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酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第69回】「統計数値が租税法解釈に与える影響(その3)」

筆者:酒井 克彦

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酒井克彦の

〈深読み◆租税法〉

【第69回】

「統計数値が租税法解釈に与える影響(その3)」

 

中央大学商学部教授・法学博士
酒井 克彦

《(その1)はこちら

はじめに

Ⅰ 統計とは何か?

Ⅱ 統計と立法・行政

(1) 標本調査

(2) 統計年報

(3) 国税庁レポート

(4) 法改正の具体例

《(その2)はこちら

Ⅲ 租税法における統計数値が及ぼす影響

1 大島訴訟

2 総評サラリーマン税金訴訟

 

3 サラリーマンマイカー訴訟

統計的視角が租税法の解釈適用に影響を及ぼした例として、いわゆるサラリーマンマイカー訴訟も確認しておきたい。

会計事務所に勤務する給与所得者であるX(原告・控訴人・上告人)は、自家用車(以下「本件自動車」という。)を自損事故により破損させ、修理をすることなくスクラップ業者に3,000円で売却した。Xはかかる売却により、自動車の帳簿価額30万円から売却価額を控除した29万7,000円の譲渡損失が生じたとして、給与所得と損益通算をして確定申告をした。これに対して、税務署長Y(被告・被控訴人・被上告人)は、かかる譲渡損失の金額は給与所得と損益通算をすることはできないとして更正処分を行った。本件は、かかる処分を不服として、Xが提訴したものである。

この事件では、給与所得者であるXにおいて、自家用自動車(以下「マイカー」ともいう。)の譲渡損失について所得税法69条《損益通算》1項に基づく損益通算をし得るか否かが争点とされた。

具体的には次のような争点となる(以下では、主に争点(2)に関する部分を確認する。)。

(1) 一般的な家庭用資産は、①「生活に通常必要な動産」(所法9①九、所令25)、②「生活に通常必要でない資産」(所法62、所令178①三)、③ ①②のいずれにも属さない「一般資産」に該当するとし、その譲渡損失は損益通算ができると解すべきか。

(2) 給与所得者の有する有形固定資産は、①「生活の用に供する資産」、②「収入を得るために用いられる資産」に大別できるとし、本件自動車は②の資産に該当することから譲渡損失の金額は損益通算することができると解すべきか。

ここでは、当時の我が国における車の保有割合などにも触れられているので、その辺りに関するXの主張を見ておこう。

すなわち、Xは、「自動車化社会の進行実態と自家用乗用車の果す機能」として、「昭和35年以降、とりわけ現行所得税法が制定された昭和40年以降今日まで、・・・交通手段としての自動車の機能は飛躍的発達をとげ、いわゆる自動車化社会(モータリゼーション)がもたらされた。この事実は以下指摘する統計的数値によっても具体的に明白である。」として、各種数値を挙げつつ次のように論じている。

(イ) 自動車保有台数の推移

昭和35年から昭和45年にかけての我国の自動車保有台数は、345万3,000台から1,958万7,000台へと飛躍的に増大し、更に昭和50年度におけるその増加率を見ると、昭和35年に対比すれば約15倍、昭和40年に対比すれば約4.4倍と急激な上昇を示し、昭和40年以降、急激な上昇の一途をたどっている。

(ウ) 乗用車の普及率

自動車中、商業車を除く乗用車(本件自動車が含まれる。)の普及率を見た場合、我国の昭和48年度においては、1,000人あたり133.6台、つまり7.48人あたり1台の普及率であり、一世帯平均4人と仮定すると2世帯に1台の割で乗用車を保有していたこととなる。

他面、1976年度(昭和51年度)の日本統計年鑑(総理府統計局編)においても昭和50年度の乗用車普及率が41.2パーセントであるから、昭和48年から同50年にかけてほぼ2世帯に1台の割で乗用車が普及していたことは明らかである。

