連結会計を学ぶ
【第11回】
「のれんと負ののれんの会計処理」
公認会計士 阿部 光成
Ⅰ はじめに
資本連結では、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本は相殺消去され、消去差額が生じた場合には当該差額をのれん又は負ののれんとして会計処理することになる(「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)24項、59項)。
今回は、のれん及び負ののれんの会計処理について解説する。
なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。
Ⅱ 投資と資本の相殺消去
支配獲得時における資本連結の手続には次のものがある(「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(会計制度委員会報告第7号。以下「資本連結実務指針」という)3項)。
① 子会社の資産及び負債の評価
② 親会社の投資と子会社の資本との相殺消去
③ のれんの計上
④ 非支配株主持分の計上
なお、連結貸借対照表の作成に関する会計処理における企業結合及び事業分離等に関する事項のうち、連結会計基準に定めのない事項については、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号。以下「企業結合会計基準」という)や「事業分離等に関する会計基準」(企業会計基準第7号)の定めに従って会計処理する(連結会計基準19項、資本連結実務指針7-2項)。
1 基本的な考え方
投資と資本の相殺消去に際して、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額の場合には、差額が生じず、のれん又は負ののれんは計上されない。
しかしながら、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額でない場合には、差額が生ずることとなり、当該差額がのれん又は負ののれんとして会計処理される(連結会計基準24項)。
作成のイメージは、おおむね次の図表のとおりである。
【図表:連結貸借対照表の作成プロセスのイメージ】
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2 連結精算表の作成
【設例1:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本が同額のケース】
親会社と子会社の個別貸借対照表は次のとおりとする。
① 親会社の個別財務諸表における子会社株式の取得
子会社株式を取得した時(100%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の親会社の個別貸借対照表に反映済み)。
② 連結財務諸表における投資と資本の相殺消去
子会社株式を取得した時、子会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。
連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別貸借対照表と子会社の個別貸借対照表を単純に合算すると、「子会社株式500」とこれに対応する「資本金400と利益剰余金100」が二重計上となってしまう。
そこで、両者を相殺消去する仕訳を行うことになる。これが投資と資本の相殺消去であり、次のようになる。
本ケースでは、親会社の子会社に対する投資(500)とこれに対応する子会社の資本(500=400+100)が同額であるので、差額は生じず、のれん又は負ののれんは計上されない。
③ 連結精算表
連結精算表は次のとおりである。
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【設例2:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本に差額が生ずるケース(のれんの計上)】
親会社と子会社の個別貸借対照表は次のとおりとする。
① 親会社の個別財務諸表における子会社株式の取得
子会社株式を取得した時(100%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の親会社の個別貸借対照表に反映済み)。
② 連結財務諸表における投資と資本の相殺消去
子会社株式を取得した時、子会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。
連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別貸借対照表と子会社の個別貸借対照表を単純に合算すると、「子会社株式700」とこれに対応する「資本金400と利益剰余金100」が二重計上となってしまう。
そこで、両者を相殺消去する仕訳を行うことになる。これが投資と資本の相殺消去であり、次のようになる。
本ケースでは、親会社の子会社に対する投資(700)とこれに対応する子会社の資本(500=400+100)の間に差額が生ずることから、のれん200(=700-500)が計上される。
③ 連結精算表
連結精算表は次のとおりである。
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【設例3:親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本に差額が生ずるケース(負ののれんの計上)】
親会社と子会社の個別貸借対照表は次のとおりとする。
① 親会社の個別財務諸表における子会社株式の取得
子会社株式を取得した時(100%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の親会社の個別貸借対照表に反映済み)。
② 連結財務諸表における投資と資本の相殺消去
子会社株式を取得した時、子会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。
連結財務諸表の作成に際して、親会社の個別貸借対照表と子会社の個別貸借対照表を単純に合算すると、「子会社株式400」とこれに対応する「資本金400と利益剰余金100」が二重計上となってしまう。
そこで、両者を相殺消去する仕訳を行うことになる。これが投資と資本の相殺消去であり、次のようになる。
本ケースでは、親会社の子会社に対する投資(400)とこれに対応する子会社の資本(500=400+100)の間に差額が生ずることから、負ののれん100(=400-500)が計上される。
③ 連結精算表
連結精算表は次のとおりである。
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Ⅲ のれんの会計処理及び表示
のれんは、企業結合会計基準32項に従って会計処理する(連結会計基準24項)。
のれん又は負ののれん(純額)が発生する企業結合において、契約等により取得の対価がおおむね独立して決定されており、かつ、内部管理上独立した業績報告が行われる単位が明確である場合は、当該業績報告が行われる単位ごとにそれを分解してのれん又は負ののれんを算定し、処理する(資本連結実務指針22項)。
1 のれんの会計処理
のれんは、資産に計上し、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する。ただし、のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる(企業結合会計基準32項)。
