酒井克彦の
〈深読み◆租税法〉
【第35回】
「公正処理基準の形成過程と税務通達(その2)」
中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦
Ⅱ 税務通達と公正処理基準(承前)
2 公正処理基準と商法(会社法)(承前)
法人税法22条4項は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準(以下「公正処理基準」ともいう。)に従って、法人所得の金額の計算を行う旨規定している。これは一般に企業会計準拠主義とも呼ばれているが、法人税法において、企業会計の処理として慣習化された基準に従うこととしているのは、私法が慣習法を法源として取り込むことと似ているように思われる。
しかしながら、租税法と商法はその目的を異にするものであるから、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについては疑義があるところである。この点は、この事件〔長銀配当損害賠償事件第一審東京地裁平成17年5月19日判決〕において、原告側から批判的主張が展開されたところでもあるが、東京地裁は、次のように判示し、税法基準を商法上の基準に持ち込むことについて否定的な立場をとってはいない。
税法と商法が本来目的を異にする点は、原告ら主張のとおりであるが、銀行の経営の健全性及び適切性の観点から、適正な決算処理を監督する趣旨で、大蔵省検査に依拠し、不良債権償却証明制度を介して償却・引当を行うとする不良債権償却証明制度により補充される改正前決算経理基準自体もまた、適正な決算処理を確保する趣旨においては、正確な銀行の財務状態及び損益状態の反映という商法の目的にも反していなかったと考えられる。
なお、有税による償却・引当は、償却・引当のコストに加えて同額の納税コストが発生し、銀行の決算を悪化させ、かえって、銀行経営の健全性を揺るがす事態を生せしめると考えられており、このような観点からも、税法基準による不良債権の償却・引当は、銀行の会計実務として定着しており、その内容は合理性を有していた、すなわち『公正なる』ものであったというべきである。
このような判示からは、租税法上の取扱いや実務慣行が何らかの形で商法(会社法)上承認された会計慣行となり得る可能性があることをみてとることができる。
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