Xは、上記のような統計数値を用いることで、まず、全国的にマイカーの普及率が高いことを主張する。

そして、「兵庫県統計書(兵庫県編)」を参考に、「登録自動車台数の種類別比較」として、自らの居住する同県におけるマイカーの所有状況を明らかにしている。

昭和52年度の兵庫県統計書(兵庫県編)によれば、昭和50年度の兵庫県における総自動車台数は111万1,532台であり、その内乗用車である普通車、小型乗用車、軽四輪車の合計台数は66万8,154台である。更に乗用車中、自家用乗用車のみの台数を見た場合、65万8,692台となる(軽四輪車は通常自家用のみにしか使用されないものと考えられる)。本件自動車同様、いわゆる「マイカー」といわれる自家用乗用車の台数は右のとおり兵庫県の昭和50年度における総自動車台数の59パーセント強、又、乗用車全体の中で自家用車の占める率は98.5パーセントであった。

また、「交通手段別に見た利用率の推移」として、普及率等のみならず、各交通手段別のうち、自動車の利用率の変化にも着目する。

以上の保有台数、普及率の点のみならず、人の移動における各種交通手段別の利用率の推移における自動車の占める割合にも顕著な現象が見られる。

すなわち、我国の国内交通手段別に見た旅客人キロの推移、つまり人が移動(貨物輸送に対し)する際の交通機関の利用率の推移をみると、本件更正処分時の直近である昭和49年と対比した場合、乗用車利用の総キロ数は、昭和35年から見れば約20倍、昭和40年から見れば5.5倍と飛躍的に増大し、昭和49年においては全交通機関中乗用車の利用率は最多で32.9パーセントを占めるにいたった。

更に、その中で自家用車の占める利用率の推移をみると、昭和35年から昭和49年にかけて運んだ人員数及び総キロ数のいずれの点から見ても自家用車の比率が十数倍と極端に増大している。

加えて、「目的別、手段別に見た移動の割合について」として、いかなる目的の為にいかなる交通手段を利用したかという点を統計数値を用いて主張する。ここでは、「金沢都市圏パーソントリップ調査報告書」による数値を参考にしているようである。

「金沢都市圏パーソントリップ調査報告書」(昭和50年)に基づき、金沢市における5才以上の総人口44万1,729人が、1974年度にいかなる目的の為にいかなる交通手段を利用したか、その1回毎の移動を「1トリップ」として、全移動総数中、目的及び交通手段の占める割合を示した統計によれば、総トリップ数中、自動車を利用しての目的を問わない合計トリップ数は38.8パーセントであり、かつ、目的別に通勤目的の合計トリップ数15万3,831回の内自動車を利用しての通勤が45.7パーセントを占めると示されている。これから、他の徒歩、二輪、国、私鉄のいずれに対比しても、通勤手段の中で自動車が占める割合が群を抜いて高いことが明らかである。さらに右統計は、5歳以上の人口を対象としていることから、運転可能な年令層の中での自動車利用によるトリップ数の割合は更に著しく増大すると推測できる。また前記兵庫県における種類別自動車台数の統計表によれば、通勤に通常利用可能な「乗用車」中、自家用乗用車が98.5パーセントを占めることから見ても、自動車を利用しての通勤のトリップ割合45.7パーセントの大半が自家用乗用車を利用するものと見ることができる。

要するに、ごく簡潔にXの主張をまとめれば、通勤目的としてマイカーが利用される度合いの高さは各種統計数値より明らかであるということである。一般的に、給与所得者の通勤にとって、マイカーは、鉄道と同等あるいはそれ以上の必要性があるという。

以上の各種統計数値を総合すれば、高度の自動車化社会の進行の中で、今日においてはもちろんのこと、昭和50年ころにおいても、自家用乗用車はその本来的用法からして通勤手段(全区間あるいは一部区間共に)又はこれに付加して業務あるいはその補助手段に利用するのがむしろ通常と言いうる社会生活実態と社会認識が存在していたものである。給与所得者にとって必然的な通勤行為における自家用乗用車の利用実態及びその不可避性は、国私鉄と同等あるいはそれ以上とも言い得るものであって、とりわけ、ドーナツ化現象といわれる人口の大都市周辺部への拡散傾向の中で、大都市近郊に居住する給与所得者にとって右必要性はより大きいものがある。

そして、Xにおける本件自動車使用状況は、とりわけ本件自動車を業務及び通勤に使用した割合を走行距離でみるならば、約65パーセントと50パーセントを超えているなどとして、「通勤にXが本件自動車を使用したことは、社会通念から見ても十分に是認せられるべきものである。」とする。