のれんは、その効果の発現する期間にわたって償却し、投資の実態を適切に反映させる必要があり、のれんの償却に当たっては、その効果の発現する期間を見積もり、原則としてその計上後20年以内の期間において、子会社又は業績報告が行われる単位(資本連結実務指針22項)の実態に基づいた適切な償却期間を決定しなければならない(資本連結実務指針30項、企業結合会計基準32項、「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第10号。以下「結合分離等適用指針」という)382項)。
のれんの償却に際しては、次の事項に留意する(結合分離等適用指針76項、380項から382-2項及び448項)。
① のれんの償却開始時期は、企業結合日となる(資本連結実務指針31項参照)。
みなし取得日(結合分離等適用指針117項及び121項また書き)による場合には、当該みなし取得日が四半期首であるときには、償却開始は四半期首からであり、四半期末であるときには翌四半期首からとなる。
② のれんを企業結合日に全額費用処理することはできない(ただし、結合分離等適用指針76項(4)の場合を除く(下記④参照))。
③ のれんの償却額は販売費及び一般管理費に計上することとし、減損処理以外の事由でのれんの償却額を特別損失に計上することはできない。
④ 「のれんの金額に重要性が乏しい場合には、当該のれんが生じた事業年度の費用として処理することができる」(企業結合会計基準32項)とされており、当該費用の表示区分は販売費及び一般管理費とする。
⑤ 関連会社と企業結合したことにより発生したのれんは、持分法による投資評価額に含まれていたのれん(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号)11項)の未償却部分と区別せず、企業結合日から新たな償却期間にわたり償却する。
⑥ のれんの償却期間及び償却方法は、企業結合ごとに取得企業が決定する。
2 のれんの減損会計
のれんは「固定資産の減損に係る会計基準」(平成14年8月、企業会計審議会)の適用対象資産となることから、規則的な償却を行う場合においても、「固定資産の減損に係る会計基準」に従った減損処理が行われることになる(企業結合会計基準108項)。
特に、次の場合には、企業結合年度においても減損の兆候が存在すると考えられるときがあるとされているので、実務上、注意が必要である(企業結合会計基準109項、結合分離等適用指針77項)。
① 取得原価のうち、のれんやのれん以外の無形資産に配分された金額が相対的に多額になる場合
② 被取得企業の時価総額を超えて多額のプレミアムが支払われた場合や、取得時に明らかに識別可能なオークション又は入札プロセスが存在していた場合
なお、のれんの減損損失を認識すべきであるとされた場合には、減損損失として測定された額を特別損失に計上することになる(結合分離等適用指針77項)。
3 のれんの表示
のれんは無形固定資産の区分に表示し、のれんの当期償却額は販売費及び一般管理費の区分に表示する(企業結合会計基準47項)。
連結財務諸表に注記する会計方針等には、重要な資産の評価基準及び減価償却方法のほか、のれんの償却方法及び償却期間が含まれる(連結会計基準43項(3)、73項)。
4 子会社株式の減損処理とのれん
資本連結実務指針32項は次のように規定しているので、実務上、当該会計処理に注意が必要である。
なお、のれんの減損処理は、資本連結実務指針33項に規定されている。
32.子会社ごとののれんの純借方残高(連結原則に基づいて会計処理している場合には、借方残高(のれん)と貸方残高(負ののれん)との相殺後)について、親会社の個別財務諸表上、子会社株式の簿価を減損処理(金融商品会計実務指針第91項、第92項及び第283-2項から第285項に従う処理をいう。)したことにより、減損処理後の簿価が連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額を下回った場合には、株式取得時に見込まれた超過収益力等の減少を反映するために、子会社株式の減損処理後の簿価と、連結上の子会社の資本の親会社持分額とのれん未償却額(借方)との合計額との差額のうち、のれん未償却額(借方)に達するまでの金額についてのれん純借方残高から控除し、連結損益計算書にのれん償却額として計上しなければならない。
なお、中間期末及び四半期末(年度末を除く。)において、親会社の個別財務諸表上、市場価格のある子会社株式の簿価を減損処理したことに伴い、連結財務諸表上、当該子会社に係るのれんを償却した場合において、親会社の個別財務諸表上、年度決算や年度決算までのその後の四半期決算において、子会社株式の減損の追加計上又は戻入処理が行われたときは、連結財務諸表上、当該追加計上又は戻入処理を考慮後の子会社株式の簿価に基づき、中間期末及び四半期末に行ったのれんの償却を見直すものとする。
Ⅳ 負ののれんの会計処理及び表示
負ののれんは、企業結合会計基準33項に従って会計処理する(連結会計基準24項)。
1 負ののれんの会計処理
負ののれんが生じると見込まれる場合には、次の処理を行う。ただし、負ののれんが生じると見込まれたときにおける取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、次の処理を行わずに、当該下回る額を当期の利益として処理することができる(企業結合会計基準33項)。
① 取得企業は、すべての識別可能資産及び負債(企業結合会計基準30項の負債を含む)が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直す。
② ①の見直しを行っても、なお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理する。
資本連結実務指針は、負ののれんが生じると見込まれる場合には、まず、すべての識別可能資産及び負債が把握されているか、また、それらに対する取得原価の配分が適切に行われているかどうかを見直し、それでもなお取得原価が受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を下回り、負ののれんが生じる場合には、当該負ののれんが生じた事業年度の利益として処理すると規定している(資本連結実務指針30項、企業結合会計基準33項)。
負ののれんの会計処理に際しては、次の事項に留意する(結合分離等適用指針78項)。
(a) 負ののれんは、原則として、特別利益に計上する(企業結合会計基準48項)。
(b) 関連会社と企業結合したことにより発生した負ののれんは、連結会計基準64項なお書きにより、持分法による投資評価額に含まれていたのれん(「持分法に関する会計基準」11項)の未償却部分と相殺し、のれん(又は負ののれん)が新たに計算される。
2 負ののれんの表示
負ののれんは、原則として、特別利益に表示する(企業結合会計基準48項)。
(了)
【参考】 ASBJホームページ
- 「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号)
- 「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(企業会計基準適用指針第8号)
「連結会計を学ぶ」は、隔週で掲載されます。