wasai-consultants.com

             

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