そして、結論として、本件自動車は「収入を得るために用いられる資産」に該当し、損益通算の対象となるとするのである。

更に、自動車化社会と言われる今日、給与所得者が全区間あるいは一部区間通勤手段として自家用自動車を使用することは、とりわけ大都市周辺に居住する者にとって、むしろ通常といい得る社会的背景・・・を考慮すれば、本件自動車は「収入を得るために用いられる資産」に該当する。

したがって、本件自動車の譲渡損失については法69条1項に基づき損益通算を認めるべきである。

もっとも、本件神戸地裁において、本件自家用車は「生活に通常必要な動産に該当する」と判断されたところであり、上記の主張にあるような「収入を得るために用いられる資産」という概念に該当するとは判示されていない。

Xは、給与所得者の保有する有形固定資産について、「生活の用に供する資産」と「収入を得るために用いられる資産」とに分けられると主張した上で、本件自動車は後者に該当するという(予備的主張)。

【図表4:給与所得者の保有する有形固定資産(Xの主張)】

しかしながら、このような解釈を条文から導きだすには、やはり文理上のハードルが高いといわざるを得ず、かような解釈論は結局のところ否定されたのである。

他方で、上記のような主張に意味がなかったかというと必ずしもそのように解する必要はないのではなかろうか。

ここで、神戸地裁が次のように述べているところを確認しておきたい。

そこで、本件自動車の譲渡損失の金額を給与所得の金額から控除すべきかにつき検討するに、前記認定事実・・・によれば、Xは給与所得者であるが本件自動車の使用状況も大崎事務所への通勤の一部ないし全部区間、また勤務先での業務用に本件自動車を利用していたこと、本件自動車を通勤・業務のために使用した走行距離・使用日数はレジャーのために使用したそれらを大幅に上回っていること、車種も大衆車であることのほか現在における自家用自動車の普及状況等を考慮すれば、本件自動車はXの日常生活に必要なものとして密接に関連しているので、生活に通常必要な動産(法9条1項9号、令25条)に該当するものと解するが相当である。

このように、判決においても現在における自家用自動車の普及状況が考慮の対象とされていることを踏まえれば、Xの参考とした数値が誤りであったことから解釈が否定されたというわけではないともいえよう。

判決は、現在における自家用自動車の普及状況がどのような状況であったかという点について触れておらず、この点については必ずしも明らかではないものの、普及状況が低いと判断していないであろうことは、当該自家用車が「生活に通常必要な動産」と認定されたことからも明らかである。

すなわち、ここでは、統計数値を租税法解釈にいかに用いるかが判断の分水嶺となったといえるのではなかろうか。

この点は、上記2 総評サラリーマン税金訴訟最高裁判決(前回参照)において、「上告人〔筆者注:納税者〕らは、もっぱら、そのいうところの昭和46年の課税最低限がいわゆる総評理論生計費を下まわることを主張するにすぎないが、右総評理論生計費は日本労働組合総評議会(総評)にとっての望ましい生活水準ないしは将来の達成目標にほかならず、これをもって『健康で文化的な最低限度の生活』を維持するための生計費の基準とすることができない」と示されているところと異なるといえよう。

総評サラリーマン税金訴訟最高裁判決においては、納税者らが主張の基礎とした統計数値は基準たり得ないとして否定されているわけであるが、本件においては、統計数値を用いていかに租税法解釈を行うべきか否かが争われたものとも整理できるように思われる。

(もっとも、本件事案は控訴され、大阪高裁昭和63年9月27日判決(高民集41巻3号117頁)においては、当該自家用車が「生活に通常必要でない資産」に該当することから損益通算が制限されると判断され、上告審最高裁平成2年3月23日第二小法廷判決(集民159号339頁)は、控訴審判断を維持している。 )

 

結びに代えて

本稿では、統計数値が租税法解釈に与える影響を考察するに当たり、大島訴訟、総評サラリーマン税金訴訟、サラリーマンマイカー訴訟を取り上げたが、ここで取り上げきることのできなかった事案も数多い。

例えば、いわゆる藤沢メガネ訴訟などもその一例である。

同事件は、近視及び乱視矯正用の眼鏡及びコンタクトレンズの購入費用並びに右購入に当たり医師がした検眼費用は、所得税法73条《医療費控除》の対象とならないとされた事例であるが、第一審横浜地裁平成元年6月28日判決(行集40巻7号814頁)は、「眼鏡等を装用している者が4,000万人にも昇る」ことや「わが国で多くの者が眼鏡店における検眼により眼鏡等を装用し、しかもこれが医療行為として規制されずに容認されていたという事情」などを認定し、眼鏡の購入費用等の医療費控除該当性を否定している。

ここでは、メガネの装着が社会的に一般的であるという統計的視角を裁判所が採用したといってもよいであろう。

また、実務的にも争いの生じやすい不相当に高額な役員報酬該当性の判断においても、統計数値は極めて重要な判断基準となる。

すなわち、「不相当に高額」であるか否かについては、当該役員の職務の内容や法人の利益等を勘案するのみならず、同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する支給の状況等が加味されるわけであるが、実務上、かかる類似法人での役員報酬の支給状況については様々な統計数値が存在しているところである。

なお、この点に関し、東京地裁平成28年4月22日判決(税資266号順号12849)は、「一般に公表された統計等により、法人の規模や業務に応じた役員報酬ないし役員給与の傾向ないし概要を把握することは可能であることが認められるところ、このことからすれば、同事項についても入手可能な資料等から一定程度の予測は可能であるというべき」であるとして、法人税法34条《役員給与の損金不算入》2項の委任をうけた同法施行令70条《過大な役員給与の額》の規定は、「法律により委任された課税要件を規定したものとして一般的に是認し得る程度に具体的で客観的なものであるというべきである。」などと判示している。

租税法は、課税の公平を実現するために、あえて「不確定概念」と呼ばれる概念を用いていることがあるが、「一般」や「通常」、「相当」というような不確定概念の解釈においては、その客観的裏付けとして統計数値を用いることがある。

こうした局面において、総評サラリーマン税金訴訟のように、いわば自己の解釈に都合のいい統計数値を用いることが認められないことはいうまでもないが、サラリーマンマイカー訴訟のように、統計数値の内容こそ正しくとも、その数値を用いていかに合理的な租税法解釈を行うべきかについては慎重な判断が求められることを指摘することができよう。

このように統計数値により検討される概念についての解釈適用論は、併せて「社会通念」の所在を探る旅であることもある。すなわち、不確定概念を社会通念で理解する際に、統計数値が用いられることもあり得よう。

次回からは、「社会通念」が租税法解釈に及ぼす影響について検討してみたい。

(了)

「酒井克彦の〈深読み◆租税法〉」は、毎月第2週に掲載されます。

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筆者紹介

  • 酒井 克彦

    (さかい・かつひこ)

    法学博士(中央大学)。
    国税庁等での勤務を経て、現在、中央大学商学部教授として、学部のほか大学院やロースクール等でも教鞭をとる。
    一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。

    一般社団法人ファルクラム http://fulcrumtax.net/
    一般社団法人アコード租税総合研究所 http://accordtax.net/

    【著書】
    「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈―判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』(2015年、清文社)
    「相当性」をめぐる認定判断と税務解釈―借地権課税における「相当の地代」を主たる論点として』(2013年、清文社)
    『スタートアップ租税法〔第3版〕』(2015年)、『クローズアップ保険税務』(2016年)その他5冊のアップシリーズ(財経詳報社)
    『裁判例からみる所得税法』(2016年、大蔵財務協会)
    『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(2017年、大蔵財務協会)
    『レクチャー租税法解釈入門』(2015年、弘文堂)
    『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕、Ⅱ〔第2版〕』(2018年、中央経済社)
    『アクセス税務通達の読み方』(2016年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -法人税裁判事例精選20』(2017年)、『税理士業務に活かす!通達のチェックポイント -所得税裁判事例精選20』(2018年、第一法規)
    『30年分申告・31年度改正対応 キャッチアップ仮想通貨の最新税務』(2019年、ぎょうせい)
    その他書籍・論文多数

     

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